第318話 王都でデート ~ヤキモチ~


「あ、アレクさん……」

「ユイト……、ごめん……」


 アレクさんの苦々しい表情を見つめながら、僕はその腕をキュッと掴む。

 僕はいま、何故か見知らぬ屈強な体躯の人達に取り囲まれている真っ最中だ。

 楽しく街を散策していた筈なのに、どうしてこうなってしまったのか……。



 教会を出た後、二人で街を軽く散歩しながらお店を見て回っていると、アレクさんのうわっと呟く声が聞こえてきた。

 その視線の先を見ると、こちらに向かって歩いてくる人達が……。服装から察するに冒険者さん達だと思うんだけど、アレクさんは諦めた様に深~い溜息を吐いていた。



「ふぅ~ん……? この子が噂のねぇ~……」

「おい、ミゲル。ユイトにそんな近付くな」

「あら、いいじゃない! ケチねぇ~!」


 お知り合いですかとアレクさんに声を掛ける前にあっという間に取り囲まれ、僕は今、至近距離で逞しい女性(?)四人組に質問攻めにあっていた。


「お肌ツルツルじゃな~い! お手入れに何を使ってるの~?」

「エルマー、勝手に触るな」

「やだ、お手入れの方法訊いてるだけじゃないの~!」

「見かけない髪色だけど、艶々してるわね! と~ってもキレイ!」

「マルコ、ユイトの髪に触れるな」

「やだ、も~! アレクってば固いんだから~!」

「お前らが緩すぎんだろ……」

「ん~? ……ちょっと! なんかこの子、イイ匂いする~!」

「モーリッツ、匂いを……」


「「「え~? ……やだ、ホントだわ~~~!」」」


「勝手に匂いを嗅ぐな!」


 アレクさんも一緒に取り囲まれ、最初は抵抗していたけど今はすっかり諦めた様だ。


「えっと、お手入れとかは特に……。普通の石鹸を使ってます。髪色は弟たちも同じで……。匂いはちょっと分からないですけど……。あ、さっき林檎メーラ食べたからかな?」


 蜜がたっぷりの甘いメーラだったからかも知れない。アレクさんに匂いしますか? と訊いてみると、匂いを確認しようと僕に顔を近付けただけでキャアキャアと少し太めの悲鳴が上がる。

 すれ違う人達も慣れている様子で、笑いながらアレクさんに頑張れと声を掛けていた。


「皆さんはアレクさんのお友達ですか?」


 こんなに賑やかな人達は、村でもなかなかいないからちょっと楽しい。あのイドリスさんも負けちゃうんじゃないかな?

 それに何となくだけど、良い人たちみたいだし。


「ワタシ達~? そうね、アレクのお友達と言っても過言じゃないわね~!」

「こ~んなにイイ男に育っちゃってねぇ~!」

「冒険者になりたての頃は小生意気だったわよね~!」

「あら、今もそうじゃない!」

「「「確かに~!」」」

「マジで止めろ……!」


 息のあった四人の掛け合いに、思わず笑みがこぼれてしまう。これはアレクさんも負ける筈だ。

 そんな僕を見て、ミゲルさん達はなぜか可愛いと大騒ぎしていた。






*****


「あ~、楽しかった!」

「オレはドッと疲れたけどな……」


 ミゲルさん達の掛け合いが面白くて、ついつい道端で立ち話をしてしまった。アレクさんの冒険者になりたての頃の話は残念ながらアレクさん本人に邪魔されて聞かせてもらえなかったけど。


「ハァ……。ユイト、昼時だしそろそろメシ食いに行こう」

「あ、僕もお腹空いてきました!」

「この通りの向こうによく行くとこがあるんだ。ちょっと店は古いけど、味は保証する」

「そうなんですか? 楽しみです!」


 少し疲れた様子のアレクさんと一緒に、目的のお店までのんびり歩くことに。

 お腹もいい感じに空いてるし、お昼も楽しみだ。


「……ん? アレクさん、あれ何ですか?」


 道を進むと、建物の間からチラリと覗く真っ白な壁と青い屋根の建物。ここからでも分かるくらいキレイな建物だ。


「え? あぁ、王宮だよ。王都の丁度ど真ん中に建ってるんだ」

「あれが……。初めて見ました……」


 あれがライアンくんとバージルさんが住んでいるお城……。あそこでもうすぐ料理を教えるなんて、今更ながら凄い事を頼まれたんだと胸がドキドキしてくる。


「ユイト、もうすぐ城に行くんだろ?」

「そうなんですけど……。あそこに行くと思ったら、ちょっと緊張しちゃいますね……」

「……騎士団の寮にも行くんだろ?」

「そうです。たくさんいるらしいんで、アーロさんとディーンさんにも手伝ってもらうんですけど」


 そう言うと、アレクさんは黙ったまま。

 ふと隣を見ると、その唇を少し尖らせている。


「……どうしたんですか?」

「……別に」


 そうは言っても、明らかに拗ねている様な……。

 もしかして……。いや、まさかなぁ。でも、さっきと態度も違うし……。


「……もしかして、騎士団寮に行くのが嫌なんですか?」

「……」

「……ヤキモチ、ですか?」


 返事を促す様に繋いだ手をくんと引き寄せると、アレクさんはこちらに視線を向けないまま、観念した様に頷いた。

 まさかそんな事で……、とは思ったけど、僕もアレクさんが女性ばっかりの場所に行ったら心配かも知れない……。

 でもまさか、アレクさんがヤキモチ……。


「……ふふ」

「……何で笑ってんの」

「いえ、可愛いなぁと思って。……つい」


 可愛くないと言いながらアレクさんはまた唇を尖らせていたけど。

 こんな事を言ったらまた拗ねるかなと思いながら、僕はこれはこれでちょっと嬉しいかもしれないとアレクさんの隣で頬が緩むのを必死で隠していた。


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