第275話 ドラゴンさんは怖くない!
木々が生い茂る深い森の中を走り続け、暫くすると馬車がゆっくりと減速するのが分かった。
今日は寒いから、少し早めに野営地を決めたみたいだ。
「よし! 早速やろう!」
「「「はぁ~い!」」」
「あ~ぃ!」
「クルルル~?」
僕たちが外に出ると、ドラゴンも幌の隙間から顔を覗かせる。
おいで、と皆で呼ぶと、嬉しそうに馬車から降りてきた。
「今からキミに覚えてほしい事があるんだ!」
「クルルル?」
ドラゴンの顎を撫でながらそう言うと、僕の言葉に首を傾げている。
「とっても、たのしいです!」
「いっちょにおぼぇよ!」
「クルルル!」
意味は分かってなさそうだけど、ハルトとユウマの楽しそうな雰囲気に釣られて尻尾を振っている。上手くいくといいんだけど……!
「よ~し……! ではまず、お手本を見せます! ハルト~!」
「はぁ~い!」
ハルトは熊耳のポンチョを着て僕の前に駆け寄り、ドラゴンにみててね! と伝えている。
「まずは“お手”!」
「おて!」
僕の差し出した左手に、ハルトが右手をポンとのせる。
それを何度も繰り返し見せて、次はドラゴンの前に膝を付いて座る。
「こんどは、どらごんさんです!」
「上手く出来るかな~?」
「クルルル……!」
僕とハルトの顔を交互に見て、楽しそうに鳴いている。
少しは興味を持ってくれたのかも……!
「よ~し、いくよ~? “お手”!」
ドラゴンは僕の顔と差し出した左手を交互に見て、ソワソワとお尻を動かしている。
「どらごんさん、おてて、ここです!」
ハルトが隣で自分の右手をポンとのせる。
すると、ドラゴンは恐る恐る僕の左手に前足を置こうとしていた。
声に出したいけど、ちゃんと置くまで我慢、我慢……!
「クル……」
ドラゴンは僕と差し出された手を何度も見て、ゆっくりと前足を上げる。
そして……、
ぽむ
「お……」
「「「「おいたぁ~~~っ!」」」」
ドラゴンはしっかりと僕の左手に前足を置いていた。
「すごぉ~い!」
「どらごんさん、できました!」
「しゅごいねぇ~!」
「きゃ~ぃ!」
見守っていたレティちゃんたちも歓声を上げて喜んでいる。
思わず皆で褒めながらワシワシと頭や体を撫でると、ドラゴンも嬉しそうにギャウギャウと声を上げて尻尾を振りだした。
よし! コレを忘れない様に、何回か成功させよう!
「じゃあもう一回できるかな~? いくよ~? “お手”!」
「クルルル……!」
ぽむ
「できたぁ~!」
「ギャウ! ギャウ!」
二回目も成功し、僕たちは皆ですごい、すごい! と大合唱。
ドラゴンも得意気に鼻をふんふんと鳴らしていた。
*****
「どうしたの~? 随分と賑やかね?」
僕たちの歓声が気になったのか、男の子に寄り添っていたオリビアさんが馬車からゆっくりと降りてくる。
「あ! おばぁちゃん! みて!」
「どらごんしゃんねぇ、しゅごぃの!」
「あらあら、なぁに?」
ハルトとユウマに手を引かれ、オリビアさんは僕たちの下へ。
僕たちの周りには、トーマスさんやドリューさん達も集まっている。何か楽しそうな事してるなとは思ったけど、と言いながらオリビアさんも興味はあるみたい。
「オリビア、これは凄いぞ」
「見たら驚きます!」
「トーマスもブレンダちゃんも……? 一体何してるの?」
「この子、頑張ったんですよ! オリビアさんにも見てもらおっか?」
「クルルル!」
うん! ドラゴンもやる気十分の様子!
僕とドラゴンは、オリビアさんの前に移動する。
「よ~し! いくよ~? まずは~、“お手”!」
「クルルル!」
最初に覚えたお手はもう完璧!
右、左、右と、手を交互に変えても完璧にマスターしてる!
オリビアさんも口を押さえて驚いてるな~! よしよし……!
「よし! 次はぁ~……、“伏せ”!」
僕が手の平を下に向けて下げると、ドラゴンはぺたりと地面に伏せ、上目遣いでどう? と得意気な表情を浮かべている様に見える。
尻尾は楽しいのを我慢出来ないみたいで、ず~っとフリフリ。
ハルトとユウマも一緒にしゃがみ、きゃっきゃと楽しそうだ。それを見ていたトーマスさんは唇を噛み締めている。
「上手だね~! よ~し、次はぁ~、“ちょうだい”!」
伏せの状態から立ち上がり、尻尾を上手に使って体を支えている。
前足を合わせてちょうだい! と、可愛くおねだりのポーズだ。
ドラゴンとハルト、ユウマと一緒に、今度はメフィストもちっちゃな両手を合わせてちょうだいのポーズ。
これを見ていたブレンダさんは、口元を隠して咳払いをしている。
「まだまだいくよ~! “おまわり”!」
今度はちょうだいの姿勢から少しだけお尻を浮かせる。
そしてハルトとユウマも一緒になって、ぴょんぴょん跳ねながら皆一緒に一回転。
レティちゃんもメフィストを抱えてゆっくり回り、皆でにっこり笑っている。
その可愛らしい光景に、ドリューさん達も頭を抱えたり口を押さえたりと忙しそうだ。
「次はちょ~っと難しいかなぁ~? せぇ~の、“バンッ”!」
「クルルルゥ~……」
僕が指で撃つ格好をすると、ドラゴンは悲しそうな鳴き声を上げて、ぺたりと倒れ込んでしまった。
レティちゃんに抱えられて見ていたメフィストは、それを見て悲しそうな声を上げる。
「よし! これで最後だよ~! “ハイタッチ”!」
倒れ込んでいたドラゴンがパッと起き上がり、僕の差し出した手を見て、自分の前足をぽむ! と合わせる。
そしてハルトとユウマ、レティちゃんが支えているメフィストの差し出した手にも、ぽむ! と前足を合わせてお披露目は終了!
良く出来ました! とご褒美の
うん! 結構上手くいったよね!
「オリビアさん、どうですか!?」
「どらごんさん、じょうずに、できました!」
「しゅごぃでちょ!」
「これなら、おうとにいってもだいじょうぶ!」
「あ~ぷ!」
僕たちの問いかけに、オリビアさんは口元を押さえてぷるぷると震えている……。
「おばぁちゃん……?」
「どぅちたの~?」
「クルルル~……?」
ハルトたちの心配そうな声に、オリビアさんは漸く口を開いた。
「皆……、と~っても上手だったわ……!」
「ほんとう~!?」
「うれちぃねぇ!」
「クルルル!」
ハルトとユウマはその言葉を聞いて、ドラゴンに抱き着いて撫で始めた。
ドラゴンも気持ち良さそうに目を細めている。
「これなら検問でも大丈夫そうですか?」
「うふふ、そうね!」
「よかったぁ~!」
オリビアさんの言葉に、僕たちはホッと胸を撫で下ろす。
「ん~……。でも~、私たち元々陛下に呼ばれてるんだから、その心配はないんじゃない?」
「……え?」
「だって、ほら……。“特別通行許可証”も貰ってるでしょ?」
オリビアさんはトーマスさんに確認を取ると、今気付いたとばかりにトーマスさんは気まずそうに顔を背ける。
「……それって、
「ん~。厳密に言うと、この許可証を持っている人は、お城の客人としてお招きしているからすぐに入れますよ! って事なんだけどね? これがあれば同行してる人も積み荷も、時間が掛からずに通してもらえるの」
「へぇ~!」
そんな便利な物があったのか……! 僕宛てにもきてるって言われてちょっと驚いたけど、料理を教えるのに呼ばれてるからかな……? そんな凄い物、緊張してしまう……。
「クルルル~?」
「ふふ! あまりに狂暴とかなら時間は掛かっちゃうけど、この子なら大人しいし大丈夫じゃない?」
そう言いながら、オリビアさんはドラゴンの頭を優しい手つきで撫でている。
「それにこっちにはトーマスでしょ? 護衛にブレンダちゃんとドリューさん達もいるし……。実質Aランクパーティみたいなものじゃない? 押さえられる人がいるなら通行料だけ払えば大丈夫よ! それにあんなにおっきなサンプソンもセバスチャンもいるし、もう一頭くらい加わっても平気そうだけど~……」
ねぇ? とトーマスさんに訊ねるオリビアさん。
“許可証”を持っていた事をすっかり忘れていたトーマスさんを見つめる、ブレンダさんたちの目が何とも言えない……。
「でもさっきのは本当に可愛かったわ! これは皆に見せてあげたいわね~!」
「じゃあ、その許可証を持ってて、尚且つ検問で危なくないって証明出来れば……」
「ふふ! 王都の中に入っても、な~んにも心配要らないわね?」
「そっか……!」
門番さんたちに危険はないって証明済みって事だもんね……!
この子も堂々と街を歩けるんだ!
「こうなったら、門番さんたちに練習の成果を見せてみよう!」
「クルルル?」
「そうすれば、みんなであそべるね!」
「どらごんさん、がんばりましょう!」
「ゆぅくんも、おぅえんしゅるね!」
「クルルル!」
「皆で頑張ろう! えいえい?」
「「「お~っ!」」」
「あ~ぃっ!」
どうせならもっと上手になって、あの男の子を驚かせたいな……。
喜んでくれるといいんだけど!
「トーマスさん……、そんな凄い物持ってるなんて……」
「オレたちの決意は……」
「す、すまん……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます