第276話 トッピングは、ご自由に
「皆、お待たせ……! 遅くなってごめんね……」
夕食を取った後、馬車の中に戻ってノアたちの食事の時間。男の子が寝入っているのを確認し、小声で皆を呼び、準備しておいた料理を広げていく。
《 ごはん~! 》
《 あっ! だしまきたまご~! 》
《 やったぁ~! 》
待ってましたとばかりにノアたちが姿をポンッと現した。
今日の夕食は皆も気に入っている出汁巻き卵と、焼きミニトマト、茄子のみぞれ餡かけ。ノアたちは早速いただきますと元気よく手を合わせて、オリビアさんとレティちゃんにも手伝ってもらってパクパク頬張っている。
ドリューさん達にはこれに塩むすびもあったんだけど、ドリューさんは塩むすびが好きみたいでかなりご機嫌だった。これに魚とお味噌汁もあったらなぁ~……。ハァ……、魚が食べたい……。
「ユイトくん、溜息なんか吐いてどうしたの?」
「あ、いえ……。魚が食べたいなと思って……」
「あら、食べる事考えてたのね……。ふふ、緊張してるのかと思っちゃったわ」
「えへへ……。緊張もありますけど、今は楽しみの方が大きいです……!」
王都には村には無い様なお店もたくさんあるだろうし、ネヴィルさんが集めた食材も見せてもらえるし……!
イーサンさんが手配してくれた家も、どんな所か気になるなぁ~……。
「あぁ~……。心配と言えば、ライアンくんと遊べるかどうかですね……」
ハルトもユウマもすっごく楽しみにしてるから、出来ればたくさん会えるといいんだけど……。
「そうねぇ……。まぁ、お料理を教える時に会えるとは思うけど……」
「二人とも楽しみにしてるからなぁ……。手紙も送ってたし……」
お別れの日の二人の泣き顔はもう見たくないなぁ……。
「陛下にも手紙書いてたものねぇ……。ちゃんと届いてるといいんだけど……」
「ですよねぇ……」
「「ハァ~……」」
オリビアさんも二人の悲しそうな顔を思い出したのか、僕の溜息と重なった。
「……しんぱい、いらないとおもう」
「「え?」」
ニコラちゃんたちにご飯をあげていたレティちゃんが不意に漏らした言葉。
「だって、らいあんくん……。はるくんとゆぅくん、だいすきだもん」
ね? と訊かれたニコラちゃんたちも、うん! と元気よく相槌を打つ。
《 だってね、おわかれのときも、おねがいされたもん 》
《 ね! おはな、たくさんふらせてって! 》
《 おもいでつくるっていってた! 》
《 あっ! ないしょだった……! 》
《 《 あっ……! 》 》
らいあんにはないしょね! と慌てながらお願いしてくるニコラちゃんたち。
まさかあの空から降ってきた花びらの演出が、ライアンくんがハルトとユウマの為にお願いした物だったなんて……。
「何だか、大丈夫な気がしてきました……」
「奇遇ね……。私もよ……」
だからいったのに、とレティちゃんは笑っている。
三人が再会する日はどうなるんだろうな、とちょっと楽しみになってきたかもしれない。フレッドさん達も元気かな?
……フレッドさん、相変わらず苦労してそうな気がするなぁ……。
*****
出発して五日目の朝。
昨日よりはマシだけど、今朝も少し肌寒い。
ハルトとユウマも、テントの中で毛布に包まり丸くなっている。
二人を起こさない様に僕の毛布も上から被せ、そっとテントを出た。
「あっ! セバスチャン、おはよう~!」
《 ユイト、おはよう。……まだ早いんじゃないか? 》
僕たちのテントの近くにある木の枝では、セバスチャンが羽を休めていた。
昨夜も僕のご飯を食べた後に餌を狩りに行ってたみたい。
「今日着くかもしれないと思ったら目が覚めちゃった」
《 そうか。途中で眠くならない様にな 》
「はぁ~い」
そう言うと、セバスチャンは目を瞑り微動だにしない。
……本当に置物みたい……。
《 む……? 今なにか…… 》
おっと、危ない危ない……! バレる前に足早にその場を離れる。
「メルヴィルさん、ミックさん、おはようございます!」
「おはよう、ユイトくん」
「おはよ!」
お二人は丁度、サンプソンたちに水をあげてくれているところだった。
ふとミックさんがソワソワしている事に気付く。
目が合うと、満面の笑みを僕に向けた。
「ユイトくん! 今日もご飯、楽しみにしてるなっ!」
「こら、ミック!」
「ふふ、美味しいご飯、用意しますね!」
「やったっ!」
がんばろ~! と喜ぶミックさんに、朝から元気だなぁと感心してしまう。
期待されてるみたいだし、今朝は何にしよっかなぁ~?
「サンプソンも、皆もおはよう!」
《 おはよう、ユイト 》
「ブルルル……」
《 この子達もおはようと言ってるよ 》
「皆にも、美味しい野菜用意してるからね!」
そう言うと、皆嬉しそうに尻尾を振っていた。
ジョージさんに選んでもらった野菜、皆美味しそうに食べてくれるからなぁ~。
もう残り少ないし、王都に着いたら野菜もいっぱい買い足さなきゃ。
「ん~、今朝は~、何にし・よ・う・か・なぁ~……」
トーマスさんの
あ、時間が無くて焼いたまんま入れたのもあるな……。
ん~……。
折角だし、これから使っちゃお。
*****
「にぃに~! おはよ!」
「おにぃちゃん、おはよう~!」
「あ、二人ともおはよう!」
ハルトとユウマは二人で仲良く手を繋ぎ、朝食を準備する僕の下へと駆けてくる。二人が起きてきたのをきっかけに、テントで休んでいたブレンダさんやドリューさん達も続々と起きてきた。
レティちゃんは馬車にいるね、と声をかけに来てくれたから、後で男の子のお粥と一緒に、オリビアさんとレティちゃんの朝食も持って行こう。
「あさごはん、なんですか?」
「なぁに~?」
「ん~? 今朝の朝食の具材はこれだよ~。二人とも何か分かるかな?」
「「ん~?」」
僕が訊いてみると、二人とも真剣な顔で並んでいる食材を眺めている。
お店でも手伝ってくれるから、すぐに分かっちゃうかな?
「おやさいと、はんばーぐ……」
「はるくん、ぱんもある!」
「ほんとです! ……あっ! わかった! ゆぅくんは?」
「ゆぅくんもねぇ、ちょっとわかった!」
まちがいないです! と目をキラキラさせるハルトとユウマ。
これはちょっと簡単だったかな?
「せぇ~の、」
「「はんばーがー!」」
「……せいかぁ~い!」
「「やったぁ~!」」
二人の言う通り、僕の目の前にはカットした
ハンバーガー用のバンズは、勿体ないと思ってお店の在庫を詰め込んできたもの。ほんのり網の上に乗せて火で温めれば、小麦の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
ハンバーグは既に焼いているので、フライパンでほんのり焼き目を付けるだけ。
ソースにはトマトソースとサルサソース、そしてじっくり煮込んだビフカツ用のソースを準備。あとはお好みでマヨネーズとタルタルも。
「あっ! ちーじゅ! ゆぅくん、ちーじゅちゅき!」
「じゃあユウマの分は、チーズ多めに入れようね」
「ん!」
ユウマはシートの上に一番に座り、早くも食べる気満々だ。
だけど辺りをキョロキョロ見渡しているから、もしかしたら膝に乗せてくれるトーマスさんかドリューさんを探しているのかもしれない……。
「ぼく、べーこんも、のせたいです! あと、めだまやき!」
「全部入れるとちょっと大きくなるから、溢さない様に気を付けてね」
「うん!」
ハルトはガッツリ目が大好きなので、厚めのベーコンと、オニオンの輪っかの中に落として焼いた目玉焼きをトッピング。これで白身部分が分厚くなって、食べ応えも抜群だ。
早くも肉汁滴るハンバーグに目が釘付け。もうすぐ出来るからね。
「わ! 今日は何すか?」
「色々並んでるが……」
ミックさんが駆けてきて、ハンバーグの焼ける匂いに笑みを溢す。
メルヴィルさんも並んだ食材を見て興味津々。
「今朝は皆さんに、好きな物をトッピングして食べてもらおうと思って!」
「好きな物を?」
「自分で?」
「はい!」
トーマスさん達も揃い、やっと朝食。ユウマはやっぱり膝に乗せてくれる人を探していた様で、トーマスさんがメフィストを抱えているのを見るや否や、隣に座っているドリューさんの膝に遠慮なく座りに行っていた。
まぁ、ドリューさんも嬉しそうだから、いっか……。
ハルトとユウマに先に手渡すと、二人はいただきます! と満面の笑みで口に頬張った。口の周りははみ出したソースでちょっと汚れているけど、おいしいと大興奮。
ユウマはドリューさんに口元を拭われながら、もっくもっくとハンバーガーを食べている。二人の分はミニハンバーグにしたけど、あの食べっぷり……。もしかしたらお替りって言いそうだなぁ~。
追加で用意しとこっと……。
「じゃあ順番にトッピング訊いていきますね? ミックさんからどうぞ」
「わぁ! やった! じゃあオレはぁ~……、レティスとオニオンに、ハンバーグと~……、トマトにハンバーグ!」
「アハハ! ハンバーグのダブルですね? ソースはどうしますか?」
「ん~、よく分かんないからオススメで!」
「分かりました! すぐ準備しますね」
「楽しみ~!」
ミックさんはハンバーグを二個入りで。一個でもかなり大きいと思うんだけど、ミックさん達ならこれくらいペロリと食べちゃうんだろうなぁ~。
ソースはオススメと言われたから、まずはバンズにトマトソースを塗って、薄くスライスしたオニオンに、レティス、その上に肉汁たっぷりのハンバーグをのせて、トマトのスライスと更にハンバーグをトッピング。
仕上げに少~しだけレティスとマヨネーズをのせて、バンズで挟めば完成!
「どうぞ! 特製ダブルバーガーです!」
「わぁ~っ! めっちゃ美味そう……っ!」
「冷めちゃうので先に食べてくださいね」
「え、いいんすか……?」
ミックさんは年下だからか、周りのトーマスさんやメルヴィルさん達に気を遣ってるみたい。
「冷めると勿体ないからな」
「私の事も気にしなくていい」
「オレ達に遠慮せずに先に食べなさい」
「は、はいっ! いただきま~す!」
ミックさんは両手でしっかりハンバーガーを持ち、大きく口を開けてバクっと噛り付く。
バンズの隙間からは肉汁が溢れて、見てるとすっごく美味しそう……!
メルヴィルさん達のゴクッと唾を飲み込む音が聞こえてくるほどだ。
「~~~~……っ!! (コクコクコク)」
ミックさんは言葉を発せず、ハンバーガーをしっかり持ったまま大きく頷いている。
「(ゴクッ) ……めちゃくちゃ美味いですっ!! 早く食べてください!」
それだけ言うと、ミックさんはまた夢中でハンバーガーにかぶり付いた。口元にトマトソースが付いているけど、そんな事は気にならないみたい。それくらい嬉しそうに頬張っている。
そんな様子のミックさんを見て、ブレンダさんもドリューさん達も次々にトッピングを伝えに来る。順番に手渡していくと、待ちきれないとばかりに大きな口でかぶり付いた。
「「「うっまぁ~……っ!!」」」
どうやらハンバーガーは好評みたい。ユウマもおいちぃねぇ、と言いながらドリューさんと一緒に楽しそうに食べている。
トーマスさんはメフィストのご飯をあげてたから、順番は一番最後になっちゃったんだけど、受け取ると満面の笑みで頬張っていた。
トーマスさん、ハンバーグ好きだからなぁ~。
オリビアさんとレティちゃんにも訊きに行ったら、二人とも選ぶの楽しそうだったし……。
好きにトッピングを選んでもらうの、なかなかいいみたい!
ドラゴンにも試しにあげてみたら、もの凄く嬉しそうに食べていた。
……ドラゴンって、何でも食べるのかな……?
そんな事を考えながらハンバーグを焼いていると、不意に皆の視線を感じる。
振り向くと……、
「ユイトくん!」
「ユイト!」
「おにぃちゃん!」
「にぃに~!」
「「「「おかわりっ!」」」」
「……はぁ~い!」
うん! 魔法鞄の中身を整理する為に思いつきでやったけど、結果は上々!
これはいい勉強になったかも……!
次はもう少し具材を増やしてみようかな?
また考えないとね!
この後も、用意した食材が無くなるまでハンバーガーを作った。
僕も一つ食べたけど、それだけでお腹いっぱい……。
皆、どこに入るんだろう……? それが一番の謎かもしれない……。
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