第243話 じぃじとおでかけ


「「「ごちそうさまでした(でちた)!」」」

「あ~ぅ!」


 朝食を食べ終えると、皆満足そうにお腹を擦りながらテキパキと食器の片付けを手伝ってくれる。毎朝の光景だけど、とっても助かるわ~! とオリビアさんに褒められ嬉しそうに笑みを浮かべるハルトとユウマ、レティちゃん。

 トーマスさんもメフィストを抱えながら、手伝う皆を褒めている。

 このちょっとした時間が僕の好きな時間だったりする。


「にぃに~、ごちしょ……、ごちそう、しゃま!」


 ユウマは発音を直そうとしているみたいで、ちゃんと言えた時は満足そうに笑みを浮かべている。


「ありがとう。ユウマもいっぱい食べたねぇ」

「うん! ゆぅくん、まいしゅちゅき! おわっちゃうから、いっぱぃたべりゅの」


 油断してる時と興奮してるときは発音は気にならないみたいだけどね。


 今朝の献立にはユウマの大好きなとうもろこしマイスをたっぷりのせたサラダとスープを出した。何せマイスの収穫時期が終わり、もう買えなくなってしまうからだ。

 トーマスさんは魔法鞄マジックバッグに買い溜めしておこうかと提案してくれたけど、そうすると他の人が買えなくなるから。ユウマみたいに、マイスが好物の人がいるかもしれないし。

 そうか、と残念そうだったけど、トーマスさんの事だ。きっとあの鞄の中には、既に何本か入っているんじゃないかと僕は予想している。王都に行く時の荷物はあの魔法鞄の中に入れる予定だし。


「あ、でもやっぱり何本かはお願いしてもいいですか? ご褒美とか何かのお祝いの時? 食べさせてあげたいし……」

「そうか! 任せてくれ!」


 お願いすると、トーマスさんは満面の笑みで快諾。ユウマも喜ぶだろうし……。まぁ、いいかなぁ……?


「じゃあ私とユイトくんは仕込みしてくるわね」

「あとお願いします」

「あぁ! こちらは任せておいてくれ」


 ご機嫌なトーマスさんにユウマたちを任せて、僕とオリビアさんはお店の開店準備へ。買い出しもレティちゃんとのお菓子作り用に何か買って来ようかな。






*****


「おじぃちゃん」

「ん? どうした? ハルト」


 メフィストを膝に抱きながらユウマの勉強を見ていると(本当に横で見ているだけなんだが)、庭で剣の素振りをしていたハルトが汗を拭いながらこちらに駆け寄って来た。

 ハルトの素振りを見守っていたレティも妖精たちも一緒だ。


「はわーどさんに、おれい、したいです」

「ハワードに? ……あぁ! サンプソンの事か!」

「うん!」


 昨日ギルドの帰りにそのままハワードの牧場に寄り、王都への道中サンプソンと足の速い馬を駆りたいと相談してみた。日程も丸々ひと月程だからな……。断られるかと思ったが、快く馬を貸してくれる事になった。


「そうだな。この後、皆でお礼に行こうか?」

「いきたい、です!」

「わたしもいきたい!」

「ゆぅくんも!」

「あぃ~!」


 どうやら満場一致だな。妖精たちも行きたい様で、姿を消して行く事を約束させた。ノアはどうだろうか? ユイトには黙っていたが、ノアは仕込みの最中や営業中もよく姿を消してユイトの傍に行っているらしいからな……。後で訊いてみるか……。


「よし! じゃあ早速、準備だな!」

「「「はぁ~い!」」」

「あ~ぃ!」


 子供たちは手を挙げてやる気十分だ。

 うん。今日もウチの子たちが可愛い……。






*****


「にぃに~!」

「あれ? ユウマ、着替えてどうしたの?」

「あら、ホントね? 皆も着替えてどうしたの?」


 アイラが作ったポンチョを着て現れたユウマを見て、ユイトもオリビアも首を傾げている。

 店の中に入ると、野菜を刻む小気味よい包丁の音。そしてコトコトと煮込まれているソースの旨そうな匂いが店中に漂っている。音も匂いも、全てが美味しそうだ。


「ハルトがハワードに礼を言いたいと言うんでな。今からちょっと行ってくるよ」

「さんぷそん! いっしょにいくの、うれしいです!」

「ゆぅくんもうれちぃ!」

「ふふ、そうね。じゃあ、ジョージさんの店でお礼のお野菜、買っていく?」

「そうだな。何か旨そうなのを選んでもらうよ。昼は外で食べようか迷っててな」


 ハルトとユウマは慣れているが、今回はレティも一緒に出掛けるからな。疲れる前に帰らなければ。


「今日はお天気もいいし、レティちゃんのお菓子作りまでに帰ってくれば問題ないんじゃない?」

「そうですね。レティちゃんも、疲れたらちゃんと言うんだよ?」

「うん! だいじょうぶ!」

《 わたしもいっしょ! だいじょうぶ! 》

「そっか。きみがいるなら安心だね?」

《 うん! まかせて! ねぇ~、のあはいかないの? 》


 声を掛けられ、ノアがユイトの肩から姿を現した。まさか自分の肩にいるとは思わず、ユイトは相当驚いていたが。


《 ぼく、おうちにいるよ~ 》

《 そうなの? 》

「ノア、皆行っちゃうけどいいの?」

《 うん! ゆいとといる~! 》


 そう言ってユイトにくっつくノアは本当に楽しそうだ。ユイトもにやけるのを我慢しているのか、満更でもなさそうだしな。


「じゃあ行ってくるよ。ノアもいい子にしてるんだぞ?」

《 は~い! 》

「ハワードさんによろしく伝えてください」

「皆、ちゃんと手を繋いで行くのよ? 疲れたらすぐにおじいちゃんに言いなさいね?」

「「「はぁ~い!」」」

「あ~ぃ!」


 オリビアとユイト、そしてノアに見送られ、子供たちと歩いてハワードの牧場まで行く事に。今日はユウマを抱えられる様に、メフィストの必要な物は全て肩掛け鞄に入れて来た。これでいつでも大丈夫だ。

 子供たちと一緒に出掛けるのは、オレの楽しみの一つでもあるからな。

 ちゃんと楽しんでもらわねば。




 


*****


「ふん、ふん、ふ~ん♪」


 歩いて暫くすると、足元からユウマの鼻歌が聞こえてきた。

 少し音程を外しているがそれも愛嬌だ。とても可愛らしい。


「ゆぅくん、ごきげんです」

「ね。とってもごきげん……」

「あ~ぅ!」

「うん! みんなといっちょ! たのちぃの!」


 レティとハルトと手を繋ぎ、ユウマは可愛らしい笑顔を浮かべている。そんなユウマに二人もにっこり微笑み、両側からぎゅっと引っ付き始めた。


「ぼくも、みんなといっしょ、たのしいです!」

「わたしも……!」

「あ~ぃ!」


 ハァ……。ウチの子たちが、今日も可愛い……。



「「「おはようございます!」」」

「あ~ぶ!」


 子供たちが元気に挨拶したのは青果店のジョージの店。ここはハルトの好きな葡萄トラウベも特別に店に出してくれていたからな。頭が上がらない。


「お? いらっしゃい! 皆でお出掛けか?」

「そうです! はわーどさんに、おれいにいきます!」

「しょうなの!」

「ハワードの牧場か? お礼?」

「今度、家族で王都に行くんでな。馬を借りるんだよ」

「あ~、なるほど!」


 礼に野菜を持って行くと伝えると、そう言う事なら任せろとよく牧場から注文が通る野菜を選んでくれた。オレは野菜の事はさっぱりだから、これは助かる……。


林檎メーラ人参カロッテは定番だな! どっちも甘いから好んで食べるみたいだ。あとは南瓜キュルビスさつまいもスイートパタータだなぁ~!」

「ほぉ~。甘味のある物が好きなんだな。分からなかったから助かったよ」

「いいっていいって! トーマスさん、結構重いけどどうする?」

「あぁ、それなら……」

「ぼくも、もちます!」

「わたしも……!」

「ゆぅくんも!」

「「ゆぅくんはだめ!」」

「どぅちてぇ~?」


 ユウマも持つと意気込んでいたが、どうやらユウマと手を繋ぎたいハルトとレティからダメだと言われてしまった様だ。その証拠に、ハルトとレティは片手に野菜の入った袋、もう片方の手でユウマとしっかり手を繋ぎ満足気。

 ユウマは少しだけ拗ねていたが、オレがマイスを買ったと知るとたちまちご機嫌に。可愛い子たちだ、まったく。


 ジョージに礼を言い、オレたちは早速ハワードの牧場へ。だが向かう途中途中で声を掛けられ、子供たちはここでも人気の様だ。オレも鼻が高い。

 しばらく歩くと、牧場へと続く坂道が見えて来た。


「皆、疲れてないか?」

「だいじょうぶ、です!」

「わたしもだいじょうぶ!」

「ゆぅくんも!」

「あ~ぃ!」

「そうか。坂道だからな、のんびり歩こう」



 ………~ん、



 子供たちと一緒に登ろうとすると、ふと声が聞こえてくる。

 気のせいかと思い、気を取り直して足を踏み出すと、また……。

 何事かと後ろを振り返ると、向こうから二頭立ての荷馬車が走ってくるのが見えた。


「「「あ」」」


「トーマスさぁ───ん! おはようございまぁ───す!」



 そこには、朝から元気なハワードの息子・マイヤーの姿があった。


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