第234話 愛の力は偉大です


「ブレンダ、いつ王都に?」


 エレノアに抱き締められ、ぐりぐりと頬擦りされているブレンダに訊ねてみる。


「昨日だよ。せっかくエレノアに会えると思っていたのに、依頼で王都にはいないと言われて」

「ごめんよ、ブレンダ。依頼を早く終えていたらもう少し会える時間が増えたのに……」

「いいんだ。私も今日は、こっちにいるから……」

「そうか……。嬉しいよ……」


 二人の世界に入りそうになってる気配を察知したのか、リーダーがワザとらしく咳払いをする。

 ハッと我に返ったブレンダが引っ付くエレノアを手で制し、ゴソゴソと鞄の中を漁っている。


「アレク、君に預かっている物があるんだ」


 そう言って、ブレンダが鞄から大事そうに取り出した物。


「手紙……?」


 その手には、白い封筒が。そっと受け取ると、手紙の裏には“ユイト”の文字。


「あぁ! 君宛てに……、って! 速いな!」


 ありがとな~! とブレンダに礼を言い、オレは全速力で宿に走った。

 それはもう全力で。だって早く読みたいからな!






*****


「あら、アレクちゃんおかえり~、って! 何だい、あの嬉しそうな顔!」

「なんか良い事でもあったのか?」


 いつも世話んなってる宿屋の女将にただいま! と答え、急いで自分の部屋へ。

 ステラが面白がって来ない様に鍵をかけ、深呼吸して息を整える。


 オレが手紙を出して六日目。上手く行けば昨日には手紙が届いてる筈だ。

 ……って事は、ユイトはオレの手紙が届く前に、ブレンダにこの手紙を頼んだって事だよな……?

 そう考えると、自分でもにやけてるのが分かる。

 分かってるんだけど、どうしてもにやけてしまう。

 

 ……こればっかりは、仕方ないだろ?










*****




 アレクさんへ。


 手紙なんて書くのは小さい頃に母に書いた以来なので少し照れちゃいます。

 

 アレクさんが王都に帰ってから何度も手紙を書こうと思ったんですけど、どこに送ればいいのか分からなくて遅くなってしまいました。ごめんなさい。

 


 隣に住んでるアイラさんが、ハルトとユウマ、レティちゃんにメフィスト、ライアンくんの服をお揃いで作ってくれたんです。

 皆とっても可愛いんですよ! 見たらきっと笑顔になっちゃいます!

 そこになぜか僕の分もあって、今度王都に行ったときにお披露目することになりました。ユウマが喜んでいるので断れなくて。

 アレクさんに見られるのは少し恥ずかしいんですけど……。



 この前、ローレンス商会の会長さんと、ユンカース領の支店を任されてる息子さんと知り合いになったんです。

 欲しかった食材を探す手伝いをしてくれるそうなので、色々と手に入るかも知れなくて嬉しいです!

 あと、もしかしたら孤児院の物資にお米という穀物が取り入れられるかもって話になっていて。

 炊くとふっくらツヤツヤして、お腹もいっぱいになるんです。

 お店のお客様にも人気なんですよ!

 乗合馬車で一緒になったリンダさんとヴァネッサさんたちにも好評でした! 

 それで王都に行ったときに、お城で料理教室と、騎士団寮で料理、孤児院の方たちにお米の炊き方を教える予定になってるんです。

 お米を使った料理、きっとアレクさんも気に入ってくれると思うので、またアレクさんに作れたらいいなぁ。

 気に入ったメニューがあったら、教えてくださいね?



 最近は冒険者のお客様も増えて満席になっちゃうことの方が多いんですけど、この間オリビアさんと疲れて座っていたらトーマスさんがレモンリモーネと蜂蜜をお湯で割ったものと、夕食を作ってくれたんです。

 ホットリモーネは温かくて、スープが沁みるって言ってたアレクさんの気持ちが分かりました。

 ……あの時、おじいちゃんみたいって言って、ごめんなさい。






 王都まで五日も掛かるんですよね。

 アレクさんと過ごした日を考えると、気軽に逢えなくてやっぱり寂しいです。

 王都に行ったら、一緒に過ごす時間があると嬉しいです。

 





 いつも寝る前にアレクさんの事を思い出します。

 早く逢いたいです。



                     ユイト










*****



( うわぁああああ~~~~~~………っっっ!!! )


 手紙を読み終え、我慢出来ずにベッドでゴロゴロと暴れてしまう。


 何かスッゲェ照れる。照れてしまう。


 訳も分からずジタバタしていると、いつの間にか帰って来ていたリーダーに、こら! と扉を叩かれてしまった。

 

「リーダー! ごめん!」


 素直に謝ったオレに、扉の向こうで気の抜けた声が聞こえて来た。

 だけど、そんな些細な事は気にしない。


 この手紙をユイトが書いたってだけで顔が自然とにやけるし、胸の奥がギュッと締め付けられる。



( あぁ~~~……、もっと洒落たもん入れれば良かった……! )



 ステラとエレノアが絶対喜ぶとか言ってたけど、押し花とか喜んでくれんのかな……?

 二人の口車に乗せられて作ったけど、ステラなんて直前まで息出来ねぇくらい笑ってたからな……。

 しかも手作りだし、気持ち悪いとか思われてたら最悪だ……。


 いやいや、ユイトはそんな事思わねぇよな…?

 オレだったらユイトの作ったもんだったら何でも嬉しいし! 

 ユイトも嬉しいとか思ってくれてるかな……。


 明日も朝から依頼を受けてんのに、風呂に入っても飯を食ってもなかなか寝付けない。

 それに布団の中でも、ユイトからの手紙を何度も読み返してはにやけてしまって、結局寝るのが遅くなってしまった。



 あぁ~~~……! 早くユイトに逢いたい……!



 ハァ……。せめて夢の中で、ユイトに逢えます様に……。





 ちなみに翌日の依頼は、過去最速で達成した。

 愛の力ってやつだな。


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