第214話 素敵な新人?店員さん


「「「いらっしゃいませ(しぇ)!」」」

「あ~ぃ!」


 六時課の鐘が鳴り、本日は開店から賑やかな店内。

 決して蓄音機の音量が大きいからではない。

 それもそのはず……。


「えっ!? で、殿下……?」

「はぇ!? ど、どうされたんですか……?」


 お客様たちが驚くのも無理はない。

 だって、扉を開けたらこの国の王子様が自分たちを迎えてくれるんだから!


「明日王都に帰るので、皆で思い出作りです! 内緒にしてくれますか……?」


 ライアンくんのお願いに、お客様たちは驚きながらもコクコクと頷くばかり。

 思い出作りとして、今日はライアンくんも店員さんとして勤務中なのだ。

 ハルトとユウマも一緒になって張り切ってくれている。


 レティちゃんもいたんだけど、フレッドさんが話があるみたいで少し前にトーマスさんと一緒にダイニングへ向かった。

 フレッドさんが神妙な顔をしていたから、何かあったのか気になるけど……。



「お待たせ致しました。ハンバーグのトマトソース煮をご注文のお客様」

「あ、はい……! おれ……、いや、私です……!」

「こちら、器が熱くなっておりますのでお気を付けください」

「は、はい……!」

「ごゆっくりどうぞ」

「あ、ありがとうございます……!」


 う~ん……。ライアンくん……、出来る子だ……!

 以前も一度だけお店に出てもらったけど、その時よりも余裕が出てきたのか今日は一段とテキパキしている……。

 顔付きも自信が溢れている様な……?


「お客様たち、今回はすぐに気付いちゃうわね……?」

「そうですね……。前はそんな事なかったのに……」


 前回お店に出た時は、可愛い店員さんねとお客様たちに言われてたけど、その人たちもバージルさんが来てやっと気付いた様子だったし。

 まぁ、こちらには写真やテレビが無いから顔を知らなくても仕方ないと思う……。

 僕も知らなかったし……。だから騙されちゃったんだけど……!


 オリビアさんとキッチンでこそこそ話していると、お店の扉が開き新しいお客様が御来店。

 ハルトとユウマが出迎え、席までご案内。

 ……すると思いきや、二人はそのままそのお客様に抱き着いた。


「おぃちゃぁ~ん!」

「どりゅーさん!」

「ハハハ! 随分と熱烈な歓迎だなぁ?」


 どうやら二人の知っている人らしく、デレッと顔を破顔しながら二人の頭をワシワシと撫でている。

 という事は、あの人も冒険者さんと見た!

 一緒に入って来たお連れ様たちもそれには驚いた様子で、口をポカンと開けている。


「どりゅーさん、みなさん、こちらへ、どうぞ!」

「おぃちゃん、おきゃくしゃま! ゆぅくん、うれち!」

「そうか! そんなに喜んでくれるとは思わなかった!」


 二人が嬉しそうに手を引き席まで案内すると、それだけでお客様はニッコリ笑顔を浮かべている。

 体格の立派な男性が四人……。これはまたたくさん食べそうかも……!


「ドリュー! パーティで来てくれたのか!」


 すると、話が終わったのかトーマスさんはメフィストを抱え、ドリューさんと呼ばれるお客様たちの下へ。


「あぁ、約束したからな! しっかし、トーマスさんまでエプロンを着けてるとは……」

「ハハ! 格好だけだ。今日は強力な助っ人がいるからな!」

「助っ人……?」


 そう首を傾げるドリューさんたちの席に、スッとお伺いに向かったのは……。


「いらっしゃいませ! お冷とお手拭きです」

「は……? え……?」

「な、何で……?」


 全員ガタリと席を立ち、目を大きく見開いたまま固まっている。


「? おぃちゃん、しゅわりゃなぃの?」

「え? あ、あぁ! 座るとも! 座るけども……」


 ユウマの不思議そうな顔にハッとし、ソワソワと居心地悪そうに座り直している。


「注文がお決まりの際はお呼びください」

「「「「は、はい……」」」」


 そう言うとライアンくんはペコリと一礼し、他のお客様たちの料理を運んでいる。


「驚いた……! 何でここに殿下がいるんだよ……!?」

「ハハハ! 明日帰るから思い出作りだ! お前たちも協力してくれ!」

「「「「するけどよ~……」」」」


 ドリューさんたちはヒソヒソと話しているつもりだけど、店内は意外と声が響く。

 トーマスさんは全く気にしてなさそうで普通の声量だし、その会話も皆に筒抜けだ。


「まぁ、ゆっくりして行ってくれ!」


 そう肩をポンと叩き、トーマスさんは笑顔でドリューさんの席を後にした。


「だから店の外に見張りがいたのか……」

「流行ってると聞いたから客かと思ったのに……」


 皆さんハァ~、と溜息吐いてるけど……。

 店の外って、アーロさんとディーンさんかな?

 後で何か飲み物を差し入れしよ。



「オリビア……。すまないが、レティの傍に付いててくれるか……?」


 何を差し入れするか考えていると、メフィストを抱えたままトーマスさんがオリビアさんにこそりと耳打ちしている。

 その言葉にオリビアさんも表情が変わった。


「レティちゃん? 何かあったの……?」

「あぁ……、ちょっとな……」

「分かったわ。ユイトくん、少し離れるわね?」

「はい、気にせず行ってください!」


 オリビアさんはエプロンを外すと、急いでダイニングへと向かった。

 幸いな事に、今日はまだそんなに忙しくはない。

 ハルトたちも接客を手伝ってくれているし、トーマスさんもいるから会計は任せて僕は調理に専念出来る。


「ユイト、すまないな。ちょっと心配でな……。後で詳しく話すよ」

「はい、僕は大丈夫です」


 トーマスさんも心配する程の話……。

 レティちゃんが心配だけど、オリビアさんが傍に付いててくれるから、きっと大丈夫……!


「さ! ハルトもユウマもライアンくんも! いっぱい注文取って来てね!」

「「「はぁ~い!」」」


 三人はいい笑顔でドリューさんたちの席へと向かい、自分たちのオススメを教えている。

 きゃいきゃいと楽しそうにお勧めするその姿に、ドリューさんたち四人もたじたじだ。


「わ、分かった分かった! オススメの料理、とりあえず全部持って来てくれ!」

「「「ありがとうございます(しゅ)!」」」


 にっこりと笑みを浮かべ、三人揃って綺麗に一礼。

 うん……! 皆、なかなか逞しくなってきたね……!

 その代わり、ドリューさんたちは何だか来た時よりもやつれている様な……?

 ん~、僕の気のせいかな?


「注文頂きました!」

「はい! ありがとうございます!」


 さぁ、いっぱい作っちゃいますよ~!

 オリビアさんが抜けた分、僕も気合を入れて頑張らないとね!


 三人のオススメの料理を順番に訊き、早速調理開始!

 まずはハルトがオススメした、このお店でも人気の高いたまごサンドを二人前。

 そしてガッツリ目が好きなお客様に人気の鶏の唐揚げフライドチキン。これも二人前で。


 まずはフライドチキンを揚げて、その間にたまごサンドに取り掛かる。

 食感が残るように粗く潰した半熟ゆで卵を、お手製マヨネーズとほんの少しの塩、胡椒を入れて混ぜ、バターを軽く塗ったジョナスさん自慢のふんわり食パンにたっぷりのせて挟む。

 食パンを潰さない様に包丁を入れ、皿の上に少しずらして盛り付けたら完成。


「たまごサンド、上がりました~!」

「はぁ~い! ぼく、もっていきます!」


 どうやらオススメした本人が持って行くみたい。

 ハルトはサンドイッチの盛られた皿を慎重に抱え、とことことドリューさんたちの席へと料理を運んでいる。


「おまたせ、しました! とってもおいしい、たまごさんど、です!」

「おぉ~! 結構デカいな……!」

「美味そう……」

「早く食おう!」

「坊や、ありがとうな」

「はい! ごゆっくり、どうぞ!」


 ドリューさんと仲間の皆さんが美味しそうだと言っているのを見て、満足そうに鼻を膨らませているハルト。

 むふ~、とキッチンまで聞こえてきそうだ。


「よし! じゃあ食おう!」

「「「「いただきます!」」」」


 皆さん、律儀に手を合わせ大きな口を開けて一斉に頬張る。

 他の調理をしながらチラリと覗き見ると、大きなサンドイッチをほぼ一口で……。

 これはイドリスさんにも負けず劣らずなのでは……?


「「「「ん~~~~っ!」」」」


 口いっぱいに入っているから、たぶん喋れないんだろうな。

 目を見開いてお互いに顔を見合わせ、大きく頷き合っている。


「おあじは、どうですか?」

「んぐ……! めちゃくちゃ美味いっ!」

「ハルトのオススメなだけあるな!」

「えへへ! うれしいです!」


 ニカッと笑顔を見せて、ドリューさんはハルトと拳を突き合わせている。

 どうやら好評の様だ。

 そろそろフライドチキンも頃合いかな? ん、良い色に揚がってる。

 揚がったら一旦取り出し、少しだけ置いて二度揚げ。

 外はカラッと中はジューシー!


「フライドチキンも上がりました~!」

「はぁ~い! ありがとう、ございます!」


 ハルトが料理を持って行くと、一番年下っぽいお兄さん? が、待ってましたとばかりにフライドチキンをパクっと手で摘まむ。

 行儀悪いぞなんて怒られているけど、そんなのお構いなしにもぐもぐと咀嚼している。


「コレもめっちゃ美味い~……!」

「お! そうか! じゃあオレも……」

「さっきから、いい匂いするもんな」

「オレたちも早く食おう!」


 そう言って、さっきのお兄さん以外が一斉にフライドチキンに手を伸ばす。

 パクリと頬張ると、皆さん真剣な表情でモグモグ口を動かしているのが分かる。


「これは、おあじ、どうですか?」


 ハルトがワクワクしながら訊きに行くと……、


「「「「最高!」」」」


「わぁ! よかったです!」


 今度はドリューさんだけじゃなく、ハルトは全員と拳を突き合わせている。

 何だか皆さん、ノリが良い人たちみたいで……。


 その後もライアンくんのオススメのハンバーグを恐縮しながらも全部平らげて、ユウマのオススメのミックスピザもペロリと完食。

 ライアンくんに、私とはしてくれないのですか? と訊かれ、かなりぎこちない様子で拳を突き合わせていた。

 王子様とフィストバンプするなんて、なかなかない貴重な体験だよね……。

 ユウマには食べる前から拳を準備され、皆さん慌ててピザを頬張っていた。

 おぃちぃでちょ? と訊かれ、最高! と声を掛けながら拳を優しく突き合わせてくれている。

 この人たち、絶対にパーティ全員良い人だ……!


「おまたせ、しました! みーとぱすた、みーとぼーるいり、です!」

「お待たせ致しました! ビフカツサンドと、日替わりコロッケのセットです」

「きょうはね、まぃしゅのころっけなの! おぃちゃん、おぃち? ゆぅくん、うれち!」


 そして僕は現在、追加分を黙々と調理中……。

 皆さん、食べるわ食べるわ、もしかしたらダリウスさんたちのパーティと良い勝負かも知れない……!

 他の席のお客様たちも、ドリューさんたちに触発されたのかお替りを頼む人が増えた。


 オリビアさんはまだまだ戻ってくる気配はないけど……。

 気合入れて作らないとね!


 さぁ、まだまだいっぱい作っちゃいますよ~!


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