第202話 赤ちゃんはいつでも気まま
「妖精の友達って……、ノアたちの事……?」
「(コクコク)」
突然のウェンディちゃんのお願いに、僕たちは戸惑いを隠せない。
キースさんはただでさえ妖精がいる事に驚いていたのに、ライアンくんが妖精の言葉を分かると知って口を開けたまま微動だにしない。
傍でお座りしている三頭のグレートウルフたちが、動かないキースさんの事を心配そうに見上げている。
「皆さんが楽しそうだから、自分も呼びたいと……」
「あぁ~、なるほど……」
確かに僕たちもアドルフたちも、友達や仲間を呼んでるもんなぁ……。
皆は楽しそうに話してるけど、ウェンディちゃんはライアンくんしか言葉が分からないし……。
「ウェンディちゃんも、楽しくお喋りしたいもんねぇ……」
「(コクコク)」
「のぁちゃんも、きてくれますか?」
「ゆぅくん、のぁちゃんとあぃたぃなぁ~!」
ハルトとユウマもノアが来るかも知れないと知り、声の感じからするとワクワクが抑えきれない様だ。
知らぬ間にアドルフの仲間たちに囲まれ、二人はもふもふに埋もれて半分以上隠れているけれど……。
「だがなぁ……、妖精を呼ぶとなると……」
トーマスさんはウェンディちゃんたちの身を案じてか、渋い顔をしている。
いくら森の中とは言え、どこで見られているか分からないし……。
「のぁちゃん、だめですか……?」
「ゆぅくん、のぁちゃんとあしょびたぃの……」
「う~ん……、しかし……」
トーマスさんの足元にいるのだろう。
ハルトとユウマに悲しそうな声でお願いされ、少し心が揺らいでいそう。
そんなトーマスさんの前にパタパタと飛んでいき、お願いと両手を前で組んで必死に訴えかけてくるウェンディちゃんの様子に、トーマスさんたちもさすがにダメとは言い切れず……。
「ハァ……。ノアたちを呼ぶんなら、ちゃんとユイトやオリビアたちの言う事を聞いて、オレたち以外には姿を見せない、勝手に飛んでいかないと約束できるかい?」
「──!!!(コクコク)」
了承を得られ、ウェンディちゃんは嬉しそうに笑顔を浮かべると、トーマスさんの頬に抱き着いた。
思いがけない可愛らしいハグに、トーマスさんの頬も緩んでいる。
まぁ、メフィストを抱っこしているから元々嬉しそうだったんだけど。
そしてトーマスさんの腕に抱っこされているメフィストにもぎゅっと抱き着き、メフィストは花が咲くような笑みを浮かべる。
赤ちゃんと妖精って、本当に絵本の世界だな……。
後ろからオリビアさんの唸る声が微かに聞こえた気がする。
その後はうぇんでぃちゃんよかったねぇ、と一緒に喜ぶハルトやユウマたちの下に飛んでいき抱き着いている様だ。
……まぁ、僕からはハルトの頭が辛うじて見えるくらいなんだけど……。
ユウマはグレートウルフたちの毛並みに完全に埋もれてしまっている……。
本人の嬉しそうにはしゃぐ声が聞こえるから、心配はしていないんだけど。
それよりも……、
「キースさん、大丈夫ですか?」
さっきからキースさんが微動だにせず、さすがに僕も心配になってしまう。
三頭のグレートウルフたちも、キースさんがあまりにも動かない為、キースさんの足をちょいちょいと前足で触ったり鼻先を押し付けていた。
僕もキースさんの肩を揺すると、やっと目が合った。
「う、うん……。まさか、妖精がいるなんて、思わなくて……!」
漸くこちらに意識が戻ってきたみたい……。
だけど僕の知っているキースさんよりも、若干興奮している気がする……。
少しだけ、目の赤みが増している様に見える。
「あんなに、キレイなんだね……」
魔力が見えるというキースさんには、妖精のウェンディちゃんの周りには常に淡い光の粒子がキラキラと舞っているそうで……。姿を消している時には、その存在に全く気付かなかったみたい。
それを聞いて、たまに僕にも一瞬だけ見えるあのキラキラした物が、もしかしたら魔力なのかなぁと少しワクワクしまう。
「わぁ……! こっちに来てくれた……!」
「ウェンディちゃん、どうしたの?」
すると、感動しているキースさんの言葉が聞こえたのか、ウェンディちゃんがこちらへとパタパタと羽をはためかせて飛んで来た。
そして、キースさんの顔の前にふわふわと浮かび、にっこりと笑みを浮かべている。
僕たちにはウェンディちゃんの言葉は分からないけど、表情はとても嬉しそうだ。
「ウェンディが、褒めてくれてありがとう、と言ってます」
ライアンくんが通訳に来てくれ、キースさんは大慌て。
「そ、そんな……。ぼく……、私は、本当の事を申し上げたまでで……」
呆けたり焦ったりと、今日のキースさんは忙しい。
だけど、そっちの方が楽しそうに見えて僕はいいと思うな。
「あ、そうだ……。ライアンくん、友達を呼ぶって言っても、ウェンディちゃんも森の出入り口を作れるの?」
「出入口……?」
僕の質問に、ライアンくんは首を傾げている。
あ、確か梟さんにトーマスさんたちの下へ送ってもらった時、ライアンくんは皆を助けた後で倒れていたんだっけ……。
「妖精さんたちのいる場所へと繋がる森の入り口なんだけど、梟さんもノアも自分で作れちゃうんだよ」
「えぇ!? そんなものがあるのですか……!?」
ライアンくんはそれを聞いて私も見てみたいです! と興奮気味だ。
その様子を見て、ウェンディちゃんも心なしか張り切りだした気がする……。
あの表情、ハルトとユウマがよくするやつと同じだし……。
「ねぇ、ユイトくん……。そろそろお替りを持ってこないと、あの子たち可哀そうよ?」
「え?」
オリビアさんの言葉に振り向くと、後からやって来たグレートウルフたちがお皿をペロペロと舐めている。
「クゥ~ン……」
何頭かは僕を見つめて切なげに鳴いている。
そ、そんな目で見られると心が痛い……!
あぁ~……、しまったなぁ~……。確かにあの数じゃ足りないよね……。
「レティちゃん、悪いんだけど……。家までお願いしても、いいかなぁ……?」
オリビアさんの横にピッタリと寄り添っているレティちゃんにお願いすると、まかせて! と胸を張っている。
その様子が可愛らしく、オリビアさんは頬が緩みっぱなしだ。
「めふぃくん……! こんどは、かってにながしちゃだめ……!」
「あ~ぅ~!」
転移の魔法陣を発動する時にメフィストが勝手に魔力を流したせいで、レティちゃんの魔法陣は倍ほどの大きさになり、二回に分けて僕たちを移動するはずが一度で森まで転移してしまった。
何事も無くて何よりだけど、レティちゃんはメフィストにこんこんとお説教していたし、急に広がると周りの人を巻き込んでしまうかもしれないし、確かに危険だ。
「かわいいかおしても、だめ……!」
「あぅ~?」
「もぅ……!」
メフィストのきゅるんとした目に見つめられ、レティちゃんは怒る気も失せてしまった様子。
トーマスさんにしゃがんでもらい、ぷにぷにとメフィストの頬を両手で挟んでいた。
「じゃあ……、おにぃちゃんたち、ここにあつまって……!」
「うん! ハルト~! ユウマ~! 一旦帰るよ~!」
「「はぁ~ぃ!」」
帰るのはレティちゃんと付き添いのオリビアさん、僕とハルト、ユウマに、料理を運ぶのを手伝ってくれるアーロさんとディーンさんだ。
メフィストはグレートウルフに興味津々で、差し出した小さな手をぺろりと舐められはしゃいでいる。
トーマスさんはよかったなぁと顔が緩みっぱなし。
「じゃあ、いくね……?」
「うん、お願い!」
僕たちがレティちゃんの周りに集まると、足元には魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣にグレートウルフたちも興味を持った様子で、こちらをソワソワと眺めていた。
「レティ、気を付けてな? 皆を頼んだよ」
「うん……! だいじょうぶ……!」
トーマスさんにお願いされ、レティちゃんはとっても満足そう。
頼られると嬉しいよね、僕も分かるよ。
「じゃあ、いくね……?」
「うん! お願いします!」
「「おねがぃします(しゅ)!」」
皆がいる事を確認し、レティちゃんは顔を引き締める。
ふと顔を上げると、トーマスさんの腕から小さな手が伸びているのに気付く。
あ、もしかして……。
「待っ……」
僕がレティちゃんに待ってと言おうとした瞬間、魔法陣が青白い光を放ち転移の準備を始めた。
すると、僕の耳にまたあのヴォンと言う音が……。
「あ……! めふぃくん……!」
「あ~ぃっ!」
メフィストの楽しそうな声と共に、魔法陣は青白い光を放ったままグレートウルフたちの下まで広がり……。
「だめって、いったのに……!」
「あぃあ~ぃ!」
「ワフッ!」
メフィストとグレートウルフたちのはしゃぐ声を最後に、そのまま僕たちは青白い光の中へと飲み込まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。