第185話 ダイヤモンドの石言葉


「ほら、二人とも。ベッド着いたよ~」

「「はぁ~ぃ……」」


 夕食後、ハルトとユウマの体を丁寧に拭き、トーマスさんたちにおやすみを言って僕たち三人は部屋に戻る。

 二人とも途中からすでに夢の中なので、ベッドに横になればそのままスッと寝入ってしまった。


「ハァ~……、つかれたぁ……」


 僕も二人を起こさない様にベッドに横になるが、求人の貼り紙を書くのを思い出した。

 二人を起こさない様に、そっと机に向かいランプを点ける。


「あ……、オリビアさんに仕込みの人も雇うか訊くの忘れたぁ~……」


 新しい人を雇ったら、オリビアさんもラクになるし、お客様も待たせなくなるかなぁ……。

 僕に頼ってほしいなんて思ってたけど、結局一人じゃ何も出来ないんだな……。


「ハァ……」


 ねむい……。


 うつらうつらと沈む意識の中で、ふと優しい手に撫でられた日の事を思い出す。

 順調に行けば今頃、王都に着いてる頃かな……?


 見送りの日、アレクさんに抱き締められた事も、キスされた事も、全部忘れずに覚えてる。

 まっ赤になった顔が、とっても可愛かった。


 僕が贈ったネックレス、着けてくれてるかなぁ……。



「……アレクさん、逢いたいなぁ……」



 貰ったネックレスを触りながら、僕の意識はそこでフッと途絶えた。






*****


「あ~……、ユイトに逢いたい……」


 アドレイムの街を出てから、今日で四日目……。

 道中は比較的何もなく、明日の昼には王都に着く予定だ。


「アレクさん、村を出てからそればっかりです~!」

「そうだな……。私もブレンダに逢いたいよ……」

「グルルルルル……ッ」

「ガルルル……ッ」


 リーダーとマイルズと交代で見張りをし、今はオレとステラとエレノアの番だ。

 陛下たちは騎士団が見張りをするテントで就寝中。

 いいな、デカめのテント。オレも買おうかな。チラッと見えたテントの中には、豪華なソファーが置いてあった。

 何だよ、陛下たちも魔法鞄持ってんじゃん……。まぁ、持ってない方がおかしいか。


「エレノアはいいよな。ブレンダが殿下の護衛で王都に来るんだからよ」

「キャインッ」


「でも殿下達が戻るのがいつか分からないし、リーダーは王都に戻ったら依頼を受けると言っていたからね。それこそ逢えずじまいかもしれない」

「ギャンッ」


「もう~~~っ! 二人とも恋人がいて羨ましいですぅ~~~っ!!」

「───ッ……」



「いやいやいや……、やりすぎだろうお前たち……」

「「「え? そうか(ですかぁ~)?」」」


 オレたちの前には、ステラに氷で串刺しにされたワイルドウルフの群れが。

 起きてきたリーダーは、地面から突き出た一面の氷に頭を抱えている。

 騎士団員は行きでこの光景に慣れたのか、こちらをチラリと見ただけ。


「ステラ! むやみやたらに氷漬けにするのは止めなさい!」

「でも~、これが一番早く終わるんですぅ~!」


 確かに、ステラが魔法をブッ放した方が早く片付く。

 まぁ、分厚い氷壁が出来たときはさすがにビビったけど……。


「全くお前たちは、いつもいつも~……」

「ごめんなさぁ~い……」


 ステラが反省の色を見せたおかげで、リーダーの説教は免れた。


「リーダー、最近お父さんみたいですぅ~……」

「だからモテねぇんだよ……」

「ん? お前たち、なにか言ったか?」

「……なんも、言ってねぇ……」

「言ってませぇ~ん!」

「そうか……」


 リーダーは騙されやすいからな。前も酒場の女相手にカモられてたし……。

 ランクが上がってから変なのが寄ってくるから、いつか保証人にでもさせられるんじゃねぇかってそこだけがスッゲェ心配。

 まぁ、エレノアは肩を震わせて笑ってるけどな。


「……って、騙されるかっ!!」

「イッテェ!!」

「あぁ~ん! リーダーがぶったぁ~!」


 お前は小突かれただけだろうが……!


「王都に戻ったら、休んだ分たっぷり依頼を受けるからな! 覚悟しておけよ?」

「「はぁーい……」」


 リーダーはそう言って、また仮眠用テントにのっしのっしと戻って行く。

 髭が伸びっぱなしだから、マジで熊みてぇだな……。


「アレク! なんか失礼な事考えただろう!?」

「何も考えてねぇ! おやすみリーダー!」

「おやすみなさぁ~い!」

「リーダー! ゆっくり休んでくれ!」

「全く……。おやすみ!」


 笑顔で手を振り、何とか誤魔化せた。

 オレたちは解体用の手袋をはめ、三人で氷で串刺しにされたワイルドウルフを一匹ずつ処理していく。

 肉はマズいけど、毛皮や牙は売れるしな。


 王都に戻ったら依頼かぁ~……。面白そうなのがあればいいんだけどな。

 だけど、頼むから貴族関連だけは止めてほしい……。

 今までは我慢してたけど、馴れ馴れしくベタベタしてくんのだけはマジで体が受け付けない。


 あぁ~あ……、前まではこの生活に慣れてた筈なんだけどなぁ~……。


「ふぅ……」


 オレは手袋を取り、ユイトに貰ったネックレスを触りながら、一緒に入っていたカードを胸ポケットから取り出す。

 最初はユイトからのメッセージかと思って喜んだんだけど、残念ながらそうではなかった。



『“親愛なる友へ。この石は貴方にとって、特別な意味を持つ物となるでしょう。店主 ジェマ”』



 ユイトからのプレゼントってだけで、オレにはもう特別なんだけどな。


 生憎オレは、石言葉なんてほとんど知らねぇし……。

 どういう意味なんだと貰った日の夜にカードを眺めていたら、イーサンさんが横からこそっと教えてくれた。


 “純愛”、“永遠の絆”、


「ダイヤモンドは、愛の誓いを象徴する石ですよ……、か……」


 それを知ったときのオレの顔がよっぽど面白かったみたいで、夜中だと言うのに周りは皆爆笑してた。

 寝てた陛下が起きてきた時は、さすがに全員謝ってたけどな。


 王都でバーナードさんに会ったらお礼しねぇとな。

 あの人が店を教えてくれたおかげで、オレにも大事な人が出来ましたって。

 いや、やっぱ恥ずいかな……。


「アレクさぁ~ん! 手が止まってますよ~!」

「あぁ、ワリィ! すぐやる!」


 ネックレスを汚さない様に大事にしまい、残りの処理を進めていく。


 今までは世話になった孤児院に寄付してたけど、王都に戻ったら自分でももう少し金貯めようかな……。

 将来の事考えたら、やっぱ家は欲しいし……。

 二人で住むとしたら、店もやりそうだしな……。

 

「アレクさん、あの顔はまぁ~たユイトくんの事考えてますぅ~」

「ハハ! あれは間違いないな」



 ハァ……、ユイトに逢いてぇ……。


 オレの頭の中は、ただただユイトの事だけでいっぱいだった。


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