第184話 料理とは、奥深いものである……
「「「ありがとうございました(まちた)!」」」
最後のお客様をハルトとユウマと一緒に見送り、看板を店の中へ。
動き回っていたせいか、外の風が心地いい。
「終わったぁ~……」
店の扉を閉めホッと肩の力を抜くと、トーマスさんがお疲れ、と言って僕の肩をポンと叩いた。
「トーマスさん、ハルトもユウマも、お疲れ様でした!」
「今日は本当にありがとう! すっごく助かったわ!」
さすがに疲れたのか、ハルトとユウマは椅子に座りオリビアさんが用意してくれた牛乳をゴクゴクと飲んでいる。
プハァ~ッと飲み終わり、牛乳の白ヒゲをつけたまま二人は僕たちの方を振り向いた。
「きょうは、おきゃくさま、いっぱいでした!」
「でもみんな、にこにこちてたの! よかったねぇ!」
にこにこしてすごく可愛いんだけど、その白ヒゲ姿にトーマスさんとオリビアさんが瀕死だから、そっと拭ってあげた……。
照れるハルトと、ありぁと、とお礼を言うユウマ。
「「あぁ~……」」
すると、後ろからトーマスさんとオリビアさんの悲しそうな声が聞こえてきた。
ちょっと……。そんなあからさまにガッカリしないでほしい……。
「みんな、またくるねって、いってくれました!」
「うれちぃねぇ!」
二人の言う通り、来る人来る人美味しいとたくさん注文してくれ、また来ると言ってお店を後にする人が多かった。
「今週はずっとこんなカンジでしょうか……?」
「そうねぇ、明日と明後日……。有り難いけど、二人だと案内できるのが遅くなっちゃうものねぇ……」
買い出しは買い物籠いっぱいにして最低でも三回は行かないと材料が足りないし、仕込みも先週より多めに仕込んでる……。
牛乳やチーズも、ダニエルくんが配達に来てくれるようになったからかなりラクになったけど、ハワードさんの牧場の復旧作業もあるから申し訳ないんだよなぁ……。
明日は求人募集の貼り紙を出すしかないかも……。
そんな事をオリビアさんと話していると、僕の服をクイッと引っ張る感覚が。
「ぼく、おてつだい、します!」
「ゆぅくんも~!」
二人は手を挙げて張り切っているけど、昨日も今日も疲れてるだろうし……。
それにメフィストも、大勢いると寝れな……、いや、ベビーベッドの中でぐっすり眠ってるな……。
「それは助かるけど、ハルトちゃんとユウマちゃん、二人ともお昼寝の時間取れないでしょう? お昼ご飯もゆっくり食べれないし……」
「でも……、おばぁちゃんも、おにぃちゃんも、たいへんです……」
「いちょがちぃの、たぃへん! ゆぅくんもおてちゅだぃ!」
「「う~ん……」」
正直とっても助かるんだけど、二人ともまだ五歳と三歳なんだよね……。
ピザは作ってもらっていたけど、こんなに出ると二人への負担が大きいからなぁ……。
普通ならもっと遊びまわりたい年齢なのに、このままずっと手伝わせてもいいのかな……。
「うわっ!?」
悩んでいると、トーマスさんが僕の頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「ユイト、そんなに難しい顔をするな。雇う人間が決まるまではオレもなるべく手伝うし、頼ってくれると嬉しいんだがな?」
「あ、ありがとうございます……」
「オリビアもだぞ? オレたちも役に立ちたいんだよ。な? ハルト、ユウマ」
「「うん!」」
「ありがとう……。すごく助かるわ……」
「それに、この店の料理を食べてくれる人が増えるのは嬉しいからな! 心の中でいつもどうだ、ウチの料理は旨いだろう! と自慢してるんだ」
「ふふ、何よそれ!」
「トーマスさん、そんな事思ってたんですか?」
「あぁ、密かな楽しみなんだ! 誰にも内緒だぞ?」
そう言ってウィンクするトーマスさんに、僕とオリビアさんは肩の荷が下りた様に声を出して笑ってしまう。
きっと、和ませようとしてくれたんだろうな……。
「ありがとうございます。明日早速、募集の貼り紙をするので……。決まるまで、忙しい時は手伝ってもらえますか?」
「あぁ、任せておけ!」
「まかせて、ください!」
「まかしぇて!」
「ふふ、頼もしいわね!」
新しい従業員が決まるまで、有難くトーマスさんたちに助っ人をお願いする事にした。
今夜は貼り紙を作らないとな。
「さ、明日の仕込みやっちゃいましょうか!」
「はい!」
仕込みの人も別に雇えるか、後で相談してみよう。
その前に大量の仕込みが待ってる! 頑張って終わらせるぞ!
*****
「ユイト、これくらいでいいか?」
「ん~。あ、大丈夫そうですね! 後は食べやすい様にすり潰して完成です!」
「よし……! アチチ!」
明日の分の生地とソースの仕込みを終え、今はトーマスさんと一緒にメフィストの離乳食作りの真っ最中。
「おじぃちゃん、だいじょうぶ?」
「じぃじ、ちんぱぃ~!」
「はは……。だ、大丈夫だぞ……!」
予想以上に熱かったのか、トーマスさんは少し動揺している。
ハルトとユウマはメフィストをかまいながらも、こちらを心配そうにチラチラと見ていた。
「さ、こっちも夕食の準備出来たわよ~!」
「「はぁ~い!」」
「メフィストのご飯も出来たからな! 一緒に食べよう!」
「あぃ~!」
今夜の離乳食は、
これは以前、メフィストにカロッテのみで作ったものをあげたんだけど、ぷぃっとそっぽを向いてあまり食べてくれなかったから、試しに甘いスイートパタータも混ぜてみたらウソの様にパクパクと食べてくれた。
だからこれは忘れない様にメモしてある。
「さぁ、食べましょ! いただきます!」
「「「「いただきます(ましゅ)!」」」」
「あぅ~!」
今夜の夕食は、皆の大好物の
ハルトとユウマも嬉しそうにパクパクと頬張っている。
「ほら、メフィスト。あ~ん」
「あ~」
トーマスさんは緊張しながらメフィストに離乳食をあげている。
あれは食べてくれるかドキドキしてる顔だな……。
皆が見守っていると、メフィストはパクっと口に入れもぐもぐと口を動かしている。
「ど、どうだ? 美味しいか……?」
ぱちぱちと瞬きし、大きな瞳でトーマスさんをジッと見つめるメフィスト。
息を止めて、ジッと反応を見守るトーマスさん……。
フライドチキンを食べながら、その二人を見守る僕たち……。
「ん~まっ!」
「───……!」
メフィストはにぱっと笑みを浮かべ、もっと食べたいと催促するように手をパタパタとさせている。
トーマスさんは嬉しすぎて言葉も出ないみたい。
「よかったわねぇ、トーマス! 美味しいって!」
「メフィスト、もっと食べたいねぇ?」
「あ~ぃ!」
「グゥッ……! い、いまあげるからな……!」
トーマスさんの握るスプーンが感動のあまり、フルフルと震えていてすごく危ない……。
メフィストは揺れるスプーンを目で追いかけている。
悪いけど、少し面白い……。
「おじぃちゃん、うれしそうです!」
「じぃじ、うれちぃねぇ!」
メフィストの反応を見守っていた二人も、よかったとホッとしている様だ。
「料理は……、楽しいな……」
メフィストに食べさせながらしみじみと呟くトーマスさんが可愛くて、僕もオリビアさんも少し笑ってしまった。
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