第155話 可愛い新人店員さん②


「「「「「いらっしゃいませ(ましぇ)!」」」」」


 今日はお店が開店と同時に、お客様が数組来店。

 カウンター席以外はすぐに埋まってしまう。


「おきゃくさま、おひやを、どうぞ!」

「おきゃくちゃま、おてふき! どぅじょ!」

「あら、ありがとう」

「可愛い店員さんね」


 やっぱりハルトとユウマがいると、店内の雰囲気は和やかムード。


「すみませ~ん! 注文お願いしま~す!」

「はい! 承ります!」


 お客様にすぐに答えたのはライアンくん。


「あら、可愛い店員さんね? あなたもお手伝いなの?」

「はい! 今日は特別に働かせて頂いてます!」

「偉いわねぇ~! じゃあ、このコロッケのセットをお願いします」

「はい! ありがとうございます!」


 朝の緊張はどこへやら……、笑顔で接客している。

 たぶん、開店前にフレッドさんたちがお客様の振りをして練習させてくれたからかな……?

 肩の力も抜けて楽しそうだ。


「注文頂きました!」

「いただきました!」

「いたらきまちたぁ!」


 ライアンくんが言うと、ハルトとユウマも楽しそうに復唱する。


「はい、コロッケセットですね。次は、このカルボナーラをあの席のお客様にお願いします」

「はい! 分かりました!」

「お皿がちょっと熱いから気を付けてね?」

「はい!」


 ライアンくんはお皿を載せたトレーを受け取ると、パスタを落とさない様に慎重に運んでいく。

 僕とオリビアさん、周りのお客様たちも、その様子を息を潜めて見守っている。


「お待たせ致しました! カルボナーラ、です!」

「ありがとう! とっても美味しそう!」

「はい! ありがとうございます! ごゆっくりどうぞ!」


 無事に席に運び終え、ライアンくんはフゥと一息。

 だけど休んでいる暇はない。注文された料理がまだまだ出てくるからね!





 今いるお客様たちの料理を出し終え、僕たちもやっと一息。


「ライアンくん大丈夫?」

「はい! とても楽しいです!」

「……フレッドさんたちの事は、気にならない……?」

「……はい!」

「そう……。スゴイね!」


 そう、何を隠そう、フレッドさんとサイラスさん、アーロさんにディーンさんは、お客様としてこの目の前のカウンター席に座っている。

 殿下の勇姿を目に焼き付けねばなりません、と言って、何食わぬ顔で店の扉から入ってきた。

 それにはオリビアさんもライアンくんも目を真ん丸にして驚いていたけど……。


「ふれっどしゃん、しゃぃらしゅしゃん、おぃちかったでしゅか?」

「はい。とても美味しく頂きました」

「美味くてお替りするくらいだからな?」

「一言、余計ですよ!」


「あーろさん、でぃーんさん、おひやのおかわり、どうぞ!」

「ありがとう、ハルトくん。気が利くね!」

「ハァ~……、こうやって癒されるのも明日で終わりかぁ……」


「「「「ハァ~……」」」」


 どうやら四人は、ここでの暮らしをそこそこ気に入ってくれてるみたい。

 まぁ確かに、ライアンくんとハルトにユウマ、三人いるといっつもキャッキャと楽しそうで可愛いもんなぁ~。

 オリビアさんもにこにこしてたし。


「皆さんは王都に戻ったら、いつもどんな風に生活されてるんですか?」


 僕には想像するくらいしかできないけど、やっぱり忙しいんだろうなぁ。


「私とサイラスはライアン殿下のお傍に仕えている身ですから、今と然程変わりはしませんね……」

「まぁ、貴族連中の相手をするのが疲れるくらいか?」

「そうですね、この村にいた方がハルトくんとユウマくんもいますし……。殿下も楽しいでしょうね」


 そう言ってフレッドさんとサイラスさんは、ハルトとユウマとお喋りしているライアンくんにチラリと視線を移す。

 もう少し近ければ頻繁に会えるってわけでもないしなぁ……。

 せっかく仲良くなれたのに寂しくなるけど……。

 あ、文通ならいいかもしれないな。元々オリビアさんと文通しているみたいだし!

 それに丁度、僕もフレッドさんに手紙を送る約束をしてるし!


「私とディーンは毎日訓練ですね。有事の際には我々が先陣を切らねばなりません。他国での会談等の際も陛下の警護に就いています。あとは……、前に言った寮の食事当番ですね……」

「あれはなぁ……、いつになったら続く人間が来てくれるのか……」


 ディーンさんも思い出したのか、ハァと溜息。

 確か、じゃが芋パタータばっかりの日もあったって言ってたなぁ。


「あぁ、言ってましたね。大人数の食事は準備も大変ですよねぇ……」

「そうだ……! ユイトくんが良ければ……」

「よせ、ディーン……! もう私が誘った!」

「何? 答えは……」

「すみません……」

「だよなぁ~……」


 そう言って、また溜息交じりに頬をつく。


「……う~ん、専属の人じゃなくても、パートの主婦の人みたいに短時間だけ、とか雇えないんですかねぇ……?」


 長時間は無理だけど、朝・昼・夜と時間が分かれていたら、まだ来てくれそうだと思うんだけど……。


「そのパート? というのは?」


 パートという言葉にフレッドさんが食いついた。


「えっと、主婦の人や他に仕事をしている人でも、この時間帯なら自分も働けるのになぁっていう人もいると思うんですよ。たぶん長時間勤務より、朝・昼・夜の担当の人を雇えばまだ見つけやすいんじゃないかと……」

「成程……、それもありかも知れませんね……」

「今まで専属に拘っていたから、なかなか見つからなかったのかもな……」


 アーロさんとディーンさんは腕を組んで考えている。


「それに、もしかしたら料理人を目指している子や、子育てを終えたお母さんやお父さんも家事や仕事の合間に働ける場所を探してるかもしれませんし」

「あぁ~、それなら即戦力になるな……」

「そうですね……! 団長に掛け合ってみましょうか!」

「あ、それなら……。一週間の献立表とか、先に決めた方がいいかも知れないですよ?」

「献立表?」

「はい。アーロさんに予算は決まってるって聞いたので、朝昼夜の一週間のメニューを先に決めておくんです。そうすれば予算が足りないと慌てなくて済みますし、その働く方も何を準備しておけばいいか動きやすくなると思うんです」


 それを決めておかないと、もしかしたら予算を使い過ぎだとか、材料を多く使ったとか、そんな事が原因で険悪になったりするかもしれないし……。


「そうだな、パタータ尽くしの日はもう懲り懲りだしな……」

「あれは辛かったですね……」


 二人はうんうんと頷き合う。


「面白そうなので、私も陛下に伺ってみましょう」

「えっ? バージルさんにですか?」

「えぇ、専属ではないと色々危険もありますからね。もしかしたら他国の偵察兵かもしれませんし、よからぬ事を考えている輩かもしれません」

「あぁ……! そうですよね……、僕そこまで考えてなくて……」


 勤める先は国を守る騎士団の寮だもんね……。僕みたいに一般人の感覚で考えちゃいけなかった……。

 すみませんと頭を下げると、皆慌てて立ち上がった。


 すると、丁度タイミングよくお店の扉が開きチリンと鐘が鳴る。


「「「いらっしゃいませ(しぇ)!!!」」」


 ライアンくん、ハルト、ユウマが元気よくお出迎えすると、そこには……。


「おぉ~~~!! ライアン! 似合ってるじゃないか!!」


「「「「へ……、陛下っ!?」」」」


 お店に入ってきたのは、国王陛下と呼ばれるバージルさんその人だった。






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