第154話 可愛い新人店員さん


「えっ……!? ごめん。もう一回、言ってくれる……?」


 皆で夕食を食べた後、いつもは寛ぐ時間なんだけど……。

 今日は少し様子が違う。


「はい! あした、らいあんくんと、てんいんさん、したいです!」

「いっちょにいらっちゃぃましぇ、しゅるの!」

「「えぇ~!? 本当に?」」

「「うん!!」」


 ハルトとユウマに捕まり、オリビアさんと僕は必死にお願いされている真っ最中だ。

 どうやらライアンくんの滞在期間中、接客出来るチャンスは明日だけだと知ったようで……。

 今こうやって二人にしがみ付かれている。


「ばぁば~、にぃに~、おねがぁ~ぃ!」

「いっしょに、したいです!」

「あぁ~……、そうね、おばあちゃんも見たいけど~……」


 僕の方を困った様にチラチラと見るオリビアさん。

 ハルトとユウマにお願いされて、早くもオリビアさんは陥落しかかっている。

 僕もいいんじゃないかと思うけど、やっぱり何かあると困るしなぁ……。

 すると、二人の後ろで俯いたまま、もじもじしているライアンくんが視界に入った。


「ねぇ、ライアンくんは店員さん、やってみたい?」


 さっきからハルトとユウマのお願いしか聞いていないから、僕としては何とも言えないんだよね……。

 ちゃんと本人の意思も確認してあげないと……。


「う……、あの……」


 ライアンくんには珍しく、少しだけ緊張している様子。


「うん、どうしたい?」


 焦らせない様に、もう一度ゆっくり訊いてみる。

 すると、顔を上げてチラリと僕とオリビアさんを見た。


「私も……、やってみたい、です……」


 そう言うと、また俯いてもじもじと手を弄っている。

 オリビアさんも僕も心は決まっている。

 だけど、もう一人確認を取らないといけない人がいるからね。


「……と、いう事なんですけど。フレッドさん、いいですか?」


 ここでのライアンくんの保護者みたいな存在だから、了承を得ないと。

 御付きの人の中では一番年下のハズなのに、一番しっかりしている印象だから仕方ないかな。


 フレッドさんは少し一考すると、チラリと僕たちを見て頷いた。


「そうですね……。いいんではないでしょうか?」

「えっ!? フレッド、本当ですか!?」


 フレッドさんの言葉に、一番驚いているのはライアンくん本人だ。

 僕は何となく、許してもらえそうだなぁと思ってたんだけど。


「はい。王都でなら考えられませんが、ここなら安全ですし……。たまにはいつもと違う事も経験した方が、殿下の将来、ためになるのではないかと……」

「「「やったぁ~!!!」」」


 フレッドさんの言葉に、ライアンくん、そしてハルトとユウマは大はしゃぎ。

 サイラスさんたちは意外だったのか、フレッドさんを見て驚いていた。


「じゃあ……、ライアンくんもお揃いのエプロン着けなきゃね?」

「……! いいのですか?」


 確かオリビアさんが、予備のエプロンを買い足していた気がするんだけど……。

 チラリとオリビアさんの方を見ると、分かっていた様ですぐに笑顔で頷いてくれた。


「もちろん! じゃあ早速、サイズを測りましょうか!」

「……はい!」


 ライアンくんはお揃いが嬉しいのか、満面の笑みで頷いた。


「らいあんくんも、おそろい! うれしいです!」

「みんないっちょ! ゆぅくんうれちぃ!」

「はい! 僕もとっても嬉しいです!」


 三人の笑顔に、僕たちはほっこりと和んだ気分になる。

 明日はこの子たちがお店にいるのかぁ~。想像すると、自然と顔が綻んでしまう。


「じゃあ明日は、ハルトとユウマが先輩だね?」

「……! せんぱい……、ですか……!?」


 先輩という言葉に、ハルトはキラキラと目を輝かせる。

 それとは反対に、ユウマはん~? と首を傾げている。


「にぃに~、しぇんぱぃって、なぁに?」


 どうやらその意味が分からなかっただけみたい。


「ハルトとユウマの方がお店の事色々知ってるから、明日はライアンくんに教えて助けてあげてねって事だよ」


 そう言うと何となく理解してくれた様で、見る見るうちにユウマの鼻がふんふんと言い出した。


「ゆぅくん、しぇんぱぃ! がんばりゅ!」


 それを見てライアンくんもにっこり微笑む。


「はい! ハルト先輩、ユウマ先輩、明日はよろしくお願いします!」

「「まかせて(しぇて)!!」」


 二人のやる気に、僕たちはついつい声を上げて笑ってしまった。


 あ、でも……。

 ライアンくんがお店を手伝うって知ったら、バージルさんも見たかったって言うんじゃないかな……?

 後でフレッドさんに確認しよっと。






*****


「おはようございます!」


 オリビアさんは朝食の準備、僕が買い出しの確認をしていると、少し緊張した面持ちでライアンくんがお店に入ってきた。

 その後ろからはフレッドさんとサイラスさんも続けて入ってくる。


「あら、おはよう! 今朝は早起きねぇ?」

「はい! 色々覚えようと思って!」


 ライアンくんは緊張した様子で店内をキョロキョロと見渡している。

 初めての接客にドキドキするの、すっごく分かるなぁ~!


「ライアンくん、おはよう! じゃあまずは、お店の中の備品類の場所を覚えようか」

「はい! よろしくお願いします!」


 ライアンくんにコップやシルバー類の収納場所を教え、お店の簡単な流れを説明する。

 後ろでフレッドさんとサイラスさんがジッと見ているから、僕の方が変に緊張してしまった。


「あ、僕は先に買い出しに行ってくるから! 後はこのメニューの名前を覚えておいてくれる? オリビアさんがいるから、分からない事は聞けばいいからね?」

「はい! 分かりました!」


 メニューを手渡し、料理名を確認してもらう。


「じゃあ、いってきます!」

「はい! ユイトさん、お気を付けて!」


 買い物籠を持って外に出ると、ライアンくんとフレッドさん、サイラスさんがお見送りしてくれる。

 さっきのメニュー表、写真があれば覚えやすいんだけどなぁ~……。

 今度、メニューの絵でも描こうかな?


「あ、ユイトさん! アーロを連れて行くのを忘れない様に!」

「……はぁ~い!」


 危ない危ない……! すっかり呼ぶのを忘れていた……。

 僕は一旦Uターンして、庭にいるであろうアーロさんを呼ぶ。


「はい! すぐに参ります!」


 ほらね、やっぱりいた。

 アーロさんとディーンさんは、何故か大体外にいるんだよね。




 明日は定休日だから、今朝の買い出しはいつもより少し少なめかな。

 アーロさんもいつもの量に慣れてしまったのか、少し物足りなさそう……。


「アーロさん、買い出しのお手伝いありがとうございました!」


 明後日の早朝には王都に帰るって言ってたから、こうやって手伝ってもらうのも今日で最後。

 アーロさん力持ちだからたくさん持ってくれるし、正直言うとすっごく助かった。


「いえいえ、これも今日で最後だと思うと少し寂しいですね」

「えぇ~? ホントですか? いつでも手伝いに来てくれていいですからね!」

「では次回も、買い出しの際は私アーロを御指名ください」

「ふふ、はい!」




「ただいま戻りました~、って……。オリビアさん、どうしたんですか?」


 アーロさんと二人で店に戻ると、そこには楽しそうなオリビアさんの姿が。

 フレッドさんも同じ様に顔が緩んでいる。


「おかえりなさい、ユイトくん! アーロくんもありがとう! 二人とも見て~!」


 そう言ってオリビアさんが一歩横にずれると、そこには僕たちとお揃いのオリーブ色のエプロンを着けたライアンくんの姿が。

 ハルトとユウマもエプロンを着けて、三人で見せ合いっこしている。


「わぁ! ライアンくん似合ってるねぇ!」


 ライアンくんのエプロンは、ハルトとユウマと少し違って腰で紐を結ぶようになっていた。

 やっぱり二人よりもお兄さんだからか、背が高い分、とても様になっている。


「本当ですか? 初めて着たので少し恥ずかしいです……」

「すっごくカッコいいよ! 今日はそのエプロンで頑張ろうね!」

「はい!」


 こういう時カメラがあればなぁ~。記念に撮影出来るのに……。

 そういう物がないか、探すのもありかな?


「さ、朝食を食べたら早速準備しましょうか! ライアンくんもお手伝いしてくれるかしら?」

「はい! 私もお手伝いします!」


 オリビアさんに訊かれると、ライアンくんは張り切って声を上げる。


「ぼくも、おてつだい、します!」

「ゆぅくんも! がんばりゅ!」


 ハルトとユウマも楽しそうに手を挙げてぴょんぴょんと跳ねだした。


「ふふ、三人ともいい子ねぇ~! 今日は皆で頑張りましょう!」

「「「はぁ~い!!!」」」


 今日のお客様は、きっとビックリしちゃうんじゃないかなぁ~?

 それを見るのも楽しみかも……。


 僕は買った食材を冷蔵庫にしまいながら、そんな事をこっそり考えていた。


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