第131話 完売御礼!
「ユイトさん、どうしてここに……!?」
僕を見て驚いているけど、それよりもこの状況をどうにかしなきゃ!
「カビーアさん、僕カリーを盛って提供するのお手伝いします!」
「しかし……!」
「スパイスを知ってもらうチャンスですよ!? これを逃してどうするんですか!」
僕が逃げ腰になっているカビーアさんに喝を入れると、どうにか気合を入れ直したみたいで、代金とスパイスの販売をカビーアさん、そして僕はカリーを盛り付けてお客様に提供する役割分担になった。
「おい、まだかよ!?」
「すみません! すぐご用意しますね!」
先頭にいた男性のお客様はだいぶイライラしている様子。
この暑い中、待たせちゃったし仕方ないよね……。
「こちらがバターチキンカリーです! お連れ様はビーフカリーですね!」
「お、おう……」
「どちらのカリーがお好みか、また聞かせてくださいね!」
笑顔で手渡すと、イラついていたお客様たちもカリーの匂いに釣られたのか笑顔で受け取ってくれた。
「お待たせしました! 熱いのでお気を付けください!」
その後もカリーをどんどん手渡し、列を捌いていく。
だけど、列はまだまだ続いていて、全く減る様子が無いんですけど……!?
「あ、お子さんにはこっちのバターチキンの方がいいかも知れません! あちらの屋台でパンも売っていたので、カリーと一緒に食べると美味しいですよ!」
「お兄さんは一杯じゃ物足りないですか? なら、向こうの屋台でお肉と野菜の串焼きが売っていたので、それと合わせても美味しいかも…。また感想聞かせてください!」
「次のお客様~!」
盛っても盛っても、まだまだ列は続いていく……。
カリーの量も心配だけど、カビーアさんも手が離せないし……。
すると、屋台の横からひょこっと現れたのは……、
「カビーアさん、よければ私が代わるわ。この調子だとカリー、足りないんじゃない?」
「「オリビアさん……!!」」
「値段だけ教えてくれれば大丈夫よ。追加で作らないと間に合わないわよ~?」
「ありがとうございます……! この御恩は必ず……!」
「そんなの気にしないの! ユイトくん、どんどん売っちゃいましょ!」
「はい!」
強力な助っ人も加わり、捌くスピードもどんどん上がる。
カリーを受け取ったお客様の嬉しそうな顔を見ると、こっちも嬉しくなっちゃうな!
すると、さっき先頭でイライラしていたお客様がまた並んでくれている。
「あれ? さっきも食べてくれましたよね?」
「あぁ、美味かったからな……! オレは、こっちのバターチキンが好きだ! もう一杯頼む!」
「わぁ~! ありがとうございます! すごく嬉しいです!」
僕が笑顔でお礼を言うと、そのお客様は照れながらもバターチキンカリーが作れるスパイスのセットも同時に購入してくれた。
やったぁ~! カリーの人気が出れば、カビーアさんも諦めなくて済むぞ!
どんどん売っていこう!
僕たちはこの勢いを逃さない様に、どんどん声を出してカリーを宣伝する。
その頃、向かいにある休憩スペースでアレクさんたちがカリーとパンを片手に、軽い昼食を取っているのが見えた。
「君たちのお兄さんは凄いなぁ……。感心するよ」
「おにぃちゃん、おりょうりも、おきゃくさまも、だいすきです」
「にぃに、たのちしょ! よかったねぇ!」
「アレクさん、ユイトくんが行っちゃって、寂しくないかしら?」
「ユイトくんは困ってる人がいたら、放っておけないからねぇ」
「オレ? ん~……、ユイトが楽しそうだから、それを見てるだけで結構満足っていうか……」
「「まぁ~……!!」」
「おぉ……! まさかアレクがそんな事を言うなんて……」
「私たちは偽者でも相手しているのか……?」
「おいおい……、ケンカ売ってんのか……?」
「「ハハ! まさか~!!」」
「その笑った顔、スゲェ~ムカつく……!」
アレクさんたちが楽しそうに話しているのを遠目に見ながら、僕とオリビアさん、そしてカビーアさんはカリーをどんどん売っていく。
カビーアさんが作った追加分のカリーにも手を付けた頃、並ぶお客様の列が不自然に開いている事に気付き、ふと顔を上げると……。
「やぁ、ユイトくん! まさか売り子をしているとはなぁ~!」
「ユイト、オリビア、一体何をしてるんだ……?」
そこには、楽しそうに笑うバージルさんと、困惑の表情を浮かべたトーマスさんたちが並んでいた。
皆さん体が大きいから、圧が凄い……!
「わぁ! 来てくれたんですか? ありがとうございます!」
「とっても美味しいのよ? 是非食べてみてちょうだい!」
僕とオリビアさんがバージルさんたちに売り込むと、後ろで次のカリーの準備をしていたカビーアさんがガシャンと大きな音を立てて慌てている。
「そ、その方は……」
「あ、カビーアさん! バージルさんはとっても楽しい人なんですよ~! きっとカリーも気に入ってもらえるはずです!」
「い、いや、ユイトさん……。その方は……」
「ハハハ! 気にするな! 自慢のカリー? とやらを是非、食べてみたくてね!」
バージルさんはカリーの匂いをいたく気に入った様で、ずっと僕の手元にある鍋の中を覗いている。
カビーアさんは見られて緊張しているのか、ずっとソワソワしっぱなしだ。
「通り中、食欲をそそるこの匂いで大変ですよ? 余程美味しいのでしょうね」
後ろにいたイーサンさんも、バージルさんと一緒になり、興味深げに鍋を覗き込んでいた。
「父上! 私も早く食べてみたいです!」
「ライアン様? 私が食べてからですよ?」
「なら早く! 早く食べましょう!」
ライアンくんはこのカリーの匂いが空腹を刺激するらしく、珍しく駄々を捏ねている。
「ライアンくんはバターチキンカリーの方がいいかも知れないよ? 辛さ控えめに作ってくれてるからね」
「そうなのですか? では私は、そのバターチキンカリーをお願いします!」
「はい、ありがとうございます! フレッドさんも同じのでいいですか?」
「そうですね。私もそちらでお願いします」
僕が二人にカリーを手渡すと、お礼を言ってスグにハルトとユウマの下へ歩いて行った。
仲良くなってくれて嬉しいなぁ。
「まさかこんな事になっているとは……。ユイトは本当に……」
「えへへ……! トーマスさんはどっちにしますか? トーマスさんだと、ビーフカリーが好きそうかなぁって思うんですけど……」
「ならそっちを貰おう」
「ありがとうございます!」
バージルさんたちも機嫌良くカリーを受け取り、同じくハルトたちのいる休憩スペースへ。
あの一角だけ警護の人たちもいるから物々しい雰囲気だ。
まぁ、実際は皆いい人たちばっかりって分かってるんだけど。
「カリー、完売致しました~! 皆様ありがとうございます!」
しばらくすると、カビーアさんの声が響き、並んでいたお客様も残念と言いながらまた他の屋台に流れていく。
「きゃあ~! やったわね、カビーアさん!」
「スゴイですよ、カビーアさん! 完売です!」
「スパイスのセットももう売れちゃったし! 今日は大成功じゃない!」
「うぅ……、本当に……、お二人には何と言っていいか……!」
そう言って泣き出してしまったカビーアさんだけど、二日前みたいに諦めた様子もなく、寧ろ泣きながらも嬉しそうに笑っていた。
すると、オリビアさんがはたと気付いたように動きが止まる。
「……あ! ユイトくん、私たちカリー食べてないわ……!」
「え? あ、ホントだ…! 食べたかったのに……!」
まさか売る事に夢中になって、自分たちの分を忘れるなんて……!
ショックを受けた僕たちを見て、カビーアさんは目をパチクリとさせて、次第にもう我慢できないとばかりに笑い出した。
「ふ……、ハハハ! お二人は本当に面白い人たちですね! 今はありませんが、今度お会いした際は、最高に美味しいカリーをご馳走します!」
「ホントですか!? やったぁ! 絶対ですよ!?」
「カビーアさん、約束よ? 本気にしてるからね?」
「はい! 期待していてください!」
こうしてカビーアさんのスパイスは、この街の人たちにも好意的に受け入れてもらえる事となった。
カビーアさんの行商市、これが最後にならずに済んで、本当に良かった!
リベンジ、大成功です!
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