第124話 乗合馬車での出会い
「うわぁ~! すっごくキレイですねぇ~!」
走る馬車からは、太陽に向かって伸びる向日葵が辺り一面に咲き誇っている。
青い空とのコントラストに、僕は感動しきりだ。
もしかしたらこれがハルトとユウマが見た、サンフラワーって花かな?
「いいよなぁ。こんだけ咲いてると、ずっと眺めたくなるだろ?」
「ホントですね! 僕、こんなにたくさん咲いてるの初めて見たので、感動しちゃいました……!」
「そっか、ならよかった!」
乗合馬車に揺られながらアレクさんと会話をしていると、一緒に乗っていたお姉さん二人がチラチラとこちらを見ているのを感じる。
あ、もしかして僕、うるさかったかな……?
そう思って大人しくすると、アレクさんはお構いなしに話しかけてくる。
もう……! 僕が気を使って静かにしているのに……!
僕が小さな声で返事をすると、アレクさんは楽しくないか? とシュンと肩を落としてしまった。
いや、そんな子犬みたいな目で見ないで……!
僕が困っていると、お姉さん二人はもう我慢できないとばかりに、声を上げて笑い出した。
「ふっ……、あははは! アレク! お前そんな成りじゃないだろう!」
「もうおっかしいんだから! いつもの俺様な態度はどうしちゃったのよ!」
ん? もしかして……、じゃなくて、確実にアレクさんの知り合いだよね……?
ふとアレクさんの方を見ると、チッと舌打ちをしてお姉さんたちを苦々しく睨んでいる。
「アレクさん、女性を睨んじゃだめですよ?」
僕が小声でアレクさんに注意すると、アレクさんは拗ねた様に口を尖らせた。
「……だって」
「だってじゃないです。知り合いなら尚更ですよ?」
「……ごめん」
「僕はいつもの笑ってるアレクさんの方が好きですからね。そんな顔されると驚きます」
「──……! 気を付ける!」
アレクさんはニカッと笑うと、もうすっかり機嫌が直っている。
面白い人だなぁ。
「お姉さんたちは次の村に行くんですか?」
僕が声を掛けると、ポカンとしていたお二人は慌てて髪や服を整えている。
「私たちはもう一つ先の村に行くんだよ。まさか依頼でここまで来るとは思わなかったけどな!」
「依頼ですか? 大変ですねぇ……」
話を訊くと、もう先に依頼を受けている冒険者と交代の任務があるらしい。
しかも森の中だって……。
仲間ももう向かっているはずだから、と笑っているお姉さんたちはすごく頼もしくてカッコいい。
「あ、でも! 皆さんが依頼を受けてくれるおかげで、僕たちも安心して暮らせます! ありがとうございます!」
「……な、なんていい子なんだ……!」
「え……? アレク、その子……。脅してるわけじゃ……、ないよね……?」
「お前ら……。いい加減、怒るぞ?」
「「ごめ~ん!!」」
ケラケラと笑うお二人は、たぶんアレクさんが本気で怒らないのを知っているのかもしれない。
……なんか、ちょっと羨ましい……。
「お姉さんたちは、いつからアレクさんと知り合いなんですか?」
「私たち? いつからだっけ?」
「覚えてねぇ」
「アレクが王都に来た頃でしょ?」
「え? それじゃあ、お姉さんたちも王都から来たんですか?」
確か来るのに何日も掛かるって聞いたから……。
冒険者も大変なんだなぁ……。
こういう時、電車やバスがあれば便利なのにね……。
「あぁ、たまたま依頼でこの近くに来てたんだよ。そしたら招集がかかってね」
「まぁ、報酬も良いし? 終わったらゆっくり休みた~い!」
「あ、もしよかったら僕の家族がやってるお店があるので、近くに来たら是非いらして下さい! アレクさんも美味しいって食べてくれるんで!」
「へぇ! いいね!」
「じゃあ、終わったら行くね!」
やった! ハルトやユウマみたいに上手く宣伝は出来ないけど、来てくれるって!
「えへへ……、ありがとうございます!」
「「かわいぃ……」」
「マジで見んな、お前ら」
「いいだろう別に。減るもんじゃないし」
「いや、減る! だから見るな」
「やだぁ~! 束縛する男は嫌われちゃうわよ~?」
「──……! なに……!? そんな事は……」
動揺して、チラリと僕を見るアレクさん。
何だろう? 束縛? よくわかんないけど。
「アレクさん、やきもち焼くんですか?」
あんまりこういう話題は得意じゃないんだけど……。
「やきもち……」
「なんか、この子が言うと……、可愛いね……」
「う……。ユイトは、どう思う……?」
「ん~……、好きなら普通なんじゃないですか? えへへ……。なんかこういう話、照れちゃいますね!」
「「「「ん~~……!」」」」
なぜか唸る声が、四人分聞こえた気がする……。
「皆さん! もうすぐ村に到着しますので、完全に停車するまでは立ち上がらない様にお願いします!」
「ユイト、もうすぐだ」
「楽しみですね!」
馬車がゆっくりと速度を落とし停車しようとするが、馬車に慣れていない僕は座っていても体がよろけてしまう。
「うわっ」
「おっと……! ユイト、大丈夫か?」
アレクさんが僕の肩を抱き寄せ、倒れない様に支えてくれる。
「あ、ありがとうございます……! ちょっとバランス崩しちゃいました……」
「気を付けろよ?」
「はい……」
アレクさんの手、僕と全然違うなぁ……。
大きくて力強かった。
触れられた肩が、少しだけ熱を持っていた。
*****
「お姉さん、お仕事頑張ってくださいね!」
「あぁ! 終わったら食べに行くよ!」
「美味しいお料理、期待してるわね!」
「はい! お気を付けて!」
馬車に乗るお二人を見送ると、アレクさんはホッと肩の力を抜いた。
「まさか、こんなとこで会うとは思わなかった……」
「え? 楽しかったですよね?」
すると不貞腐れた様に唇を尖らせ、
「オレは、どうせならユイトとゆっくり乗りたかった……」
なんて、まるで子供みたいな事を言う。
「ふふ、また帰りがあるじゃないですか!」
「……そうかな?」
「今度はゆっくりお話ししましょう」
「ん、そうだな!」
「はい!」
機嫌の直ったアレクさん。
お兄さんだと思っていたのに、今日はなぜか子供っぽい。
それが少し嬉しいなと思ってしまう僕も、今日は少し浮かれているのかもしれないな。
後ろを振り返ると、初めて訪れるエルタル村の門が。
門の近くには警備兵の人が立ってこちらを見つめている。
「よし、じゃあ行くか」
「はい! 楽しみです!」
楽しみだけど、やっぱり少し緊張する……!
僕はアレクさんの傍を離れない様に、ピタリとくっついて門へ向かった。
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