第125話 着いた先には
「……なんですか?」
僕が傍から離れずにいると、アレクさんはこちらを見てニヤニヤと笑っている。
「いや、なんでも?」
「む~……! 顔が笑ってます!」
「ハハ! オレが笑ってる方がいいんだろ?」
「その笑い方はなんかイヤです!」
「ワガママだなぁ~」
そんな事を言いながらエルタル村の門へ近付くと、警備兵のおじさんがこちらに近寄ってくる。
「こんにちは。これはこれは……! 珍しいですね? この村にAランクの冒険者様が来るなんて……」
おじさんは顎髭を撫でながらアレクさんと僕を交互に見つめ、ふむふむと何か納得した様に頷いている。
「いやいや、何回も来ただろ」
「そうでしたか? お連れ様にお薦めのけし……」
「ほら! ユイト! 通ってもいいってよ!」
「え? あ、いいんですか? ありがとうございます……!」
おじさんが話してる途中だったのにも関わらず、アレクさんに手を引かれて、僕たちはズンズンと村のお店が集まっている通りへ向かう。
門の方を振り返ると、おじさんは僕ににこやかに手を振ってくれた。
僕もそれに答える様に、小さく手を振り返す。
「さっきの人、お知合いですか?」
「いや、知り合いっていうか……。ん~、まぁ、知り合いみたいなもんか?」
「ふぅ~ん? いいんですか? 話してる途中だったのに」
「いいよ、別に。もう何度も話してるから気にすんな」
「そうですか? ならいいですけど……」
手を引かれながら歩いていると、僕の村にもあるお肉屋さんや青果店が並んでいる通りへ入った。
お店の人も活気があって賑やかだなぁ。
キョロキョロと見渡していると、ふとお店の人と目が合った。
「あら! お兄さん! この子が例の子?」
お客さんと楽しそうにお喋りしていたお店の人が、アレクさんと僕を見るなり駆け寄ってくる。
「可愛いわねぇ!
「兄ちゃん、やるねぇ! えらい別嬪さん連れてきたなぁ!」
「こんなに可愛かったら、そりゃ必死にもなるわねぇ~!」
お店の人やお客さんたちがワッとアレクさんと僕に群がる様に集まり、いつの間にか僕とアレクさんの手にはたくさんのフルーツがこんもりと……。
「アレクさん……、お知り合いの方、多いんですね……?」
僕が呆気にとられながら呟くと、アレクさんは違う通りに行けばよかった、と項垂れていた。
*****
「あ、このペルシク甘くて美味しい! アレクさんも食べてみてください! はい!」
「え? あ、え? オレも?」
「はい! ほらほら、早く! あ~んしてください!」
「え……、あ、あ~」
「あ~ん」
とりあえずこの両手いっぱいの果物をどうにかしようと、僕たちは村の通りから少し離れた広場のベンチに座っている。
「美味しいですよねぇ~」
「んぐ……、うん……。美味い……」
青果店のおばさんがくれたのは、瑞々しくて甘い旬のペルシク、パインアップル、そして
そして他にも、トマトや
わざわざカットした売り物をポンとくれるなんて……。
アレクさんの知り合いの人たちは、僕みたいな知らない人間になんて太っ腹なんだと感激していた。
「アレクさん、有難いけどこの荷物……。どうしましょうか?」
このままじゃお店には入れないなぁ……。
買い物籠なんか持ってないし、袋を持ってくればよかったなぁ~。
「これか? オレが預かるから平気だぞ?」
「え?」
そう言って、アレクさんは自分の胸ポケットから袋を取り出し、僕が手にしているペルシク以外の果物を全て放り込んでしまった。
あんなにいっぱいあった果物が、一瞬で袋の中に消えてしまう。
「……アレクさん。
トーマスさんに言われてから、僕の中では
こうも簡単に目の前に出されると、アレクさんを狙う人が出てくるんじゃないかと不安になってしまう。
「え? なんで?」
なんでって……。 ハァ……。
「そんなに簡単に出して、僕がもしそれを盗ったりしたらどうするんですか? 危ないじゃないですか……!」
「ユイトだから別に平気だろ? 第一、オレを襲ってくる奴がいたら褒めてやりたいくらいだけどな!」
アレクさんは楽しそうに袋を胸ポケットに仕舞うと、また僕の手を引いて目的のお店へ向かうという。
「わぁ! 隣の村なのに、雰囲気は違いますねぇ~!」
アレクさんに手を引かれ少し入り組んだ路地に入ると、色とりどりの花がたくさん飾られている住宅地が並んでいた。
僕の村は緑が多いけど、この村はキレイな花がいろんな所に植えられていて目にも鮮やかだ。
「だろ? ここを通るだけでも楽しいって聞いたからさ!」
「ホントですね! 今でこれなら、春だったらもっと咲いてるかもしれないですね!」
「かもな。……また、春も一緒に、見に来るか……?」
アレクさんはそう言うと、僕の手をぎゅっと握りしめる。
「そうですね! また一緒に来ましょう!」
「……! あぁ!」
僕は目の前のキレイな花に夢中で、アレクさんがどんな表情をしているのか気付かなかった。
だけど、声は弾んでいる様に感じる。
僕もそっと、繋いだ手を握り返した。
*****
「……ここですか?」
アレクさんに手を引かれて着いた先。
僕の目の前には、今まで見たキレイな花を飾っていた家々とはまた違う、豪華な家が建っていた。
その豪華さに、ちょっと尻込みしてしまう……。
「あぁ、そうだ! 入ろう!」
「え、あ! ちょっと……!」
僕の気持ちを知ってか知らずか、アレクさんはズンズンと
そして何の躊躇もせずにその扉を開けた。
「ばぁちゃん! 来たぞ!」
え!? ばぁちゃん!?
「いらっしゃい」
驚いたのと同時に、僕たちの目の前には上品なお婆さんがふわりと穏やかな笑みを携え、僕たちを出迎えてくれた。
◇◆◇◆◇
※作品へのフォローに応援、いつもありがとうございます。
今回は少し短いのですが、またお休みの日には続けて更新できればいいなと考えているので、読んで頂けると嬉しいです。
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