第115話 ユウマとお菓子作り
夕食を終えて、オリビアさんとユウマはソファでのんびり。
ハルトは素振りをする為に庭に出ようとしたが、暗いから家の中でとオリビアさんに言われ、テーブルを退けて気を付けながら素振りを始めた。
夜も鍛錬の時間にあてるらしい。
筋肉痛にならないか、お兄ちゃんは心配だよ……。
「オリビアさん、ちょっとお店の方行ってきますね」
「えぇ、分かったわ」
僕はトーマスさんにお願いされたお菓子を作るため、もう一度お店のキッチンへ。
「にぃに~!」
すると、廊下を歩く僕の後ろをユウマがついて来た。
「あれ? ユウマ、どうしたの?」
振り向くと、僕に向かって万歳のポーズをしたユウマが立っている。
そのポーズをするときは、抱っこしての合図だ。
ユウマを抱っこすると、子供特有のほんのりいい匂い。
「ゆぅくんもいっちょにいてい?」
「うん、いいよ。眠くないの?」
「うん! ゆぅくんね、にぃにのおりょうりちてるの、みるのしゅき!」
「そうなの? 照れちゃうなぁ~」
何とも可愛い事を言ってくれる弟に、僕は思わず頬をスリスリしてしまう。
きゃあと言いながら嬉しそうに笑うユウマは、トーマスさんじゃないけど、本当に天使みたい。
「トーマスさんは砂糖も遠慮なく使っていいって言ってたし~……」
クリームは明日作って、今日はクッキー生地とパイ生地を仕込もうかな。
生地だけなら一晩寝かせればいいし。
あとは型があればもっと便利なんだけどな~。
またパン屋のジョナスさんに、いいものが無いか訊いてみようかな。
「にぃに、なにちゅくるの?」
ユウマを抱えながらキッチンの中へ入り、棚から薄力粉を取り出す。
「今日はねぇ、トーマスさんに頼まれたお菓子を作るんだよ。でも、もう遅いから生地だけ作ろうかなって思ってたんだ」
「きじ~? ゆぅくんとはるくん、おてちゅらぃちてるの?」
「ユウマとハルトがお手伝いしてくれてるのは、お料理の生地だよ。にぃにが今から作るのは、お菓子の生地」
「しょぅなの~?」
なるほど~、と頷くユウマが可愛くて、ついつい顔が緩んでしまう。
生地の違いはまだ分かんないよね。
「ユウマ、このバター、柔らかくなってるか指で押して、確認してみて?」
「これぇ~?」
ユウマが小さい指で薄い紙に包まれたバターを触ると、ふにゃりと指の痕がつく。
これなら大丈夫そうだな。
夕飯前に出しておいた卵も室温に戻ってるし、早速始めよう。
「ユウマも一緒にする?」
「いぃの~? ゆぅくんもしゅる~!」
どうせなら二人でやった方が楽しいからね。
クッキー生地は常温に戻したバターと卵。
パイ生地には使う直前まで冷やしたバターを使う。
「じゃあ、ユウマにはクッキーの生地の準備をお願いしようかな?」
「ゆぅくん、がんばる!」
「ありがと! 頼りにしてるよ!」
「まかしぇて!」
むん! と胸を張るユウマにほっこりしてしまう。
「まずは分量を量るところからね」
「うん!」
使うのは卵に薄力粉、バターに砂糖、塩はほんの少し。
そしてジョナスさんに分けてもらったベーキングパウダー。
ピザ生地で慣れているのか、粉を量るのも手慣れたもので、すぐに終わってしまった。
まずはバターをボウルに入れて、泡立て器でクリーム状になるまで混ぜるんだけど……。
「これは疲れるから、にぃにがやるね」
僕がそう言って泡立て器を持つと、ユウマが自分がやりたいと言い出した。
「やりたいの? 力を使うから疲れちゃうよ?」
「ん! ゆぅくんもやる!」
「ほんと? しんどくなったら変わるからね?」
「うん!」
そう言って、泡立て器でバターを潰しだしたユウマ。
ちょっと時間はかかりそうだけど、一生懸命だし任せてみようかな?
しんどそうだったらすぐに交代しよう。
ユウマが頑張っている間に、僕はパイ生地の準備に取り掛かる。
以前にオリビアさんに教えてもらったミートパイと、途中まではほとんど一緒。
パイ生地の材料は薄力粉に強力粉に塩を少し。そして冷水とバター。
材料は使う直前まで冷やしておく。
まずはボウルに薄力粉と強力粉をふるい入れて、塩を混ぜる。
冷えたバターをボウルに入れて細かく刻んだら、バターに粉をまぶす様に切り混ぜていく。
そこで一旦ユウマの様子を見てみると、唇を尖らせながらバターを潰すのに奮闘している。
「だいぶ潰れてきたねぇ! もう少し柔らかくなったら、お砂糖と塩を入れようか」
「ほんちょ? ゆぅくんがんばりゅね!」
もう少しと聞いてやる気が出たのか、また小さな手で一生懸命混ぜている。
これをトーマスさんが見たら、泣くんじゃないかな……。
僕も自分の作業に戻り、生地を混ぜていく。
全体が混ざったら真ん中をくぼませ、そこに少しずつ水を加えて混ぜ合わせ、粉がしっとりしたおからの状態になったら、生地をひとまとめにし、布巾で包み冷蔵庫で休ませておく。
「にぃに、できたぁ~?」
ユウマのボウルには、僕が途中で教えた砂糖と塩と卵、そして薄力粉とベーキングパウダーを混ぜたクッキー生地がまとまっていた。
「すごいねぇ! 上手に出来てる! あとは少し伸ばして、冷蔵庫に入れたら今日は終わりだよ!」
「ほんちょ? ゆぅくんうれち!」
頑張って混ぜた生地を褒められ、ユウマはご満悦。
ボウルから取り出して、麺棒で厚さを均等に伸ばし、布巾をかけて冷蔵庫へ。
「明日は一緒に仕上げようね」
「うん! たのちみ~!」
終わった途端に睡魔がやって来たのか、ユウマはこっくりこっくりと舟をこぎだした。
僕は慌てて片付けをし、ユウマを抱えて寝室へ急ぐ。
ダイニングではオリビアさんが紅茶を飲んでいた。
「あら、ユウマちゃん寝ちゃったのね」
「はい。一緒に生地を作ってたんですけど、終わったら安心したのか、急に寝ちゃって……」
「今日はお昼寝もしてないし、余計疲れちゃったのね~。可愛い寝顔だわ~」
僕の腕の中で眠るユウマを見て、オリビアさんは目を細めている。
「あ、ハルトは? もう終わりました?」
そう言えば、素振りをしていたハルトの姿が見えないな。
「ハルトちゃんも素振りが終わって体を拭いたら、すぐ寝ちゃったの。おやすみって言おうとしてたけど、ダメだったみたいでねぇ~」
体を拭いたらその場で寝ようとしたらしく、オリビアさんが慌てて寝室に連れて行ったらしい。
ハルトもお昼寝してなかったからなぁ……。
あ、そうだ。
「オリビアさん、ちょっと相談があるんですけど……」
「あら、なぁに?」
オリビアさんは優しい表情のまま僕を見る。
「最近、ハルトとユウマもお店のお手伝いしてくれてるじゃないですか」
「えぇ、頑張ってくれてるわねぇ。助かっちゃうわ」
オリビアさんはユウマの髪を優しく撫でながら答えてくれる。
ユウマはむにゃむにゃ言いながらぐっすりだ。
「それで、ピザの仕上げも、余裕がある時は二人に任せられないかなぁ~って思ってたんですけど……」
仕込みの時に僕が思った事を話してみると、オリビアさんは少し考えて、にっこりと笑った。
「それも面白そうねぇ! ハルトちゃんとユウマちゃんも器用だし、明日の朝にでも訊いてみて、やりたいって言ったらやってみましょうか!」
「本当ですか? やった!」
「あら、嬉しそうね?」
「はい! 二人が大きくなって違う仕事に就いたら、こうやって一緒にお店の事をするのも少なくなるのかなぁって思って……。ちょっと寂しくなっちゃったんです……」
僕が正直にそう言うと、オリビアさんもそうね、ともう一度ユウマの髪を撫でた。
「一緒に過ごせるうちに、皆で楽しい事しておきましょうか!」
「はい!」
明日が楽しみね、とオリビアさんは僕の頭を優しく撫でてくれた。
二人はどんな反応をするか、僕も楽しみで仕方なかった。
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