第114話 要相談
「今日は何往復で終わるかなぁ~?」
まだ夜も明けきらぬ時間帯、窓の外はまだ暗いままだ。
お店のキッチンの在庫を確認して、まずは買い出しのメモを取る。
お肉の在庫ゼロかぁ~、野菜もほとんどなし! 今日は多めに買わなくちゃ。
牛乳にチーズ、それに卵も。
「さ、気合を入れて仕込みますか!」
まずはある材料でピザ生地とパスタ生地を作っていく。
昨日すれば良かったと少し反省。
だけど、ハルトとユウマが嬉しそうに話すのを聞きながら、家族でのんびりするのも大事だもんね。
昨日はハルトとユウマのお喋りに付き合って、楽しい話をたくさん聞けた。
別荘に行く道中では黄色くて背の高い花がいっぱい咲いていて、すごくキレイだったから僕とオリビアさんにも見せてあげたかったとか。
黄色くて背の高い花……。
オリビアさんはサンフラワーと言ってたけど、向日葵みたいな感じかな?
ライアンくんの別荘にもその花がたくさん咲いていて、そこで僕の作ったクッキーを皆で食べたらしく、また動物のクッキーを作ってとおねだりされてしまった。
ノアと梟さんもその庭に飛んできて、皆でビックリしてたらしい。
いいな~。ノアにも少ししか会えなかったし、僕も梟さんに会いたかった。
バージルさんとライアンくんは魔法が使えるみたいで、バージルさんの魔法で作った光る蝶々がひらひら飛んでてキレイだったんだって。
魔法は興味あるから、いつか僕も見てみたいなぁ~。
あと、他にも色々とあったみたいなんだけど、それはトーマスさんが話すまで誰にも喋っちゃいけないらしく、ないしょです! と言って二人は口を一生懸命押さえてた。
生地を捏ねながら昨日の事を思い出していると、トーマスさんにお願いされたお菓子と蒸しパンの事を思い出す。
砂糖もいっぱい使っていいって言ってたし……。
ちょっと頑張ってみようかな~。
「メニューにも早く
ソフィアさんに運よく分けて貰ったソーヤソース。
結構減っちゃったから、五日後の行商市で見つかるといいんだけど……。
オリビアさんもバージルさんも行くって言ってたし、すごく楽しみだ。
お祭りの屋台みたいな感じかな? 掘り出し物が見つかるといいな。
*****
「おにぃちゃん、おはよ!」
僕が生地を休ませ次の準備をしていると、家に繋がる扉からハルトがひょっこりと現れた。
「あれ? ハルト、おはよう! まだ寝てていいよ?」
まだ辺りは薄暗い。いつもなら寝ている時間帯のハズなのに。
「あのね、さいらすさんに、おしえて、もらいました!」
警備兵のアイザックさんに貰った子供用の短剣を大事にしているハルトは、どうやら本気で強くなりたいらしく、いろんな人に強くなる方法を教えてもらっているらしい。
ライアンくんの従者と言ってたサイラスさんは、毎朝鍛錬を怠るなと言って、剣の素振り百回から始めろと言われたみたいで……。
五歳児に、結構な無茶振りを言うなぁ……。
まぁ、ハルトは俄然やる気の様だけど。
「まだ暗いから、外が明るくなってからにしたら?」
「ん~。じゃあ、たいそう、します!」
「え~? ハルト、頑張るねぇ?」
「ぼく、つよく、なりたいです!」
鼻をふんふんと鳴らし、やる気十分の様子。
そう言って本当にいっちにぃ、と体操を始めてしまった
これはむきむきになるのも、遠くないかもしれないな……。
*****
「「「「いらっしゃいませ(ましぇ)!」」」」
トーマスさんの護衛依頼の期間中、今日からしばらくハルトとユウマはお店で過ごす予定だ。
もちろん、二人はお揃いのオリーブ色のエプロンを身に着けている。
二日振りの営業に少しだけ緊張してしまったけど、にこにこ顔のフローラさんとソフィアさんが来てくれたから緊張もすっかり無くなってしまった。
「おきゃくさま、おひやを、どうぞ!」
「おきゃくちゃま、おてふき! どぅじょ!」
「あらあら、ありがとう」
「今日も可愛い店員さんがいるのねぇ」
ハルトとユウマのお出迎えに、フローラさんもソフィアさんも顔がほころんでいる。
「フローラさん、お久し振りです! ソフィアさん、この間はありがとうございました!」
「ほんと、お久し振りねぇ。早くここのたまごサンドが食べたくてねぇ」
「フローラさん、サンドイッチ好きですもんね!」
早速注文のたまごサンドとフルーツサンドを作りながらお二人の話を聞くと、この数日は大変だったみたい。
フローラさんの息子さん夫婦が営む養鶏場に、肉食の獣か魔物が鶏と卵を狙いに来て、数十羽被害に遭ってしまったそうだ。
何でも毎夜毎夜狙いに来るらしく、その対応に追われて息子さんとお孫さんは連日寝不足気味だったと。
冒険者ギルドに依頼を出したはいいけど、冒険者がいるときに限って来ないそうだ。
頭がいい魔物かもしれないねぇ、とほとほと困っていた時に、この辺りでは見ない行商人がやって来て試作品の魔物除けの護符を譲ってくれたという。
「これがねぇ、本当に凄い効き目でねぇ。あんなに大変だったのにピタリと止んで! おかげでこうやって食べにこれたのよ」
そう言って本当に嬉しそうに微笑むフローラさん。
よっぽど大変だったんだろうな……。
「うちの牧場も同じ被害に遭ってねぇ……、羊が何頭か襲われてしまったの。でもサンプソンが助けに行ってくれたおかげで、うちはそれだけで済んだんだけど……」
怖いわねぇ、と溜息を吐きながら、フローラさんとソフィアさんは頷き合っている。
「村の中心にまでは来ないとは思うけど……。オリビアさんもユイトくんも、戸締りだけはきちんとしてね?」
「ホントねぇ……。気を付けます」
「はい……。怖いですね……、ハルトとユウマにも、ちゃんと言って聞かせます……」
そんなのに襲われたらと思うとゾッとしてしまう……。
今日から、庭に出るときも注意しないといけないかも……。
「そうだわ! ユイトくん、ソーヤソースのレシピありがとうね。フライドチキン? あれはとっても好評だったわ! 特に孫たちが喜んじゃって!」
話題を変えようとしたのか、ソフィアさんが笑顔でお礼を言ってくれた。
あれはね、きっと万国共通の美味しさだからね……。
「あと今度の行商市、本当にあの方たちも一緒にいらっしゃるの……?」
ダニエルくんに伝言を頼んでいたんだけど、ちゃんと伝えてくれていたみたい。
心なしか、ソフィアさんが緊張している様に見える。
「はい! 楽しそうだからって。あ、やっぱり一緒に行くのは、お断りしましょうか……?」
僕が言った言葉に、二人ともギョッとした顔をしてあたふたしている。
「大丈夫よ! ちょっと緊張しちゃうだけだから……! ねぇ、フローラ? やっぱり貴女も一緒に来てくれないかしら……?」
「あら、私も……? どうしましょう……」
「フローラさんも一緒に行きましょうよ! 僕、行商市に行くの初めてなので楽しみなんです! 色々教えてください!」
「そうよ、フローラさん! 皆で行った方が楽しいわ! そうしましょうよ!」
僕とオリビアさんが笑顔でそう言うと、フローラさんも少し考えて、皆でお出掛けも楽しそうねぇ、と言って承諾してくれた。
それにはソフィアさんもホッとした様子。
緊張するって言ってたけど、ソフィアさんってもしかして、人見知りなのかな?
その後も村の人たちが食べに来ては、ハルトとユウマに出迎えられ笑顔でご飯を食べている。
その中にメイソンさんのお弟子さんも来ていたようで、ハルトとユウマが抱き着いていた。
抱き着かれたその人の顔を見て、お連れ様が凄い顔をしていたけど、これは言わないでおこう……。
*****
「今日も珍しく、冒険者の人たち来なかったですねぇ……」
閉店作業をしながら呟くと、オリビアさんもホントねぇ、と首を傾げていた。
ブレンダさんも来ないし、ちゃんと上手くいったか聞きたいのになぁ~。
「依頼で忙しいのかもしれないわね。そのうちに皆一気に来たりしてね?」
「現実になりそうだから、言わないでくださいよ~……」
来てくれたら嬉しいけど、冒険者の人たちが一斉に来たら、またお店の食材があっという間に無くなってしまう……。
来てくれるなら程よく時間を置いて来てほしいな!
まぁ、それは僕の願望でしかないんだけど。
「にぃに~! ゆぅくんもおてちゅだぃ、ちたぃ!」
「ぼくも、したいです!」
カウンター席でおやつを食べていた二人は、僕とオリビアさんが明日の仕込みの準備を始めると、待ってましたとばかりに手を挙げた。
「えぇ~? 本当? 二人とも眠くないの?」
「ゆぅくん、ねむくなぃよ!」
「ぼくも、だいじょぶです!」
「最近ハルトちゃんもユウマちゃんもよくお手伝いしてくれるわねぇ~! とっても助かっちゃう!」
「ホント! いつもありがとう! じゃあ、また生地捏ねるのお願いしてもいい?」
「「うん! まかせて!」」
もうピザ生地は、ハルトとユウマが作ってます! って宣伝した方がいいくらい。
手際も良くなって、僕とオリビアさんは大助かりだ。
……生地まで出来るんだから、明日は二人にピザの仕上げも頼んでみようかな……?
真剣に生地を準備するハルトとユウマは頼もしい。
二人の作ったピザは、バージルさんたちにも好評だったし。
ハルトとユウマの横顔を見ていると、こうやって一緒にお店の事をするのもいつまでだろうなぁと考えてしまう。
ユウマはメイソンさんの弟子になるって言ってたし、ハルトもなんとなく、トーマスさんみたいに体を使う仕事をしそうだな、と思ってる。
もしかしたら、将来は別々の仕事をするのかもしれないなぁ……。
そんな事を考えると、少し寂しくなってしまうけど。
……よし! これはオリビアさんに相談だな!
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