第100話 頼もしい応援団?


「おにぃちゃん、それ、かっこいいです!」

「ほんちょ! にぃにかっこぃ~!」


 おやつのドーナツを頬張りながら、ハルトとユウマが褒めてくれたのは、僕の首に下がったアレクさんに貰ったネックレス。

 シルバーリングに、アレクさんの瞳と同じ色の石が嵌っていてとっても綺麗だ。


「ありがと。これね、さっきお友達になった人に貰ったんだ」


 お客さんに貰ったというより、友達の方がしっくりくるから勝手にお友達になってしまった。

 アレクさんなら怒らなそうだし、いいかな……?


「おともだち? ぼくも、あいたいです!」

「にぃにのおともらち! ゆぅくんもおともらち、なりちゃい!」


 ハルトとユウマも口に牛乳のひげを作りながら楽しそう。


「ふふ、今度また会いに来てくれるって! その時お友達になってもらおうね!」

「「やったぁ~!」」


 また服を返しに来てくれるって言ってたし、その時二人と挨拶させてもらお。

 僕はあまり深くも考えずに、アレクさんに貰ったネックレスをそのまま身に着けていた。


 お店を閉め、寝室を覗いたら、オリビアさんはスヤスヤと寝息を立てていて、ハルトとユウマはその傍らで二人で大人しく絵本を読んでいた。

 僕は二人を呼んでおやつを用意する。

 テーブルに準備された揚げたてのドーナツと牛乳に、二人はとても嬉しそうに席に着いた。


 お客さんもあれから結局アレクさん以外来なかったし、しかも明日はお店の定休日だし……。

 今日はゆっくりしちゃおうっと。

 ハルトとユウマのほっぺをうりうりと触りながらソファに座っていると、オリビアさんの歩いてくる音がした。


「オリビアさん、体調はどうですか?」

「おばぁちゃん、もう、だいじょうぶ?」

「ばぁば、いたぃたぃなおった~?」


 三人で一斉に声を掛けてしまいオリビアさんが驚いている。

 僕たちも顔を見合わせて笑ってしまった。


「ふふ、もう大丈夫よ、今日はありがとう。雨も止んだみたいね?」


 オリビアさんが裏庭を見ながら、ホッとした様に呟いた。

 今朝と違い、顔色も良くなったみたいで安心する。


「はい、ついさっき上がったんです。トーマスさん、濡れてないといいんだけど……」

「ホントねぇ……。……あら? ユイトくん、それどうしたの?」


 オリビアさんは僕のかけているネックレスに気が付いたようで、目を見開いて驚いていた。


「あ、さっきお友達になった人に貰ったんです。今日のお礼だって」


 そう言って僕が服の襟部分に隠れていたリングを見せると、オリビアさんはまた目を見開いて止まってしまった。

 ハルトとユウマも首を傾げ、不安気に僕の方を見上げてきた。

 あれ? 何かしちゃったかな……?


「……ユイトくん。それを贈った人は、どんな人だった……?」

「え? どんな人……? えっと、冒険者で、王都からの護衛が終わって食べに来たみたいです。目が緑色で、とっても綺麗でした!」


 あとなんだっけ……?

 タオルと服を貸して、ハンバーグを何度もお替りして……。


「あ! トーマスさんとオリビアさんの事も知ってるみたいでした! トーマスさんに挨拶せずに来ちゃったから、怒られるかなって……」

 

 僕が言い終わる前に、オリビアさんは額を押さえて何か考えている様だった。


「その人の名前は……。もしかしてだけど、アレクシス……?」

「あ、そうです! 皆にはアレクって呼ばれてるって!」


 よかった! やっぱり知り合いみたい!

 僕がホッとしていると、オリビアさんは渋い表情でまた考え込んでしまった……。

 また頭が痛くならないか心配になってくるな……。


「ハァ……、ユイトくん……?」

「? はい……」

「それはね、男性が想い人に贈る事で有名なものなのよ……」

「はぁ……?」


 この国では、自分の瞳の色の石を埋め込んだ物を、好きな相手に渡して交際を申し込むのが一般的らしく、それを受け取ると晴れてお付き合いとなるそうだ。


「だからね? アレクがユイトくんを気に入って、それを贈ったって事になるの……」


 アレクさんが僕を……? う~ん……、でもなぁ~……。


「今日のお礼にって言ってたし、第一、僕は男ですよ? そんな訳ないじゃないですか~!」


 やだなぁ、オリビアさん!


 僕がそう笑って言うと、オリビアさんは困った様な、呆れた様な顔をして溜息を吐いた。


「ユイトくんが気にしないなら……。まぁ、いいか……。あ、でもトーマスには見つからない様にしなさいね?」

「トーマスさんですか?」

「大事なうちの子にそれが贈られたって知ったら、どうなるか私でも分からないから……!」

「そんなにですか……?」

「ユイトくんが気に入ってるなら何も問題はないのよ? でもね、やっぱり家族としては見過ごせないというか……」

「ん~……。分かりました……」


 結構気に入ってたけど、見つからない様にしなきゃダメなのか……。

 寝るときにでも着けようかな……?


 僕がアレクさんに貰ったリングをいじいじと触っていると、オリビアさんが謝りながら急に抱き着いてきた。


「あぁ~! ごめんなさいユイトくん! 私もそんな顔させたい訳じゃないのよぉ~!」

「え? どうしたんですか、オリビアさん?」

「そうよね、好きになるのに問題児だとか、時間なんか関係ないわよね! 私ったらホントにもう~!」

「えっ? すき!?」


 いきなりの事に、頭が全く追い付かないんだけど……!

 しかも問題児って言ってた……!


「分かったわ! 私が二人を認めさせてみせるから! 任せておいて!」

「ちょ、オリビアさ……」

「こうなったら作戦を練らなきゃね! ハルトちゃんとユウマちゃんも応援しましょ!」

「はい! ぼく、おにぃちゃん、おうえんします!」

「ゆぅくんも! にぃにのみかちゃ! だぃじょぶ!」


 絶対ハルトとユウマも解ってない気がするんですけど!?

 ノリで言ってるよね!?


「頑張りましょうね! ハルトちゃん! ユウマちゃん!」


「「「えいえい、おー!」」」


 オリビアさんに勘違いされたままだけど、疲れたからもういいかな……?

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