第101話 アレクの決意と、トーマスの誤算
「全く、お前というヤツは……!」
店を出て、オレは仲間の待つ宿へと向かった。
見つからない様に入ったつもりだったが、運悪く宿の食堂に集まってメシを食ってる最中だった。
そしたら案の定リーダーに捕まって、長々と説教を食らってる。
「だからごめんって! ちゃんと謝ってんだろ!」
「ハァ……、反省していない様だな……?」
「イッテェ!!」
クッソ! 思いっきり頭を叩きやがった……!
拳じゃないだけまだマシなだけで、そのバカ力で殴ったら死んじまうだろうが……!
「トーマスさんは気にしていない様だったがな……。ホントにお前の行いには、毎回肝が冷える……!」
リーダーは説教が始まると長ぇからな……。
だからモテねぇんだよ……。
「ん? お前いま、なにか言ったか?」
「……なんも、言ってねぇ……」
こういう時だけ聞こえるの、マジで勘弁してくれよ……。
「リーダーはモテないって言ってましたぁ~!」
「あっ! テメェ! チクりやがったな!」
この女はステラ。間延びした口調がたまに……、いや、いつも癪に障るが、実力だけは認めてる。
コイツに氷漬けにされていった人間を思い出すと、マジで仲間で良かったなと心底思う。
「アレクさんは嘘が苦手ですもんねぇ~?」
「ほぅ……? て事は、ステラもそう思ってるという事でいいんだな?」
「えっ!? やだやだ、違いますよぉ~! ただアレクさんは正直者って言っただけじゃないですかぁ~!」
「あぁ~ん! リーダーがぶったぁ~!」
あぁ~んじゃねぇよ、頭を小突かれただけだろうが!
頭を押さえ蹲るステラに、マイルズが黙って治癒魔法をかけている……。
いやいや、そんな事に貴重な治癒をかけんなって……!
このマイルズは子供と年寄りに弱いからな……。てか、オレの方にかけろよ……!
「リーダー、暴力は、よくない……」
首を横に振りながら、坊主の大男が髭面の大男に注意する姿は笑えるもんがある。
「む……。すまない……」
「ん……」
これでオレへの説教も終わりだな……。マイルズに感謝だ。
まぁ、オレに治癒はかけてくれなかったけどな!
「なぁ、エレノアは? さっきから見当らねぇけど」
こういう時にいっつもオレを助けてくれるエレノアが珍しくここにいない。
正直、オレと性格は正反対だがウマが合うっつーか、精神的に助けられてるのは間違いない。
「あぁ、着替えて恋人に会いに行ったぞ? 休暇中はその恋人の家に泊まるそうだ」
「はぁ~、憧れちゃいますぅ~! いっつも凛々しくて素敵なエレノアさんが、ふにゃっと笑う顔、初めて見ましたぁ~!」
「幸せそうだ……。よかった……」
「へぇ~、そういやこの近くだったよな? て事は、休暇中はパーティで依頼は受けねぇの?」
リーダーの事だからこの街のギルドに申請して、いくつか受けるもんだと思ってたんだけどな。
「いや、王都に帰るまでは皆でゆっくりしよう。たまにはいいだろう?」
「ホントですかぁ~!? やったぁ~!」
「ん……。それは、賛成だ……」
「マジかよリーダー……! あんた最高だよ……!!」
「アレクにそう言われると、気味が悪いな……」
「リーダーが頭ぶつからですよぉ~……!」
「治癒……、かけるか……?」
酷い言われようだが気にしねぇ! これで時間を気にせずユイトの店に行ける!
オレはそれだけでこの護衛依頼に感謝した。
だってここに来なきゃ、オレの天使に会えなかったんだからな!
この休暇中に絶対に恋人になる!
そんで、トーマスさんとオリビアさんに絶対に認めてもらう!
オレは心の中で、そう決意した。
*****
「トーマス、どうした?」
急にゾワゾワッと悪寒が走り、オレは辺りを見回した。
どこにも不審な動きなどは見られない……。
ただの気のせいか……?
「いや、なんでもない。気のせいだったようだ」
「そうか、これから長いからな。体調には気を付けてくれよ?」
「あぁ、分かってるよ」
オレの動きを気にしてか、アーノルドが声を掛けてきた。
さっきの雨のせいか? それとはまた違ったような気がするが……。
「トーマスおじさま! 私もその牧場に行ってみたいです!」
オレの服を引っ張り、先程まで馬車の中で話していたハワードの牧場の話になる。
どうやら普通の馬よりも大きいというサンプソンを、その目で見てみたいようだ。
殿下と言っても、まだ十の子供だものな。
バージル陛下とライアン殿下の予定は空いているか、後でイーサンに訊いてみようか……。
「ライアン殿下! もしお怪我などされたらどうするのです! 私は反対です!」
「まぁまぁ、殿下も気晴らしが必要だと俺は思うぞ?」
「サイラス! 貴方はどうしていつもそうなんですか!」
また始まった……。
どうやらフレッドは、ライアン殿下の側近見習いとして気を張っている様だな。
このサイラスみたいにとは言わないが、もう少し肩の力を抜かないと疲れてしまうだろうに……。
そんな事を思っていると、ライアン殿下がオレの服を分からない様にぎゅっと掴んでいる。
まぁ、自分のためとはいえ、こんな事が毎日だと殿下も疲れるだろうな……。
表情もどことなく悲しそうに見える。
「ライアン殿下。イーサンに予定を訊いて、牧場に行けるか交渉してみよう」
オレがこそっと耳打ちすると、先程までの物憂げな表情から一変し、パアッと笑顔を見せてくれた。
それまでは内緒だぞ? と付け加えると、頷きながらも興奮を抑えられないようだ。
子供は笑顔の方がいい。
オレはあの子たちに出会ってから、毎日そう思っている。
「この後の予定は、領主の館で会食ですが……。息子が後を継いで、その挨拶のようですね」
「む~、私の貴重な休暇だというのに……! 見ろ! 湿気のせいで髪がまとまらない! これでは相手にも失礼だろう!」
「休暇ではありませんよ? 何度言えば分かるのですか……。それに髪はこちらで整えるので心配無用です」
「むむ~、それよりもオリビアの店に行くのはいつだったかな? また楽しく酒が飲みたいんだが」
「あぁ、その事なんだが……」
オレが口を開くと、周りの視線が一気に集中した。
「なんだ……? もしや都合が悪いのか……?」
「オレも毎回楽しみにしていたんだが……」
「実を言うと私もです……」
「いやいや、そうじゃなくてな……」
三人とも口々にそう言うが、何なんだ? 王城にはそんなに楽しみが無いのか?
「今回はライアン殿下も一緒にどうかと思ってな。うちに子供がいるだろう? だから寂しい思いもしなくて済むと思うんだが……」
「それはいいな! ライアンに聞いて、私もその子たちに会ってみたかったんだ!」
「あと、今回は上の子が料理を作ってくれるから、楽しみにしておいてくれとオリビアからの伝言だ」
「なに……? そんなに自信があるのか? オレも味にはうるさい方だぞ?」
「アーノルドは口に入れば何でも美味しいでしょう?」
「失礼だな! 苦いものは好かん!」
「子供か……」
全く、こんな軽口を叩けるのも仲間内だからだな。
「また食べに来る日を教えてくれ。オリビアたちに伝えておくから」
まぁ、いつも通り食べに来るのは王都に帰る直前だろう。
……と、踏んでいたが、今回のオレの予想は大幅に狂ってしまった。
「イーサン、明日の夜はどうだ?」
「そうですね、今日の会食が無事に終われば、あとの数日はほとんど視察だけですし問題ありません」
「料理も楽しみだな! トーマス、頼んだぞ!」
いい笑顔で答える三人に、断るという選択肢はオレには残されていないようだった。
「トーマスおじさま! 私も楽しみです!」
グゥ……ッ、オリビア、ユイト、すまない……。
またしても、オレの判断ミスかもしれん……。
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