第62話 親友とサンドイッチ


「いらっしゃいませ! こちらのお席にどうぞ!」


 営業再開二日目。今日はお客様の入りもゆったりだ。

 いま店内にいるのは、近所のご婦人グループ三名様と、フローラさんとお友達のソフィアさん。そしてカウンター席には、この村の警備兵のアイザックさんが座っている。


「フローラさん、今日も来てくれたんですね! ありがとうございます!」

「サンドイッチが美味しくってねぇ。この人にも食べてほしくって」

「そうなの。フローラがあまりにも言うものだからね、一緒に行きましょうって来たのよね」

「ふふ、ありがとうございます!」


 ソフィアさんはハワードさんのお母さんなんだって。二人はこの村に嫁いできてからの付き合いで、一番の親友と言っていた。すごく仲が良さそうで、ちょっと羨ましいな。


「私は今日は、厚焼き玉子のサンドイッチを頂くわ。あとフルーツサンドね」

「はい! フルーツサンドはすぐお持ちしましょうか? もう少し後の方がいいですか?」

「そうねぇ、玉子サンドのあとでもいいかしら?」

「はい! かしこまりました!」


 フローラさんはフルーツサンドを気に入ってくれたみたい。


「私はどうしようかしら……? 歯が弱いから、柔らかいと有難いのだけれど……」

「それだと……、オムレツと、昨日フローラさんが召し上がったたまごサンド、フルーツサンドが食べやすいと思います」

「そうねぇ、量も食べられないからこのたまごサンドを頂こうかしら……。フルーツサンドはまた今度にするわ」

「あらぁ、じゃあ私のと半分こにしましょうよ。そうすれば一つずつ食べれるわ」

「いいの? あなた食べるの好きなのに……」

「ふふ、今日はソフィアにこんなに美味しいのよって分かってもらうために来たんだからいいのよぅ」

「まぁ! 優しいのねぇ! じゃあ、私はたまごサンドをお願いします」

「はい! ではご用意します。少々お待ちください」


 フローラさんとソフィアさんの会話を聞いていたオリビアさんも、とっても嬉しそう。


 僕はフローラさんの厚焼き玉子を焼き始める。

 フライパンに油をひいて、卵と牛乳を混ぜた卵液を流し入れる。弱火でじっくりふわふわのスクランブルエッグ状になる様に、かき混ぜる手を止めない。


「どうぞ、お待たせしました! たまごサンドです」


 オリビアさんはソフィアさんのたまごサンドを完成させ、席に運んでいる。

 どうかな、美味しいかな? 僕はその様子をチラチラと覗き見ながら、焦げない様にフライパンを振る。

ソフィアさんはいただきます、とたまごサンドを一口パクリ。もぐもぐと咀嚼するとパッと目を見開いた。


「とっても美味しい! ふんわりしてて食べやすいわぁ~」

「そうでしょう? これを食べてもらいたかったのよぅ」


 美味しそうにたまごサンドを頬張るソフィアさんを、それはそれは嬉しそうにフローラさんが見つめている。

 よかった! 気に入ってもらえたみたいだ。顔がついついニヤけてしまう。


 卵液がふんわりと固まってきたら、食パンのサイズに合わせる様に折りたたむ。少し崩れても、あとで食パンに挟んじゃうから問題なし。

 食パンの片方にはバター、もう片方にはお手製のトマトソースを薄っすら塗って、玉子を挟んでカットすれば完成。


「お待たせしました! 厚焼き玉子サンドです」


 フローラさんはいただきます、と玉子サンドを両手で掴みパクリ。ソフィアさんも興味津々。


「これもすっごく柔らかくて優しいお味ねぇ。これがうちの卵を使ってくれてるなんて、とっても嬉しいわぁ」


 その後も、フローラさんとソフィアさんは二人でサンドイッチを頬張りながら会話を弾ませていた。



「あの玉子のパンも旨そうだなぁ……」


 そう声に出して呟いたのはアイザックさん。いまはミートソースたっぷりのパスタを頬張っている。


「ユイトがオリビアさんの店を手伝うとはなぁ。オレも安心したよ」

「その節はご迷惑をお掛けしました……!」

「いやいや、オレは何もしてねぇよ! まさかこんなに旨いもんを作れるなんざ思わなかったからなぁ……。また通うのが楽しみになったよ」

「そうよねぇ。アイザックさんも、このお店が出来た頃からずっと来てくれてるものね」

「そう考えると長いよなぁ。オレも年を取るわけだ!」

「いい年の取り方してるじゃないの!」

「お? そうかぃ? オリビアさんに言われるとそう思えてくるな! ハハ!」


 アイザックさんは元々このお店の常連だったらしく、夜も結構食べに来ていたそうだ。

 オリビアさんの足の調子が悪くなってからは心配してたけどユイトが来たから大丈夫だな、頑張れよって応援してくれた。



「今日はあのおチビちゃんたちはどうしてるんだ?」

「二人ならトーマスが裏庭で一緒に遊んでるわ」

「あのトーマスがなぁ、最初は信じられなかったが……。あの可愛がりようは見てておもしろいな!」

「ふふ、それ皆に言われてるわね、きっと」

「だろうなぁ!」


 カーターさんも冒険者の人たちも驚いてたけど、トーマスさんすっごく優しくて頼りになるんだけどなぁ……。

 子供好きには見えないのかな? 顔が怖いとか? ん~、ハルトとユウマと一緒にいると、そんな風に思わないからなぁ。

 あ、フローラさんたち、そろそろフルーツサンド食べるかな?


「トーマスさんって、そんなに子供好きなイメージが無いんですか?」


 フルーツサンドを皿に盛りつけながら、アイザックさんに訊いてみた。


「ん~? 昔のAランクパーティ時代のトーマスを知ってる身から言わせると、間違いなく嘘だと思うな。人を寄せ付けないというか、険があるというか……」

「そうねぇ、昔はあんまり人を信用してなかったからねぇ」

「え……!? そうなんですか? トーマスさんあんなに優しいのに?」


 お待たせしました、とフルーツサンドを持って行くと、フローラさんとソフィアさんは仲良く一切れずつ半分こしている。


「トーマスの険がとれたのは、オリビアさんと結婚した頃からじゃないか? 幸せそうだったもんなぁ」

「やだ! 私のことはいいのよ~!」

「そうなんですね……。ハルトとユウマと一緒に遊びたいって言ってるくらいだから、僕てっきり……」



 昨日も皆で一緒に寝ましたし……。



 そう言うと、なぜかアイザックさんが固まった。


「……あのトーマスが? ……ハハハ! そうかそうか! これはおもしろい事を聞いたな!」


 アイザックさんがお腹を抱えて笑っている。そんなにおかしいこと言ったかな? オリビアさんの方を見ると、お皿を拭きながらアイザックさんに、エリザには言っちゃダメよ~、と笑っている。


「よし! 今度トーマスにおチビちゃんたちと遊べるモン、なんか持ってくるよ!」


 今日はいい気分だ、と言って、帰るまでずっと嬉しそうに笑っていた。


 アイザックさんは、昔のトーマスさんを知っているからあんなに嬉しそうだったのかな?

 いつか昔のことを聞いてみたいな、と僕は思った。







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