第31話 おてつだい大作戦①
ハルトとユウマも今朝の目覚めはバッチリだった様で、いつもより早く起きてトーマスさんとオリビアさんに挨拶している。
「今日は早起きだな、二人とも。ちゃんと顔も洗ってえらいぞ」
「ぼく、ちゃんと、おきれます!」
「ゆぅくんも! できりゅよ!」
トーマスさんに褒められ、二人は揃ってエッヘンと胸を張りポーズを決めている。
それを見たトーマスさんとオリビアさんは、目尻をこれでもかと言うくらい下げて笑っていた。
でも惜しい……! 今日も後ろの髪の毛が跳ねている……!
それを指摘しないあたり、この二人は弟たちにすごく甘いことが窺えた。
今日の皆の予定はこうだ。
トーマスさんはお肉屋さんに頼まれたお肉(豚の魔物と鳥の魔物)の納品依頼の続きで、豚の魔物を狩りに行くそうだ。ちょっと遅くなるから夕食は要らないって。
オリビアさんは明日の仕込み、そして昼食後にエリザさんと一緒にメイソンさんの家へベビー服の作り方を教えに行く。
そして僕たち兄弟は秘密の作戦を決行する!
エリザさんには協力してもらっているので大丈夫だと思うけど、バレてはいけないので失敗せずに一度で成功させなければならない…!
「じゃあ行ってくるよ。今日は子供たちだけで心配だが……。ハルトもユウマも、ちゃんとユイトの言うことを聞いて、危ないことはしないように。いいね?」
「はい! 大丈夫です! 気を付けて行ってきてください!」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ~! トーマスも気を付けてね? 行ってらっしゃい」
「おじぃちゃん、いってらっしゃぃ!」
「じぃじ、いってらっちゃ~ぃ!」
「あぁ、いい子にしてるんだぞ?」
「「「はぁーい!」」」
心配だなぁ、とどこか怪しんでいる様子のトーマスさんを、僕たちは満面の笑みで送り出した。
フゥ……! アブナイアブナイ……!
トーマスさんを見送った後、僕は今日も明日の分の食材の買い出しに向かう。
昨日もすごい量を買ったけど、まだ買っておいた方がいいと言うトーマスさんとオリビアさんの意見を受け、また買い物籠いっぱいに食材を購入。
さらに店と家を三往復した。
今日は明日のために大量の野菜や肉のカット、パスタやピザ用の生地を捏ねたり、やることがたくさんある。
本当は食材の鮮度の面で当日に仕込みたいんだけど、かなりの量を食べると聞いていたから間に合わないだろうというオリビアさんの判断で、今日と明日、そして当日の朝から昼にかけて仕込みをすることになった。
ベビー服を教えに行くのは、僕たちの休憩時間(ハルトとユウマのお昼寝タイム)に行くらしいので、そこが今日の最重要ポイント。
ハルトとユウマも気合が入っているので、早速腕まくりをしてやる気十分だ。
まずは野菜の仕込み。
オニオンや
マヨネーズは日持ちするか分からないので、当日の朝に仕込むことにする。マヨネーズが作れたから、今度はタルタルソースにも挑戦してみる。なので卵も多めに茹でておいた。
野菜の仕込みを終え、次はハルトとユウマの待ちに待った生地作り! ピザ生地はハルトとユウマ、パスタの生地は僕が担当し、生地を休ませるまでの工程を一緒に作業していく。
オリビアさんは時々、ハルトたちの補助をしながらミートソースを仕込んでいる。
このお店には強力粉に近いものしかなかったんだけど、パン屋のジョナスさんに相談したら薄力粉にドライイースト、ベーキングパウダーまで分けてもらえた!
今度ジョナスさんに、食材を取り扱う専門のお店を紹介してもらえる事になったから今からすっごく楽しみだ!
まずはピザ生地から。
強力粉、薄力粉、砂糖に塩、ドライイースト、水、オリーブ油をきちんと量る工程。ハルトとユウマは顔中粉だらけになりながらも真剣に量っている。
強力粉と薄力粉をザルで振るいながら大きめのボウルに入れ、粉の真ん中にドーナツ状の穴をあけて、そこに残りの材料をすべて入れる。
ハルトがボウルを押さえユウマが木べらで混ぜる、そして交替し今度はハルトが混ぜてユウマがボウルを押さえての作業だ。
ある程度混ざってきたら、それを作業台の上に取り出し手で捏ねていく。
二人とも真剣そのものだ。生地を叩きつける工程はまだ二人では力が足りないので、ここでオリビアさんに手伝ってもらう。
ストレス解消になると言って楽しそうにやっていた。
生地がまとまってツルっとしてきたら、ボウルに戻して布巾をかけ生地を休ませる。その間ハルトとユウマは牛乳を飲んで休憩だ。口に白いひげを付けてふうと一息。一仕事終えた顔をしていて面白い。
そして僕の担当のパスタ生地。
材料は強力粉、卵黄に水、オリーブ油、塩。これもきちんと分量を量り、大きめのボウルに粉を振るい入れて卵黄、水、オリーブ油、塩を加えて混ぜ合わせしっかりと捏ねていく。
この生地は半日ほど休ませるので、生地を伸ばして切るのは明日の仕事。乾燥しないように布巾をかけて冷蔵庫の中へ。
「ハルト、ユウマ、お疲れさま! 生地作りどうだった?」
「きじ、すっごく、たのしぃです!」
「ゆぅくんも! たのちぃよ!」
「もうちょっとしたら、また生地作り始めるからね? それまでゆっくりしてて」
「「はぁ~い!」」
二人は足を揺らしてご機嫌の様子。
こんなに楽しそうなら、また一緒にお手伝いを頼もうかな。
そろそろ生地の発酵もいい具合かな、と二人を呼んでボウルの中をそ~っと覗いてみると、生地は先程よりも二回り近く膨らんでいた。
「わぁ~! おっきぃ! すごぃです!」
「なんでぇ? なんでおっきぃのぉ?」
生地を見た二人は大興奮で、取り出した生地を可愛い指先でつんつんしている。
「生地もお休みして大きくなったんだよ~! いまからこの中に溜まっているガスを抜いてもらいます!」
「おにぃちゃん、がすって、なんですか?」
「ガスはねぇ、この生地の中に溜まった空気のことだよ。この空気を抜いたら、もっと美味しいピザ生地になるんだよ」
「おぃちくなりゅの~?」
「うん! そしたらトーマスさんも喜ぶねぇ?」
「じぃじ、よろこぶ?」
「おじぃちゃん、おぃしぃの、あげたぃ、です!」
「では、皆でもっと美味しくしましょ~! エイエイ?」
「「「お~!」」」
台に取り出した生地をハルトとユウマが体重をかけてガス抜きし、ある程度抜けたら今度は濡れ布巾を被せて少し休憩。
そして打ち粉をした台に生地を取り出し、作る枚数分に生地を切り分けていく。切り分けた生地は丸くして、一つずつ麺棒で伸ばし、伸ばした生地にフォークで穴を開けていく。
大体このくらいの大きさにしてね、と一つ見本を見せてお願いしたら、二人はまた真剣に伸ばし始めた。オリビアさんが、ハルトちゃんもユウマちゃんも今までに見たことないくらい真剣ね、と笑っている。
何というか、二人とも職人の顔をしているな…。
「ふぅ……! できました……!」
「いっぱぃ! ちゅくったよ!」
「二人ともありがとう! すっごく上手だね!」
「あら、ホントだわぁ~! とってもきれい!」
僕とオリビアさんに褒められて、二人は満足そうにエッヘン! と胸を張ってポーズを決める。あまりにも可愛くて、オリビアさんと二人で笑ってしまった。
生地は明日焼くので、今日は一枚ずつ冷凍保存。
ハルトとユウマはまたしばらく休憩だ。
「あら、もうこんな時間? そろそろお昼にしましょうか」
「そうですね。二人とも、手を洗いに行こっか」
「「はぁ~い」」
今日のお昼は簡単にオムレツとサラダに牛乳と、シンプルなもの。
ちょうど食べ終わった頃、エリザさんがオリビアさんを迎えに来たようだ。
「オリビアさん、後片付けはやっておきますね」
「助かるわ! 留守はお願いね? 誰か来ても、確認してから開けるのよ?」
「ふふ、大丈夫です!」
「じゃあ行ってくるわね!」
「はい、気を付けて!」
「おばぁちゃん、いってらっしゃぃ!」
「ばぁば! いってらっちゃ~ぃ!」
にこにこするオリビアさんを見送り、僕たち三人は顔を見合わせ頷いた。
「よし! いまから時間との勝負だよ! ハルト! ユウマ! 頑張ろうね! エイエイ……?」
「「「おー!!!」」」
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