第30話 ミートパイと星に願いを
家を出た後、オリビアさんが見ていないことを確認してエリザさんにお礼を伝え、僕は二度目の買い出しへ向かった。
次の買い出しは、明日の作戦でハルトとユウマと一緒に作るのに欠かせない、とっても大事なもの。
「こんにちは~!」
「あ、いらっしゃい!」
ハワードさんのお店に行くと、店番をしている息子のダニエルくんがにこやかに出迎えてくれた。
「この間は騒がしくしちゃってごめんなさい」
「いやいや、父さんも楽しそうだったし大丈夫だよ」
初めてこの店に買い物に来た日、ユウマが牛乳をくれたハワードさんを気に入っちゃって……。
ずっと離れずに話してたからダニエルくんが代わりに裏で注文とか在庫の確認、従業員さんに指示とかしてくれてたみたいなんだよね……。
仕事を増やしてしまって、本当に申し訳ない……。
「今日はずいぶん買い込むんだね? 重たくない?」
「明後日トーマスさんの知り合いの人がたくさん来るから、その分の仕込みで使うんです」
買い物籠いっぱいに牛乳とバター、生クリームにチーズを買い込むと、重たかったらあとで配達しようか? と提案してくれた。
これくらいなら、たぶん大丈夫…! 明日も買いに来るかもしれないと伝えると、満面の笑みでお待ちしてますとお見送りしてくれた。
そして次は卵を売っているフローラさんのお店…! と思ったけど、やっぱり重たいので一度家に戻ることにした。
冷蔵庫に入れるのはオリビアさんに任せて、僕は急いでフローラさんのお店へ。
「あらぁ、いらっしゃい」
「こんにちは!」
優しい笑顔で迎えてくれたフローラさん。ここでも卵をたくさん購入して、割れない様に卵専用の買い物籠へ。玉子サンドを楽しみにしてくれているので、お店を開けたらすぐに食べに行くわねと言ってくれた。
僕が急いでいたのには理由があって、今日はオリビアさんにミートパイの作り方を教わるんだ! パイは少し時間がかかるから、お昼には作る準備をしないといけない。だから、卵を割らないように慎重に、そして尚且つ早足で帰る。
「遅くなってすみません! オリビアさん、ただいま戻りました~!」
「おかえりなさい、ユイトくん! 今日はお疲れ様!」
「おにぃちゃん、おかぇりなさぃ!」
「にぃに、おかぇり~!」
「ハルト、ユウマ、ただいま~!」
今日の昼食は軽くスープとパンで済ませ、ミートパイを作るため手を洗ってキッチンへ。
「じゃあ、早速作りましょうか!」
「はい! お願いします!」
今日もハルトとユウマはカウンターで応援……、と思いきや、ミニトマトのヘタを黙々と取っている。二人の表情は真剣そのものだ。集中しすぎて唇がとんがっていてすごく可愛い。
パイ生地の材料は小麦粉に冷水、そしてバター。
材料は使う直前まで冷やしておくこと。
まずはボウルにバターと小麦粉をふるい入れて、ボウルの中でバターを細かく刻んだら粉とバターをすり合わせる。
全体が細かなポロポロになったら真ん中をくぼませ、そこに水を加え、粉をかけながら更に全体を切るように混ぜ合わせていく。
生地をひとまとめにし、切り込みを十字に入れて、布巾で包み冷蔵庫で半刻休ませておく。
ハルトとユウマはと言うと、今度は
生地を冷やしている間に、次はミートパイのタネ作り。
フライパンに油を熱し、みじん切りにしたオニオンを入れてよく炒めたら取り出して冷ましておく。
ボウルにトーマスさんが狩ってきたレッドカウという牛の魔物のひき肉、パン粉、卵、手作りのトマトソース、少しだけ塩と胡椒を入れ、粘りがでるまでしっかり捏ねる。
そこにオニオンを加え、もう一度混ぜ合わせる。
時間が経ったら粉をふるった台に生地をのせて、上から麺棒でぎゅっぎゅっと押し付ける様に生地を伸ばしていく。
そして生地を三つ折りにして、また麺棒を押し付ける様に伸ばしていき、布巾に包んでまた冷蔵庫へ。
それを何度か繰り返し、しっとりとまとまってきたら生地の完成!
パイ生地は上と下の二枚分になるように切り分けて、薄く伸ばしておく。
まずは下用のパイシートを型より大きめに敷き込み、余分な生地を切り落として底にフォーク等で穴を所々あけ、混ぜ合わせたタネを敷き詰める。
上用のパイシートは、打ち粉をしながら麺棒で少し延ばし、帯状に切り分ける。
帯状に切ったパイシートを編み込むようにのせ、帯に溶き卵をぬり予熱しておいたオーブンで小半刻程焼く。
焼き上がり、粗熱が取れたら器に盛り完成!
すっごく手間が掛かるけど、見た目も匂いも完璧で、これは絶対美味しいに決まってる…!
さっきからハルトとユウマがそわそわしてるし、家中が美味しい匂いで充満してる。
あぁ~~~! トーマスさん、早く帰ってきて…!
*****
「皆揃ったわね! はい、どうぞ召し上がれ!」
「「「「いただきます(まちゅ)!」」」」
「「「おいし~~~っ!」」」
オリビアさん自慢のミートパイ、夢中で食べました。
トーマスさんの好物なハズだよね。口いっぱいに頬張って食べる僕たちを見て、二人は取らないからゆっくり食べなさいと笑ってた。
思わず、またこのお肉獲ってきてくださいってトーマスさんにお願いしてしまった。
それを聞いたトーマスさんとオリビアさんは、すごく嬉しそうだった。
「ほぉー、それでメイソンの所に?」
夕食後、ソファーでのんびりしながら明日の予定の話に。
「そうなのよ。産まれてくるお孫さんに、手作りのベビー服を贈ってあげたいんですって! だから明日のお昼に、エリザと一緒に教えに行くことになったのよ」
「そうか。アイツは手先が器用だからすぐ作れるようになるんじゃないか? その間ユイトたちはどうするんだ?」
「あ、僕たちは家で留守番してます! いたら裁縫の邪魔になるかもしれないので! ねっ?」
「はぃ! ぼく、るすばん、できます!」
「ゆぅくんも! できりゅよ!」
「そうか? オレも明日は仕事があるからなぁ……。危ないことはしない様にな?」
「「「はぁ~い!」」」
「やけに元気だなぁ……」
「そんなことないですよ~! やだなぁ、トーマスさん!」
「おじぃちゃん、や、です!」
「じぃじ、やー!」
「ふふ。じゃあ明日は、ユイトくんたちお留守番お願いね?」
「はい! 任せてください!」
*****
トーマスさんたちと別れた後、僕たち兄弟のベッドの上では、こそこそと明日の作戦会議が行われていた。
「おにぃちゃん、あした、せぃこぅ、です!」
「しぇぃこ~!」
「いや、まだ気を抜いちゃだめだ……! 完成させるまでは、油断大敵だからね……?」
「ゆだん…! たぃてき…!」
「たぃてき…!」
「明日は美味しいもの作ろうね! 頑張るぞ~! エイエイ……?」
「「「おー!」」」
明日の作戦は、果たして上手くいくのだろうか…?
いや、きっと大丈夫なはず! ハルトの為にも絶対成功させる!
どうか明日は上手くいきますように…!
窓の外に広がる星に向かって、僕は祈りを込めて眠りについた。
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