アルバム

こめ おこめ

ようするに思い出とは

 「だからこの時言ったじゃん!絶対書いてもらったほうがいいって!」

 「また見返す機会があるなんて思わなかったんだよ」

 

 休日。高校の時からの友人が引っ越すとのことで手伝いに来ていた。

 その際に高校の頃のアルバムが出てきたので何気なく「懐かしいな」と開いてみたら思ったより盛り上がってしまった。作業が進まない例のあれである。

 

 「お前昔からこういうのに積極的に参加するの苦手だったよな。誘われれば行くけど絶対誘ってこないタイプ」

 「それで困ってなかったんだからいいだろ別に」

 「それがこのありさまだよ。みてみこのアルバム。メッセージ書いてあるの俺だけじゃん。しかもこれ俺が勝手に書いたやつ。親が見たら泣くぞ」

 「うるせぇよ。すでにみられて『あんた友達いたの?』って言われたわ」

 「え?あ、ごめん……」

 「謝るなよ……というかこの何か書く文化がよくないんだよ。友達がいないで学生生活を送る人間がごまんといるのに。ただでさえ冊子が厚くて保存の邪魔なのにいやな記憶まで一緒に掘り起こすとか害でしかないだろこんなの」

 「普通の人はもっといい思い出ばかりだからな」


 そんなことを言い合いながらページをめくる。


 「お前この中にいまだに連絡取り合ってる奴いる?てか連絡先知ってる奴いる?」

 クラス写真には目立とうとして変なポーズをとってるやつ、隅っこでピースすらしないで立っているやつ。こうしてみると個性が現れているな。

 「失礼だな。確かにほとんど知らんけど」

 苦虫をつぶしたような顔をされた。

 「あー、こいつのトゥイッターは知ってる。つっても個人的な連絡は取ってないし、なんのつぶやきもしてないから現状どんなふうになってるかも知らんけど」

 「え?お前トゥイッターやってないって言ってなかった?なんで俺には教えてくれないの?」

 「だってお前の飲み会とかBBQとかのエンジョイ系のばっかでうざいじゃん。あと👍がむかつく」

 「普通だよな?」

 「なんていうか種類というか、世界が違うんだよ。俺のは周りが奇声発してたり下ネタ言ってたりするくらいが居心地がいいんだよ。そんな中にお前みたいなのがいたら現実に引き戻されて嫌な気持ちになるわ」

 「同じツールを使ってるとは思えないな……」

 こいつも奇声を発してたり下ネタを言うのだろうか?普段からの様子だと全然想像がつかない。

 そういえばネットで開放的になる人がいるって聞いたことあるな。そうか、こいつも……

 「お前が想像しているようなことはしてないからな。じゃなかったらクラスメイトにトゥイッターなんて教えねぇよ」

 「そうか……」

 「なんでちょっと残念そうなんだよ」

 こいつのはっちゃけた姿をあんまり見ないから見てみたかった気もする。


 さらにページをめくるとあることに気づく。


 「あれ?お前全然写真に写ってなくないか?」

 集合写真にはいるが修学旅行や学園祭等のイベントでの写真が全く見当たらない。写っていても遠くにいるばかりで決してメインのものはない。

 「俺が『思いで作りウェーイ』みたいなタイプに見えるか?まぁ、写真自体は撮られたんだけどな。そのたびに嫌そうな顔してたから採用されなかったんだろ」

 「そんな写真嫌いだったのか」

 「好きではないな。今の俺たちみたいにこうやって見返したとき『こいつどんなやつだっけ?』って思われるくらいが丁度いい」

 「未来に後ろ向きに生きてるな」

 「下手に悪いこと言われるよりはるかにマシだ」

 「というか学生の時そんな嫌な思いして生きてたのか?普通にクラスになじんでたような気がするけど」

 「別に嫌な思いとかはしてない。ただ嫌な思い出を作らないよう薄く生活した結果がこれだ」

 「せっかくの学生生活なのにとか考えなかったのか?」

 「ほしい最低限のものは経験できてるしな。それ以外は嫌な思いしなければそれでいい」

 「学生生活がすべてじゃないとはいえドライというかなんというか……」

 「別に今がよければそれでいいさ。幸せかってきかれると『はい』とは答えられないけど」

 「俺には真似できない生き方だな」

 

 こいつにとっての思い出はそこにあったものであり、決してすがったり、執着しないのだろう。

 俺はあの頃に戻りたいなんて、よく考えてしまう。別に今が不幸だとかではないが、どうしてもあの頃のほうが輝かしく思えてしまう。

 たまにこいつが羨ましく思える。こいつのようだったらなんて……いや、それはないな。うん、年齢=彼女いないとかありえないし。


 「お前何か失礼なこと考えてないか?」

 「気のせいだろ。そろそろ作業再開するか!いつまでだっけ?」

 「来週の火曜だな。あー、全然終わる気がしない!」

 「うっし!やるかぁ!」


 俺にとって思い出は輝かしいものだと思ってる。もちろん忘れたいものもあるけど。だから俺は

 

 「これ終わったら晩飯どっか飲み行く?」

 「了解。場所はいつものところ?」

 「それもいいけど、肉食べたいし焼き肉のほうがいいな」

 「人の金で食べる焼肉はなんとやら」

 「奢らないからな。てか手伝ってんだからお前が奢ってくれよ」

 

 今日は思い出を肴に楽しもうと思う。

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アルバム こめ おこめ @kosihikari3229

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