802. 可愛いね


 しっかり遊んだら汗だくになるというので着替えも用意した。電車を一本乗り換え一時間弱で到着。


 様々なスポーツやアミューズメントが体験出来る複合型レジャー施設、らしい。堺や高槻にもあり文香は何度も遊びに行っているそうだ。

 まったく知識が無いので普通に楽しみ。しかし周辺には何も無いな。ここに来る以外の用途でこの駅で降りる人いないんじゃ。



「おぉぉっ……! なっ、なんなんだここは、おい保科慧ッ! これほど広大な渓谷が現世に存在するというのか!? 初めて観察たぞ……ッ!」


 入場口の階はアミューズメントパーク。あれだけ眠そうにしていたのにミクルの切り替えの早さと言ったらもう。お目々キラキラ。

 小さな身体に幼さ全開のツインテール、ごて付いたファッション、馬鹿みたいなハイテンション。完全に小学生。



「ゲーセン好きみたいなんスよ。子どもの頃とかお小遣い全部プリ○ラにつぎ込んでたらしいっス」

「今は子どもじゃないとでも?」


 早速そのプ○パラなるゲームで遊び始めるミクル。入場料を取るからゲーム自体はお金が掛からないシステムだ。

 ボタンを押すだけで画面が動き出し、ミクルは大層驚いている。カードを使うゲームなのに採算は取れるのだろうか。なんでもええけど。



「ウチらの世代はゲーセンのカードゲーム言うたらムシ○ングかラブ○ベリーやったなぁ……最近の流行りモンはよう分からへんわ」

「年幾つやねんお前」


 無知な俺でもその二つがだいぶ前の世代だってことくらい分かるぞ。適当言うな絶対やったこと無いだろ。だから虚言癖扱いされるんだよ。


 暫くプリ○ラに熱中するミクルを観察、一つしかない台を一人で占拠しているので段々と女児が行列を作り始めた。頃合いを見て慧ちゃんが引っ張り出し次のゲームへ。駄々を捏ねるな。幼稚園児以下か。


 もしかしなくても、奴のゴテゴテなロリータファッションはこのプ○パラというゲームの影響か。アニメとかあるのかな。見たら厨二語も理解出来るようになるのかな。老後の楽しみに取っておこう。つまり見る気は無い。



「じゃーん! ロデオマシーンっスよ! ほら栗宮ちゃん、こないだのポニーにリベンジするチャンスっス!」

「ふんっ、舐められたものだなッ! SSSランクの召喚獣ならまだしも、意志を宿さぬ『器』に翻弄されるほどこの聖堕天使ミクル、落ちぶれてはいなア゛アァァ嗚呼ァァァァアアア゛ア死゛ぬううゥゥウウァァァ゛ァ゛!!!!」


 ロデオマシーンに振り回され泣き喚くミクル。デジャブの具体例として辞書に掲載して欲しい。煩すぎ。


 ミクルの操縦は慧ちゃんに任せるとして、さっきからちょっと元気の無い小谷松さんだ。元気が無いというか、終始呆気に取られている。岡山から上京して日も浅いから、こんな騒がしい場所は初めてなのだろう。



「なんかやりたいのある?」

「あのっ、なにがなんかサッパリ分からんで……そりょーり先輩、お金は……?」

「ええよ気にせんで。安く済んだし」


 こちらから言い出すまでもなくミクルと小谷松さんは小学生料金で通された。わざわざ訂正するまでもない。黙っておこう。スタッフにも本人にも。



「ほんじゃあ……びりやーど、やってみてー。あれなら分かる」

「おっ、ええな。ウチと勝負しようや!」

「世良先輩、得意なんか?」

「あちゃ〜、こりゃ舐められたモンや……まさか大阪が生んだ暴れ馬、関西最凶のビリヤード少女『ミス・ポケット』こと世良文香を知らない奴がこの界隈におるなんてなぁ……!」

「よくスラスラと嘘のエピソード作れるよなお前。尊敬するわ」


 ダーツの横にビリヤード台がある。本当になんでもあるな。このエリアだけでも施設の四分の一とか。ワクワクしちゃう。男の子だもの。


 全員未経験なので隣のグループが遊んでいるを見て、なんとなく真似して遊んでみる。こういうのはルビーが得意そうだな。偏見だけど。



「うぅ……おえんなぁ、ちっとも入らん」

「んな棒立ちや当たるモンも当たらへんわ! こうやってな、台に寝っ転がるくらいの勢いで……ほれっ!」


 腰を深く落としそれっぽく構えると、次々とボールを穴へ落としていく文香。上手いは上手い。ミス・ポケットを自称するだけはある。

 くの字に曲がった背中が意外にもスラっとして見えて、少しドキドキしたのは内緒。


 次のテイクは失敗に終わり小谷松さんの番。ちょっと打ちにくいところにボールがあるので、彼女も台に身体を預けるような姿勢で狙いを定める。


 台の座高が高いから中々に苦戦している。完全に寝っ転がっているというか、足が地面に着いていない……おっと。



「じゃじゃ丸。パンツ見えとるで」

「ひエッ!?」


 大慌てでスカートを抑えようとして、何故かそのまま台に飛び乗る。一応隠せてはいるけど、対処法としては0点だ。敢えて言わないでおいたのに。



「……ほれ見い。スケベな目ェしよって」

「違うっつってんだろ。ええか文香、男はな相手に限らずパンツがあったら見てまうねん、そういう風に脳がプログラミングされとるんや」

「うへぇ~~。んな台詞はーくんから聞きとうなかったわぁ~~」


 マジ幻滅ぅ~、と雑なリアクションと共に顔を顰める文香。この手の反応は久々だった。みんなどれだけセクハラしても許してくれるから。それどころか促して来る。主に比奈と瑞希が。おかしい。


 ……いや、文香もやっぱおかしいんだよな。


 性格はともかく、このように年頃の女の子としては真っ当な倫理観の持ち主な筈なのに。複数の女性と関係を持っている俺を未だに好いている。多少の嫌悪感はあるみたいだけど。


 でもこうして普通に付き合ってくれるわけだし、あまつさえご褒美欲しいとか言い出すし……異性というより、本当にもう幼馴染というか、ただの友達として見ているのか? いやしかし……。



「うぅっ……先輩、見てしもうたんか……っ?」

「いや、見よう思ったけどもう隠されて分からんかった。悔しいわ」

「ひいいっ!?」


 結構本気で怖がっている。俺みたいな人間に『見てないよ。大丈夫だよ』なんて甘ったるい台詞を期待するな。見たものは見たんだ。スヌー○ー、可愛いね。


 ほら。でもこれで証明出来ただろ。小谷松さんのパンツでは興奮していない。つまり彼女を女性として意識していないということだ。


 そう、俺は問題無い。俺はな。

 あとは彼女がどう反応するか……。



「……おえんよ、先輩。女子にそねーな酷いこと言うて……でりかしー、ちゃんと持ちんせー」

「えっ、お、おう。ごめんね?」


 居心地悪そうに頬と唇を膨らませ、スカートの裾をキュッと握る。まさかストーカー少女にデリカシーの有無を問われるとは。複雑だ。



(……あれぇ?)


 なんというか、こう、思ってたのと違う。気のある男に下着を見られたら、普通もっと狼狽するだろ。想定よりだいぶ大人しい。


 比奈、瑞希、ノノの三人は倫理観がバグってるから参考にならないとして、他の面々はこの程度じゃ収まらなかった。反射的に暴言若しくは暴力で訴えられ、冷静に諭されたような記憶はあまり無い。


 今のリアクションは『私は良いけど他の子相手には気を付けてください』的なニュアンスが強かった、ような気がする。小谷松さん自身が奥手で恥ずかしがり屋だから、ちょっと微妙な雰囲気だけど……。



「しゃあな。はーくんがこれ以上変態になっても困るし、他んとこ行こか。じゃじゃ丸、卓球! やろうやっ!」

「世良先輩も、下はジーンズじゃけぇせわーねーけど、上は気ぃ付けんせー。シャツがだるだるけぇ、屈んだりすると危ねえよ」

「せやねんなあ。谷間があらへんと代わりに、ちっぱいはそれを警戒せなアカンね……って、んな貧乳ちゃうわァッ!!」


 なんて悲しいノリツッコミ。心配するな。お前の乳はもっと興味ねえよ……いきなり女らしいところ見せられても、こっちが困るんだから。


 二人の方言少女に振り回される三連休初日。気をしっかり持て。少なくとも小谷松さんの内情を暴くまで、折れるわけにはいかないんだ……ッ。



「保科ああ嗚呼ァァァ゛ァアアア゛アこれ止゛めてえ゛えエエ゛ェェエ゛エェェェェ!!!!」

「そー言われても、アタシもローラースケートやったことな……ちょっ、こっち来な、待って、ストップ、これ絶対事故る流れっスからァァ!?」

「ふぎゃああ゛嗚゛呼あ゛あアア゛アア゛!!」

「ギいやアアァァ嗚呼ああァァー゛ーーー゛!!」


 うるせえ。


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