体育祭メインのいかにも学園ラブコメっぽい章

785. チラシの裏


【羽瀬川、栗宮も参戦! 男女の垣根を超えた前代未聞の『ミックスバトル』全国高校フットサル選手権混合の部、いよいよ開幕へ。高まる注目度、その狙いとは?】


 五輪メンバー入りこそ逃したが、直近のU-23代表親善試合に召集されたFW羽瀬川理久ハセガワリク常葉長崎トコハナガサキ2年)へ掛かる期待は大きい。

 兼業を続けるフットサルでは既にフル代表の常連である羽瀬川。どちらを選ぶのか、まだ結論は出ていないようだ。


 若年化が進むサッカー界の波に日本もしっかり乗っている。昨年A代表にも選出され、やはりマドリード五輪への切符こそ失ったが、今期リーグ戦6ゴールとブレイク中の内海功治(セレゾン大阪)はまさに代表格。


 その内海よりも更に早い時期に台頭し、最年少プロデビュー目前へと至った廣瀬陽翔(元セレゾン大阪ユース)も記憶に新しい。羽瀬川への期待値はこの二人に匹敵するか、それ以上のものがあるかもしれない。



 さて。最近流行りの兼業プレーヤーの先駆け的存在と言えば、なでしこジャパンの次期エースとして活躍を見せる栗宮胡桃(町田南3年)である。


 こちらは五輪メンバーのラージリストに選出されるも、一身上の都合により召集を辞退。世界デビューは持ち越しとなったが、今後の飛躍が期待される逸材に変わりは無い。先日初招集されたフットサル女子代表でのプレーも楽しみだ。


 男女それぞれの舞台で眩い輝きを見せる、サッカー・フットサル界の次世代エース。この夏、そんな二人が同じコートで凌ぎを削る、夢のような光景が見られるかもしれない。



 フットサル協会は今月6日、記者会見を行い今夏から新たに開催される『全国高校フットサル選手権混合の部』の大会概要を発表した。


 共に高校のフットサル部にも籍を置く羽瀬川、栗宮は先日、SNS上で大会への出場を公表。男女が同じコートでプレーするという前例の無い試みに、両選手の参戦も相俟って大きな話題となっている。



 全国大会へコマを進めれば、各育成年代の頂点とも言える二人の競演が叶う可能性もある。専門誌である当メディアにも取材が殺到している状況だ。


 卓球、テニスなど男女ミックスで行われるスポーツは幾つがあるが、フットサルは身体的なハンデが顕著となるサッカーとよく似た性質を持つ球技。


 そもそも何故、男女ミックスでの大会が開催されるに至ったのか。仕掛け人たるフットサル協会名誉理事の西沢氏(元サッカー・フットサル日本代表)を直撃した。



――大会が新設された経緯を教えてください。

「現在全国には150校近い高校にフットサル部があり、競技人口も年々増加傾向にあります。一方で、サッカーにおける全国高校選手権、インターハイのような注目度の高いビッグトーナメントがありませんでした」


――男子の部が10年前から行われていますが、参加校は非常に少ないですよね。

「多くのフットサル部は男女が合同で活動を行っていて、男子だけではチームを編成できない高校が結構多い。片方のチームしかない高校も沢山あります」


――羽瀬川の所属する常葉長崎も、数年前まで男子チームしかありませんでした。彼の入学と同時に女子チームが出来たそうですね。

「町田南、瀬谷北、京学付属など男女別の大所帯で活動しているチームは非常に少なくて、同世代相手との実戦機会に乏しいという事情もあります。地域差もありますし」


――サッカー部が即席チームを結成し参加するパターンも多いです。

「去年の男子の部も、準優勝は西が丘のサッカー部でした(優勝は町田南)。勿論参加してくれるのは有難いんですが、これだと選手は育ちませんよね。我々はあくまで、フットサルで世界に通用するプレーヤーを育てたいわけですから」


――フットサルはサッカーのおまけ、と考える一般層も少なくないです。

「ルーツこそ同じですが、競技性や戦術はまったく異なりますからね。専門でプレーしてくれる選手が増えないと強化に繋がらない。羽瀬川くん、栗宮さんのようなトップレベルで兼業しているプレーヤーは例外中の例外ですから」



 西沢氏の語るように、若年層における実戦機会の少なさは日本フットサル界の大きな課題。またプロ選手のほとんどが各クラブのアカデミー出身であり、高体連出身の選手は全体の1割にも満たない。女子リーグに限ればその傾向は更に顕著となる。


 前記の通り、サッカーとフットサルは似て非なる競技。フットサル選手を育てるには競技特有のプレーに慣れること、競技に特化した相手との対戦機会が何よりも重要だ。



――実戦経験を積むとなると、サッカー部はこのようなウルトラCが使えるわけですが、フットサル部はそうもいかない。成人大会に出場するしか手段がありません。

「競技人口の少ない女子チームにとっては、更に切迫した問題です」


――消耗も激しいスポーツですからね。

「五人いれば大会に出れるというものでもないので。最低でも倍の十人は欲しい。一試合を同じ選手で戦い続けるのはまず不可能だし、連日続く大会ともなれば尚更です」


――ならいっそ、男女をミックスさせてしまおうという考えということですね。

「フィジカル面のハンデは勿論あるでしょうが、男子は同時に出場出来る人数に上限(2名まで)がありますし、今回は実験的に一選手の時間制限(前後半30分のうち20分まで)を設けました。一人だけの力では勝ち抜けないシステムになっています」


――今まで実戦機会に恵まれていなかった女子チームにもスポットが当たると。

「そうなることを期待しています。実際、エントリーした高校は女子フットサル部が母体のチームも多かったので、そこは目論見通りという感じです」


――事実上、女子の部プラス助っ人の男子という構図になりそうですね。

「かもしれませんね」


――男性選手が出場するメリットはあるのでしょうか?

「元々高いレベルでプレーしている選手は、例年同様男子の部にエントリーするでしょうね。ただ実戦経験を積めるという一点だけでもメリットはあると思いますよ。羽瀬川くんのようなビッグネームも出場するくらいですから」


――地域レベルでプレーしていた男子選手には格好の機会かもしれません。

「そうですね。今はとにかく入り口を広げて、全体のレベルアップを図るというところに重点を置きたいと考えています」


――羽瀬川選手は何だかんだでフットサルを選びそうな雰囲気もありますが。

「さあ、どうでしょうか。特定の選手にあまり肩入れし過ぎるのもアレなので、この辺りにしておきましょう(笑)」



 続いて女子フットサル界にフォーカスを当てていくとしよう。


 なでしこファイブこと女子フットサル代表は、一昨年新設されたフットサル女子ワールドカップに出場するも全敗でグループリーグ敗退。

 冬に行われたアジアインドアゲームズでもイラン代表に敗れ優勝を逃した。



――女性選手も気後れなく参加出来るようになっていると。

「昨年、なでしこファイブの山里選手が男子チーム(全国二部)に入団し、実際にゴールを決めましたよね。栗宮さんも昨年の全国選手権(男子の部)に出場して普通に活躍している。こういうケースも今後増えて来ると思うんです」


――男女間の性差も大きな障害にはならないと? 怪我のリスクは?

「まったく無いと言えば嘘になります。でもサッカーと比べてフットサルは、体格差に左右されにくい要素の多いスポーツですからね。性別の壁を超えて、フットサル界全体で強化に当たっていく必要があると思っています」


 年々成績を向上させている男子チームとはやや開きがある現状。男性選手とのコンタクトプレーが、代表強化においても貴重な経験として活きて来るということなのだろう。


 論ずるまでもなく怪我やセクシャリティーの要素でリスクも抱えているが、年を追うごとに巨大化の進む女子フットボール界を戦い抜くための対抗策として、中々面白いアイデアだと筆者も考える。



 とはいえ、西沢氏をはじめ協会もまだまだ手探りの状態だそうだ。SNS上では『男女の差はしっかり分けるべき』と賛否両論。協会内でも直前まで開催の是非について意見が割れていたという。


 一方、プロ化から日の浅い日本フットサル界はサッカー界と比べて知名度、人気共に大きく劣るのも事実。

 今回の混合大会新設は大きなニュースとして各メディアからも取り上げられている。フットサル界の大きな分岐点となり得るかもしれない。



――メディアからの注目度も日に日に増しています。

「男女サッカー界の将来を担う選手が参戦するわけですからね。それも二人とも、まだサッカーとフットサルどちらの道に進むか決めていない。どちらを選んだとしても、二人にとっても貴重な経験となることを願っています」


――露出度、人気の高さから見ても、サッカー界入りを希望する声は多いです。

「こればかりは本人たちの判断なのでなんとも言えませんが、彼らのプレーを観て『フットサルも面白いじゃないか』と気付いてくれるサポーターが沢山増えれば、それだけでも大きな足掛かりになると思います」


――男女ミックスの競技は決して多くはありません。横槍が入らなければ良いのですが。

「マスコミは食い付くでしょうね(笑) ただ、あくまで今回は試験的な試みですから。女性選手中心のチームが思いのほか多かったので、来年からは女子の部も出来るんじゃないでしょうか。いろんな角度から強化の方法を探っていきたいです」


――新たな才能が見つかるかもしれませんね。

「この大会のおかげで、初めて全国レベルに顔を出す選手もいると思うんです。もし男子に対抗出来る女性選手が出て来ようものなら、それだけで万々歳ですよ(笑)」


――先に挙げたサッカー部の即席チームからも興味を持つ選手が出て来るとか。

「そうですね。せっかく参加してくれるんですから、フットサルのもっと深い魅力に気付いてくれると、とても嬉しいです」


――育成年代、それもフットサルの大会としては異例の規模になって来ました。

「プロリーグの会場を用意して貰ったり、全国大会はライブストリーミングサイトで生中継されるなど、選手、観客の双方にとって良い環境を整えました。熱いプレーで期待に応えて欲しいですね。我々運営も可能な限り努力していきます」


――素晴らしい大会になることを期待しています。

「よろしくお願いします!」



 7月から各地域ごとに予選を開始。勝ち抜いた16校によるトーナメント形式の全国大会が、愛知ミュートスの本拠地、名古屋コーストアリーナを舞台に8月4日から開幕する。


 決勝戦は8日12日プロリーグ一部、愛知ミュートス対ブラオヴィーゼ横濱の前座試合として行われる。

 熱戦の模様はライブストリーミングサイトのAromaTVにて全試合生中継予定。日本フットサルの革命前夜が刻々と近付いている。


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