454. ちょっとなに言ってるか分かんなかった


【試合終了】


 前半4-1

 後半3-2


 長瀬愛莉×3

 廣瀬陽翔×2

 金澤瑞希×1

 市川ノノ×1


【山嵜高校7-3瀬谷北高技】



 中々に綱渡りのゲー厶だった。

 だが結果的には快勝と言って良いだろう。


 タイムアウト後の戦況はほぼ五分五分。男子の個人技を前面に押し出したオフェンスには苦労を強いられたが、同様に俺たちのショー トカウンターが幾度となく瀬谷北ゴールを襲う。


 珍しく愛莉が競り負け9番にゴールを奪われたが、それも一瞬の出来事。そもそも男子相手に互角以上に渡り歩いていたこれまでの愛莉が上出来過ぎるのだ。



「ナイスゴール、陽翔くん!」

「おう。ええアシストやったな」


 試合終了間際。比奈からの縦パスを受けマーカーをサクッと躱し、ペナルティーエリア外からミドルを狙ってみる。


 コースは甘かったが、ゴレイロの女性は処理し切れず。

 ゆっくりとラインを通過。ダメ押しの一点が決まった。

 比奈とハイタッチを交わし同時に主審のホイッスル。



「お疲れさん。ええチームやな」

「お世辞でも辞めてくれよ……いや、ホントごめん。ぶっちゃけ舐めてたわ。フルメンバー出した後半も勝てなかったし……すっげえ強いなお前ら」

「そりゃ光栄なこった」

「寄せ集めでどうにかなるほど甘くないってことだな……ちゃんと混合チー厶の練習も増やして、戦術も決めてかねえと。色々参考になったわ」


 瀬谷北高校のキャプテン小椋に握手を求められ素直に応じる。試合前の態度を謝罪して来るが、なんてことはない。すべてはコートで証明したのだから。


 時間的にもう一試合戦えるかは分からないが、次に相まみえるときには、今日よりも強いチームになっているだろう。負ける気は更々しないけどな。



「関東の予選、すっげえ厳しいと思うけど……絶対に全国来いよ。必ずリベンジしに行くからな」

「そっちも変なところで負けるなよ」


 初対面の印象はあまり良くなかった小椋だが……特に癖も無い普通の体育会系というか、根は良い奴なんだろうな。名古屋の瀬谷北高校、よく覚えておこう。



 他の面々も瀬谷北メンバーと一つ二つ言葉を交わし、一旦スタンドへと引き上がる。女性選手はともかく男性陣への反応は素気ないものがあったが。仕方ない。愛莉と琴音は特に。


 少々時間を置いて、瀬谷北と青学館がゲームを行うようだ。人数が圧倒的に少ない山嵜の体力面を考慮してくれたようで、有難く頂戴 することとする。



「づかれたぁー……誰かアイス買って来てー」

「自分で行け」

「もう足動かないぃーっ!」

「まだ試合あんだろうが」


 スタンドで腰を下ろすや否や駄々をコネ始める瑞希。残る4人も疲弊度で言えば似たようなものか。


 皆あまり気にしていない様子だが、フローリングのコートって足腰の負担ハンパないからな。普段のテニスコートと同じ調子で走り回れば知らずのうちに消耗してしまうのも致し方ない。



「お疲れさま。飲み物買って来たよ」

「……お、おん。なんや急に。あんがと」

「差し入れの一つでも無いと申し訳なくてね」


 頰に差し出された冷たいビニール袋。持ち主は財部だった。内海、大場と共にメインスタンドから移動してきたのか。



「チームメイトの皆さんはほぼ初めましてだよね。セレゾン大阪ユースで監督やってる、財部雄一です。陽翔とは小学生の頃からの間柄なんだ。よろしくね。こっちの二人が……」

「内海功治です。こんにちは」

「大場雅也でーす」


 お互いに頭を下げ合う自己紹介タイム。コミュカ自慢の瑞希とノノ、ソツなくこなす比奈はともかくとして、やはり愛莉は余所余所しいし、琴音は比奈の後ろに隠れている。失礼な奴等だ。



「内海なら愛莉も分かるやろ。トップデビューしとるしA代表も入ってんだから。大場は……まぁ知ってたら中々やな」

「えー。これでも世代別代表なんだけどな一」

「はいはーい存じ上げてますよ!三部のU-23チームで9点取ってトップ昇格秒読みの大場選手ですよね! こないだDA○Nのハーフタイムインタビュー見ました! ちょっとなに言ってるか分かんなかったですけど!」

「ほんとー? わー嬉しいなー」


 流石はノノ。フットサル部一のサッカーフリーク。 微妙に馬鹿にしているのは置いておいて。


 大場も気付け。あと反省しろ。

 後半マジでなに言ってるか理解不能だったぞ。



「お話色々と聞かせて貰いました。陽翔くんがとっても尊敬しているコーチで、選手としても凄かったって」

「あははっ……いやいや、そんな大したこと無いんだよ。俺が陽翔に教えたことなんてフリーキックの蹴り方と道具の手入れくらいだ から」


 比奈は財部と会話を弾ませている。

 謙遜しているのか分かりにくいラインだ。



「ねーねー。今の代表ってスパイクがアデ〇ダスじゃないと10番背負えないってホントなん? てゆーかエースの杉下ってマジで普段もあんな意識局い系なの?」

「え一っと……スパイクのことは分からないけど、杉下さんは普通に優しい人だよ? 日本帰って来たときもご飯連れてってくれたし」

「えー!? サラダしか食べないって嘘なん!?」

「いや、普通のものも食べるよ……マスコミが海外の選手とごっちゃにして勝手に言ってるだけだから」

「なーんだ。つまんねーの!」


 瑞希は内海を捕まえて質問攻め。代表事情について興味津々のようだ。しかし女慣れしてないなコイツ。目が泳ぎ過ぎ。



「なに隠れてんだよ」

「……警戒しています」

「俺の知り合いや言うとるやろ」

「男性相手ですから……」


 こちらは相変わらずの琴音である。

 まあお前はいいや。個性ってことにしとくわ。



「で、愛莉までなんやねん」

「いやっ……ちょっと緊張しちゃってさ。財部さん、私がブランコス応援してた頃まだセレゾンで現役だったし……内海さんも雲の上の 人っていうか……」

「ならまず俺を敬え。世代別ワールドカップアシスト王やぞ」

「ハルトはハルトだし……っ」


 解せん。


「それにしても強いね。性差の問題もパスワークで上手くカバーしているし、一芸に秀でた選手が沢山いる。何よりの陽翔の影響力だ。理想的な構成だね」


 隣に座った財部がそんなことを言う。よりによって財部に褒められるとどうにもむず痒い。ええからもう。はよ帰れ。



「でも、後半は流石に苦戦していたね……やっぱり6人だけじゃ厳しいだろ? 瀬谷北と違ってフレッシュな選手とドンドン入れ替えることも出来ないし」

「まぁな………これから増やすしかねえよ」


 遠征に着いて来ていない有希と真琴も含めて、山嵜フットサル部は現在8人。これは大会に出るうえで最低限の人数だ。ベンチ入りが12人であることを考慮すれば、少なくともあと4人は増やしたいところ。



 しかし二人や途中加入のノノにしても、中々に特殊な事情を抱えた面々だ。新入生が入って来るとしても、順調にメンバーを増やし戦力として計算出来るまでに到達するかは未知数。


 もっと言えば、今日の試合で改めて思ったことだが……やはり男手があと一人か二人は欲しい。本気で全国を目指し優勝を視野に入れるなら、どうしても避けては通れない。


「男子との体格差も無視は出来ないよね。そういう不利な状況下で、どこまで女の子たちの能力を活かせるか……今後のチー厶作りにおいて欠かすことの出来ない要因だね」


 財部も男女混合チームの問題点は大いに理解しているようだ。無論、俺たちだけでなくすべてのチームが共通で抱えている要素でもある。


 女性が最低でも同時に二人出場していること。

 これが混合の部に課せられた大きなポイントだ。


 男子の実力にそれほど大きな差が無いとなれば、女性陣が随所で違いを見せなければならない。ただでさえウチは男が俺しか居ないのだから、他のチームと比べてハードルは高いのだ。



 愛莉と瑞希は男子相手にも対抗し得るだけの実力を持っているが……先ほどの試合のように、フィジカル面の問題でその強みが生かさ れない展開も今後は増えて来るだろう。

チームとしては勿論、個人個人でのレベルアップも必要不可欠だ。 俺がサポートするにも限界はあるしな……。



「ふーん……あの青学館って高校も、やっぱり男子がメインなんだね。それも女子の一人はゴレイロだ」

「……ホンマやな」


 アリーナ下では既に瀬谷北と青学館の試合が始まっていた。唯一の女性フィールドプレーヤーとして、キャプテンの日比野さんコートに立っている。

 ベンチで観戦している文香は……ヘー、10番なのか。アップ見た限り特別上手いとは思わなかったけどな。若しくは特別な事情でも あるのだろうか。



「くくくっ……陽翔、気付いていないんだ?」

「あ? なにが?」

「昔から陽翔の追っ掛けしてる子でしょ? どう考えても影響受けてるよ」

「ああ、そういう……っ」

 しょっちゅう舞洲のスタンドに顔出していたから、財部も文香のことは知っているのか。 まさかフットサルを始めた理由も……まぁ今は考えないでおこう。



「ハルト……日比野さんだっけ? あの20番」


 試合を眺める愛莉が何やら真剣な顔して眩く。


 キャプテンマークを巻く二年生、日比野栞。ポジションはフィクソだろうか。自陣深い位置を起点にポゼッションの中心となっている。真琴の先輩だけあって流石に上手いな。ボールタッチにソツが無い。



「で、日比野さんがどしたん」

「……なんか雰囲気あるなあって。確かに上手いは上手いんだけどさ……無言の圧力っていうか?」

「んなオカルトチックな……」


 要領を得ない愛莉の発言に首を傾げていると。


 試合が動いた。自陣深くでパスを受けた日比野さんがドリブルで持ち上がると同時に、青学館の男性プレーヤー三人が一気に前線へ駆け上がる。



「なるほど。あの子も陽翔の影響受けてるってわけだね」

「……内海?」

「ボールの持ち出し方、後ろ姿、あの身のこなし……陽翔そっくりだよ!」


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