美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい
平山安芸
極めて丁寧かつ分かりやすい親切なプロローグ
1. プライド無いのかコイツ
土下座。
土の上へ直に座り、平伏して礼を行う、日本社会における座礼の最敬礼。
「勘弁してくださいッッ!!!!」
こちらこそ、勘弁してください。
学校一の美少女と評判名高い
ほとんど生徒が残っていないほどの遅い時間帯も幸いし、うだつの上がらない男子生徒が高校のスターを侍らせているという訳分からん噂を立てられる心配は無さそうだが。
それにしたって気分は悪い。土下座ってするよりされる方が嫌かもしれない。同い年の人間にホイホイ頭下げるなよ。プライド無いのかコイツ。
「あの、別に怒ってないんで。取りあえず土下座をね。やめてほしいんですけど」
「やれることならなんでもしますからッ! 仲間の皆さんに引き会わせるのだけは止めてくださいッ! お願いしますッ!」
俺を何だと思っているのだ。
埒が明かないので彼女の頭だけでも起こす。かなり怯えていた様子だったが、少しずつ落ち着きを取り戻したようだった。いやだから何に怯えているんだよ。同人の読み過ぎだろ。
「それで、その……長瀬だよな?」
「あっ、うん……
「おー。よう知っとんな」
「クラスメイトだし……ていうか、こんなところで何してたの?」
「体育委員やし。掃除と見回り」
「え、うそ、ホントに? なんか意外……」
「意外?」
「だって、授業ほとんど受けてないじゃない。そういうのしっかりやるタイプなのね」
「いや、サボってたのバレてツケが回って来た」
「あ、やっぱり……」
想定通りの答えが返って来たからか、呆れたように笑う長瀬。
「で、そういう長瀬はなにしとってん」
「わたしっ? えーっと…………自主練?」
「なんで疑問形なんや」
「練習ってほど大したことしてないし……」
彼女の視線が見据える先には、テニスコートには不釣り合いな頭一つ分ほどの球体が転がっていた。俺の意識を一瞬でも奪った元凶。紛うことない真犯人。
サッカーボールにしてはやや小さい。だが見た目と形状からして、それに近いものであることは分かる。
「フットサルボールか」
「えっ、よく分かったわね……もしかしてサッカーとかやってた?」
「パッと見で……長瀬もフットサルなんてやっとんのな。そっちの方が意外やわ」
「まぁ誰にも言ってないし……廣瀬くんがゴリゴリに関西弁なことの方が意外だけど」
誰にも言ってないし。
と丸っきり同じ答えを返す。口には出さないが。
「クラブチームでやっとるのか」
「ううん、今はどこにも……」
「勿体ないな、ええ良いキック持っとるのに。フットサル部でも作ればええやん。若しくは女子サッカー部とか」
「いやぁ、それ良く考えるんだけど、誰も協力してくれる人がいなくて……」
「ほーん…………」
暫しの沈黙。
ふと気が付くと、長瀬愛莉は何かに囚われたかのように、俺のことを瞬きも疎かに見続けていた。
なんだやめろ。恥ずかしいだろ。
女の子に凝視される恐ろしさ知らんのか。
ヤメテ。コワイ。
「廣瀬くん。いや、陽翔くん。いや、ハルト」
「何回言い直すねん」
「ヒマ、だよね?」
「…………うん?」
急に立ち上がってなにを言い出すかと思ったら。とんでもないペースで呼び名を改められ、ついには暇人扱いである。いくら美少女とはいえやって良いことと悪いことが……。
「あ、待って。読めた。その先は言う――――」
「暇だよねっ?」
「だから止めろ言うてっ」
「授業も出ないほど毎日退屈してるんだよねっ?」
「それは単に面倒くさ」
「じゃあなんか新しいこと始めようってなっても、大して抵抗無いよねっ!?」
「あの、人の話聞いて」
「フットサル部、一緒に作ろっ!」
嗚呼、終わった。
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