2章 分身の術?

1話 自惚れだと思う?

「記憶、自己である魂と、自我である脳との、伝達が上手く行っていない」

「失敗かも?」


そんな話声が、どこかで聞こえていた。

目覚めると、思惟は女将の間のベットで、眠っていた。

カーテン越しに、朝の光が部屋の中に入って来ていた。


「夢?」


恐る恐る自分の身体を確認した。

サイズは、人間サイズだったが、自分の身体なのに、しっくりこない感じがした。


指を動かしてみた。いつも通りに動いた。

軽くストレッチをして、自分の身体の動きを確かめた。

動きは問題はない。


しかし、やはりしっくりこない。

今にも魂が・・・妖精サイズの魂が抜けそうな気配がする。

心の中が静かすぎて生きている実感がない。


「失敗・・・って何だろう?」


不安が体中を廻り、そして全身を覆った。

自分が生きているのか、死んでいるのか、そんな事も解らない不安。


「私?」


今、声を出したのが自分だとすると、自分ではない思惟が、ふっと目の前に現れた。


自分とまったく同じ姿をした他者?


多分、その他者の思惟も、自分と同じ気持ちで、自分を見つめているはず。

なぜだがそれが今の思惟には解った。


「分裂した私?あなた誰?」

それが愚問だと言う事は解っていた。

「あなたは私の心の欠片、もしくは私があなたの心の欠片」


もう一人の思惟は、言った。


「そうかも・・・」


そう・・・もう一人の思惟が言うように、それは身体の欠片だけではなく、精神の欠片も含めての事の様な気がした。


心が割れた状態・・・


もう一人の思惟は、言葉を続けた。


「この世界には、私意外にもう一人の私がいる。

それは多分、あの妖精のお姫さまが関わっている。

科学が、この世界だけを対象とした術式だとすれば、この術式は、生死を超えた世界でも通用する術式の類いかも」


思惟は、思惟らしからぬ答えに驚いた。

本来の思惟なら、こんな事思うなんてことはないのに・・・

自分より知的な自分に、思惟はちょっとキュンキュンした。


思惟は、もう一人の自分に手を差し伸べた。


「自分と同じ自分を見て美しいと思うのは、自惚れだと思う?」


もう一人の思惟に尋ねた。

もう一人の思惟は、驚いた表情をした。


それは、相手が思惟であって思惟ではない証なのかも知れない?


ただ、その驚きを思惟は感知していた。

思惟は、彼女が驚くことを知っていた。


そして、彼女もそれを感知していた・・・はず。


思惟は、未知への恐怖を振り払って、未知の存在であるもう一人の思惟の身体を抱き寄せた。


抱き寄せられたもう一人の思惟は、ぼー然としていた。

思惟は、ものすごい一体感を感じた。


それは、 元々1つだっだ証拠なのかも・・・


2人の思惟が相手の存在を確かめ合っていると、部屋の奥から、騒がしい声が聞こえた。



「えええええええ!こいつらめっちゃエロく抱き合ってる!」


その声の方を見ると、数人の思惟がこちらの様子を伺っていた。


「そりゃあ、エロいさ。私自身も思うもの」

「元々一つだった者が、一つに戻ろうとする行為、背徳の極みだね」

「こんな世界、壊したいよ。」

「キス!キス!キス!」

「枷を外した世界・・・。」

「とりあえず、お兄ちゃんとHしたいな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「冷蔵庫にヨーグルトあったよね。確か♪」


複数の思惟は、それぞれ勝手に話していた。


「どうやら私は狂ってしまった様だ」



つづく

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