第291話 約束を守るために
「あがが……がっ……」
俺は……悲鳴を上げることもできなかった。そのまま焦げ臭い匂いをさせながら、地面に倒れる。
「フッ……おいおい。大丈夫かよ? ちょっと強めに電撃流しただけだぜ?」
……意識が朦朧としているが、ライカの声だけは聞こえた。
明らかに並の電撃魔法ではない。俺自身も自分が瀕死であるということを理解できた。
「う、うぅ……」
「おい。そんなもんなのか? そんなもんで、魔王の城に行くとか言ってたのかよ?」
ライカはそう言って俺の頭を掴む。頭を掴まれても俺は抵抗することもできなかった。
「なぁ……お前達、ルミスとマギナがお前達に本気を出してたと思ってんのかよ?」
……わからない。考えてみれば確かに上手く行き過ぎていた。
いや、結果としてはラティアがいなければ俺たちは全員あの場でやられていた。
マギナはどうかわからないが、ルミスからすれば俺たちを殺そうと思えばできたはずなのである。
「アイツらも俺と一緒だ。本気なんて出してないんだよ」
そう言ってライカは俺の顔を見て目を鋭くする。
「お前らにアイツらは倒せない。それにもういいだろ? お前はアキヤの力と決別したんだ。ルミスとマギナを倒す理由なんてないだろ?」
理由が……ない?
俺は氷漬けになったラティアのことを思い出す。そして、それを申し訳無さそうに眺めるリアのことを。
ここで俺が負けたら、ラティアが……リアが……
「負けられ……ません」
俺はなんとか口から言葉を絞り出した。すると、ライカは一緒驚いたような顔をしたがすぐに不機嫌そうに俺を睨む。
「……そうかよ。わからねぇヤツだな。お前も」
俺の頭を掴んでいるライカの手からバチバチと音がし始める。
……不味い。今度こそ、逃げられない。
そして、この状態で雷撃を食らったら――
逃げようとしても力が入らなかった。意識だけがなんとかしなければと焦る。
「じゃあな……わからず屋」
雷撃の音が激しくなる。終わりだ……そう思った時だった。
「アストを放せぇぇぇぇぇ!!!」
聞こえてきたのは……リアの声だった。それと同時に、俺は……思いっきり放り投げられた。
「……リア?」
見るとリアが、大きく剣を振り上げてライカに襲いかかっていた。しかし、その一撃はライカに軽く受け止められてしまっていた。
「……お前、馬鹿か? アイツが来るなって言ってたの、聞こえなかったのかよ?」
「聞こえていた! だが……アストを見殺しにすることなどできない!」
リアは涙目になりながら剣を構える。ライカはニヤリと微笑んだ。
「……へぇ。やっぱりお前ら、面白いな。じゃあ、今度はお前のことを――」
「ライカ」
俺はいつのまにか自然と立ち上がっていた。ライカとリアが俺の方を見る。
「アナタの相手は……俺でしょ?」
俺がそう言うとライカは満足そうに微笑んだ。
「アスト、お前……」
リアが驚いた顔で俺を見る。俺は……なんとかニッコリと微笑む。
「リア……ありがとうございます」
そうするとリアが俺に駆け寄ってきた。
「も、もうやめよう! お前が……お前が殺されてしまう!」
リアが涙目で俺にそう訴える。
「えぇ……このままでは、勝てませんね」
俺はそう言ってからリアの持っている剣を見る。
レイリアが閉じ込められた吸魂の剣……俺にはそれしか勝てる手段が思い浮かばなかった。
「リア……剣を」
「え……お、お前、アスト……しかし……」
「わかっています。でも……今はなにをしても、あの人に勝たないといけませんから」
リアは心配そうに俺の事を見る。その目は……始めてギルドで会った時人は異なり、優しさに満ちて大人びた瞳だった。
「……わかった。だが、約束してくれ。絶対に……私達のもとに戻ってきてくれ」
そう言ってリアは俺に剣を差し出す。
「……えぇ。必ず約束は守ります」
俺はそう言って剣を受け取った。
それから、リアは心配そうではあったが、振り返らずにそのままミラとメルのもとへ戻っていった。
(フフッ……ボロボロだな。アスト、この様子では簡単にお主の身体を乗っ取って――)
魔剣から、レイリアの声が聞こえてくる。
「……寄越しなさい」
(……何?)
俺は今一度、はっきりと剣に向かって語りかける。
「アナタの持っている力……今此の瞬間だけ、全て俺に寄越して下さい……!」
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