第253話 たった一つの
「腕輪を……破壊?」
思わず自分でそう聞き返してしまった。
(たぶん、驚いていると思うけど、そうするしかこの状況を打開する方法はないよ)
ミラの声は俺の反応も予想していたようで至極冷静にそう言う。
俺は今一度手にしている腕輪を見る。
(今、アスト君は、言ってしまえば魔力の残骸のようになっているんだ)
ミラの声は続けて俺にそう言った。
(だから、このままにしておくといずれ、アスト君の存在そのものが消滅してしまう。それを阻止するためには、元の体に戻る必要があるんだ)
「それは……そうかもしれないけど……でも、今はアキヤが……」
(アスト君の身体を乗っ取っているヤツは、元々は腕輪の中にいた存在だ。腕輪の中からアスト君の身体に移動したんだと想ったほうがいい)
……言われてみればどうして俺の意識が身体から追い出されているのか。それは、アキヤの意識が俺の身体を独占しているからだ。
(だけど、あの身体はあくまでアスト君のものであって、腕輪の中にいたヤツの身体じゃない。それがどういうことかわかる?)
「……いや、わからないですね」
会話は成立していないとはいえ、俺は思わず返答してしまう。
(身体と一致していない意識は、身体から拒否されるんだ。その拒否反応が起こらずアスト君の身体が乗っ取られているというのは、その腕輪が原因だと思う)
「でも……すでに腕輪には魔力は残っていないようですが……」
(腕輪はすでにもぬけの殻に見えるかもしれない。だけど、言ってしまえば、それは、アスト君の身体を今乗っ取っているヤツの依代のようなものなんだ)
「……依代? じゃあ、なんでアキヤはそんな大事なものを放っておいているんです?」
(そうだね。きっと、疑問に想っただろうね。そんな大事なものを放っておくわけがない、って。おそらく、アスト君の身体を乗っ取ったヤツはあまり魔法やなんかに詳しくないんじゃないかな?)
……言われてみれば、アキヤはほとんどパワーで解決するタイプだった。腕輪がどういう存在であるのか、わかっていなくても仕方がない。
「だけど、腕輪を破壊するって……一体どうすれば……」
俺は傍らに落ちている石を拾ってみようしたが……やはりすり抜けてしまった。流石に拳で破壊することも出来ないだろうし、何かで壊す必要があるのだろうが……。
(何で破壊すればいいか、困っているだろうね。今のアスト君は、残骸とはいえ、純粋な魔力の塊……魔力で構成されたものしか触れることは出来ないよ)
「魔力で……構成されたもの、ですか」
と、ミラの声が段々とかすれて聞こえてくる。
(そろそろ……この魔法も限界みたいだ……アスト……君なら……あとは自分で……解決……できる……よね?)
「え……ミラ? ミラ!?」
(大丈夫……君が……やったことを……思い出し……て……)
すでにミラの声は聞こえなかった。どうやら魔法の効果はここまでのようであった。
「……魔力で構成されたもの、ですか。俺がやったことを思い出すって言っても……ん?」
俺はそう言いながら、ふとあるものを見つける。
それは……真っ赤な石……宝石だった。正確には、宝石のかけら……先程撃破したドラゴンの魔力の動力源なのであった。
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