第252話 囁き
……どうやら俺の考えた最悪の状況が、実現してしまっているようだった。
目の前にいるのは俺の身体を乗っ取ったアキヤ……そして、転生の腕輪はすでに地面に転がってしまっている。
アキヤの言う通り、俺がドラゴンゴーレムを倒すために力を引き出しすぎたがために、こんなことになってしまっているのだろう。
「……で、お前は一体どうしたいんだよ?」
そう言って今一度リアの腹部に乱暴に蹴りを入れるアキヤ。しかし、リアは苦しそうではあっても、まるで反抗的な態度を崩していなかった。
「……何度も言ったはずだ。お前なんかの仲間になんか……ならないと……」
「へぇ~。クックック……お前、中々気に入ったよ。そこまでして反抗的な態度を崩さないってのは、褒めてやりたいところだ」
そう言うと、いきなりアキヤはリアの腹部に剣を突き立て、そのまま一気に突き刺した。
「ガハッ……」
「や……やめてくれ!」
俺が叫んでも……俺の叫びそのものが誰にも聞こえないようである。アキヤは楽しそうにリアの腹部に剣先を押し込んでいる。
「どうせ、ここまでやってもお前は死なないんだよなぁ? でも、痛みはちゃんと感じるんだろ? 不便な身体だなぁ?」
「だ……黙れ……この下衆が……!」
苦しそうにしながらもリアはそれでもアキヤをにらみつける。しかし、アキヤは構わずに凶行を続けている。
俺には……何もできないのか? ただ、ここで見ていることしか出来ないのだろうか?
俺は思わず転がっている腕輪の近くに駆け寄っていく。そして、恐る恐る、腕輪に手を伸ばす。
先程はアキヤの身体をすり抜けてしまったが……果たして腕輪を触ることは…
「……できた」
不思議なことに、腕輪を触ることが出来た。俺は腕輪を取り上げる。
見た所……腕輪自体は無事のようである。しかし、すでにアキヤの意識は俺の身体を乗っ取ってしまった。
今一度この腕輪の中にアキヤを封じこめることなどできないだろし……一体どうすれば……
(……アスト君)
……聞き覚えのある声が聞こえてきた。俺は周囲を見回す。
「……ミラ?」
今のは確かにミラの声だった。俺はそのまま地面に転がされているミラの方へ駆け寄る。
「ミラ! 意識があるんですか?」
しかし、俺が肩を動かしても、倒れているミラには反応がなかった。
(……あ~、今のウチに話しかけても意味ないよ。ダメージがデカすぎるから完全に気絶しているしね)
「……じゃあ、今聞こえているのはなんなんだ?」
(これは『ウィスパー』の魔法。予め、アスト君にメッセージが伝わるように使っておいたんだ。あのクソ野郎にやられる前にね。だから、ウチと会話することはできないよ)
……なるほど。これはミラの伝言のようなものということか。まったく……ミラの使える魔法は、地味めなものが多いが毎度毎度多岐にわたるものだ。
(時間もないし、あのクズ野郎も暴れているだろうから単刀直入に言うね。アスト君が今からしなければいけないことは唯一つだけだよ)
「……俺は、何をすればいいんだ?」
と、ミラの言葉が一旦途切れ、少し経ってから次の言葉が続く。
(今からアスト君は……あの腕輪を破壊してもらうよ)
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