第203話 私を信じて

「ど、どうするのよ……このままじゃ、姉上に本当に氷漬けにされちゃうわよ……!」


 寒そうにしながらメルがそう言う。実際、俺も寒くなってきた。


 考えろ……ルミスの能力の影響を受けずに、どうやってこの部屋を脱出する? メルの魔法で……いや、ミラでさえ能力の影響を受けてしまうのだ。おそらく、状態異常無効魔法もあまり意味がないだろう。


 部屋を出た瞬間にルミスを瞬殺する? ……さすがにアキヤの力を全開にしても厳しいだろう。そもそも、マギナは俺のことを最初から認識していた。おそらく、ルミスも同様である可能性が高い。そうなると、なんらかの対策をされている可能性だってある。


 だとすれば、どうやって――


「……お二人共。私に、一つだけ……案があります」


 と、そういったのは俺達と変わらず寒そうにしているサキだった。


「な、何よ……アンタに何ができるわけ……?」


「……お二人は……私のことを信じてくれますか?」


 珍しくサキが真剣な表情だった。しかし、俺もメルもサキが常にふざけているようなサキュバスではないということは知っている。


「……えぇ。信じます。サキは俺達の仲間ですから」


 そう言うとサキは嬉しそうに微笑んだ。


「……ありがとうございます。でも、これは賭けです。私が勝つのか、女神ルミスが勝つのか……やってみないとわかりませんが……」


「つべこべ言ってないで! もう部屋が凍りつくわよ! 私はアンタを信じる! アンタも自分のことを信じなさい!」


 メルの言葉でサキは大きく頷いた。それと同時にサキの頭部には角、そして、背中から蝙蝠のような羽……尻尾が映え、サキュバスの姿になる。


「アストさん! 失礼します!」


 と、いきなりサキは俺に……口づけしてきた。あまりのことに驚いていたが、何もできず俺はサキの接吻を受け入れてしまう。


 一瞬、甘い味がしたかと思うと、サキはすぐに俺から離れる。


「あ……アンタ! 一体何して――」


「メルさんも失礼します!」


「んぐっ!?」


 今度はサキはメルにも口づけした。あまりのことに唖然としているうちに、メルとサキの口づけも終わってしまう。


「……これで、お二人は今、私の奴隷です」


「え、えぇ……しかし、なぜこんなことを……?」


 すると、サキはニヤリと微笑む。


「……私の心酔の能力が、どこまで女神ルミスの能力に対抗できるか……わかりませんが、すぐには女神の心酔の影響を受けることはないと思います」


 ……なるほど。心酔の能力に心酔の能力で対抗するというわけか。俺とメルは顔を見合わせ、扉の方を見る。既に部屋は半分以上氷漬けになっていた。


「……とにかく! 今は部屋を出るわよ!」


 メルの言葉とともに、俺は思い切り扉を蹴っ飛ばし、俺たちは再び光あふれる部屋の中へと飛び込んでいったのであった。

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