第202話 敵に回すと恐ろしい

「ど……どうするのよ! なんで最初からわからなかったわけ!?」


 メルが怒り気味にサキにそう言う。しかし、サキは申し訳無さそうに視線を下に落とすしかしなかった。


「メル……サキが俺たちだけでもこの部屋に連れ込んでくれなかったら今頃、全員がルミスの心酔……いえ、心酔の能力に囚われていたはずです」


「それは……でも! それじゃあ、他の皆はどうするの!? 皆、一体どうなって――」


 コンコン、と扉を叩く音がする。


 と、俺たちが完全に混乱している矢先、その音は聞こえてきた。


 コンコン……二回目の扉を叩く音。どうやら……俺たちには混乱している余地もないようである。


「どうしましたか? なぜ部屋に戻ってしまったのです?」


 扉の向こうから聞こえてくるのは先程聞こえてきた優しげな声……ルミスの声だろう。


 確かに声だけでも聞いているだけで今にも扉を開けてしまいたくなるような不思議な力がある。


「他の皆さんは私と一緒にいますよ? 皆さんもこちらにいらっしゃってください」


 その言葉を聞いて思わず俺とメルは顔を見合わせる。つまり、俺たち以外のメンバーはどうやらルミスの心酔の能力の影響下にあるようである。


「……どうするのよ、アスト。私達以外は全員あいつの……ルミスの部下になっちゃったんじゃないの?」


「落ち着いてください、メル。まだわかりません。確かに彼女の崇拝の能力の影響下にあるとは思いますが、どれくらいの影響を受けているかどうかは――」


「アスト! メル! サキ! 早く部屋から出てくるんだ! ルミス様は我々のことも信者として迎え入れてくれると言っているぞ!」


 ……まぁ、リアに関してはサキの時も心酔の影響を受けまくっていたし、仕方ない。問題は……ミラとラティアだ。


「アスト君、メル、サキ。どうしたの? 早くでてきなよ。ルミス様はウチ達が想像したのとは違う存在……本当の女神様だったんだ。ちゃんと謝れば許してもらえるよ?」


 ……ダメだ。あのミラがここまで影響を受けている……ということはルミスの心酔の能力は相当強いということだ。


 つまり、言われたとおりに俺たちが扉をでてしまえば、あっと言う間にルミスの能力の配下に置かれてしまう……しかし、だからといって、どうすればいいのか……


「……なんか、寒くないですか?」


 と、不意にサキがそんなことを言ってきた。言われてみると……なんとなく部屋の温度が下がっているような気がする。


 いや……下がっているどころの話ではない。見ると、部屋の壁には薄っすらとだが……氷が出来始めている。


「……これって、まさか……!」


 ……そうだ。あのミラでさえ、既に能力の影響にあるのだ。となると……ラティアでさえもその能力の影響を受けていてもおかしくない。


「さぁ、アスト、メル、ミラ。我もお前達が早く部屋からでてくるのに協力しようではないか。いつまでも閉じこもっていると……凍りついてしまうぞ?」


 ラティアの言葉で俺たちは確信した。ラティアが部屋の外からこの部屋ごと俺たちを凍らせようとしているのである。


 ここにきて俺たちは……絶対に敵に回してはいけない人物を敵に回してしまったのであった。

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