第200話 女神の視線の先

「アスト!」


 転移魔法で戻ってきてみると、一番に大きな声で出迎えてくれたのは……リアだった。


「大丈夫だったのか!?」


「え、えぇ。大丈夫です。ミラが来てくれたので、なんとか」


「そうか、よかった……それで、あの魔法使いは?」


 リアがそう言ってミラの方を見ると、ミラは肩を竦める。


「さぁ? どこかで居眠りでもしているんじゃない?」


 そう言ってミラは俺にウィンクする。なんというか……やはり、ミラは敵にはしたくないなと、つくづく思う。


「そうか……とにかく、二人共無事で良かった。しかし、これからどうする?」


 リアに言われて俺も同じ気持ちだった。確かになんとかマギナのもとからは逃げることができたが……ルミスのことをまったく聞いていなかった。


 ルミスがこの塔の中にいるということはわかったが、そのルミスがいる場所まではどうやって行けばいいのだろうか。


「とりあえず、あの魔法使いがいた礼拝堂の中を探索してみない?」


 と、ミラの提案にとりあえず俺たちは同意する。俺たちはそのまま礼拝堂の中に入っていく。


 礼拝堂は見た目通りに広大だったが、これといってどこかにおかしな点があるということはなかった。祭壇の上の女神の像は物憂げな表情で祭壇を見下ろしている。


「……あれが、女神ルミスなのよね?」


 と、メルが俺に話しかけてきた。


「えぇ……俺が持っているアキヤの記憶の中のルミスとはよく似ていますので、おそらくそうかと」


「……そう。その人、ヒーラーだったのよね? どうして、こんな教団を建てたのかしら……」


「それは……」


 そこまで言って俺はその先を言うかどうか迷ってしまった。マギナの言葉を信じるのならば、ルミスが教団を建てたのはこの世界を新しく作り直すため……それを今メルや他の皆に話してしまって良いのか、俺にはわからなかった。


「……っていうか、この女神像はどこを見ているのよ。なんだか視線の先が……あれ?」


 と、メルがそう言って祭壇の床を見つめている。


「どうしました? メル」


「……アスト、女神の視線の先を辿っていった先……なんか光っていない?」


 と、メルの言う通り、女神の像が見つめているその先の床の部分だけ、他の床とは異なり、少し明るい色をしていた。てっきり窓の外からの光かと思いきや、明らかに他の部分とは違う色をしている。


 俺はそのまま床の部分に向かっていく。そして、その床に触れた……その時だった。


 祭壇の上がうっすらと光り輝く。その光を見て、他の部分を捜索していた皆も集まってきた。


「これは……転移魔法陣だ」


 ミラが光っている部分を見てそうつぶやく。


「……つまり、この魔方陣の中に入れば、女神ルミスのもとに行けるってこと?」


「おそらく……どうするの? このまま行く?」


 ミラが少し不安そうにそう言う。俺はふと、メルの方を見る。


「……私は今すぐにでも行きたいわ。ルミスが一体どういうつもりでこんなことをしているのか、同じルーラーとして問いただしたいから」


 メルの言葉に他の皆も同様の意見のようだった。無論、俺も同じ意見だった。


「……よし! 行きましょう!」


 俺たちは祭壇の上光る魔法陣の中に入る。それと同時に魔法陣が一層明るく輝いたかと思うと、そのまま俺たちの視線は光で覆われていったのであった。

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