第199話 皆と一緒にいたいから

「み、ミラ……どうやって、ここに?」


 俺は思わず驚いてしまう。しかし、ミラは至って冷静だった。


「あのねぇ、ウチだって魔法使いなわけ。誰がどこに転移したのかってことくらい、すぐにわかるの」


「え……そ、そうなのですか?」


「まぁ、細かく説明してもわかんないと思うから今はしないけど……で、今はこの人に何されそうになっていたわけ?」


 ミラがそう言ってマギナの方を睨む。マギナはつまらなそうな表情で俺たちのことを見ていた。


「そうか。忘れていたよ、君も転移魔法が使えたんだったね」


「……アンタは何? アスト君をどうしようっていうの?」


「どうもしないさ。僕はアスト君に協力を依頼していたんだ」


「……協力?」


「あぁ。君も知っているだろう? アスト君の腕輪には強大な力……はっきり言えば、勇者アキヤの力が宿っているんだ。僕とルミスはその勇者アキヤに用がある。だから、アスト君には腕輪の力を総て開放してもらって、勇者アキヤとして、僕たちに殺されてほしいんだ」


「……アンタが何を言っているかよくわからないけど……つまり、アスト君ごと腕輪の力を破壊したいってこと?」


「簡単に言うと、そうなるね」


 マギナはそう言ってニッコリと微笑むが、ミラはまるで表情を変えなかった。


「で……アスト君がそれに協力することのメリットは?」


「もちろん、メリットもあるさ。僕とルミスは新しい世界を作ろうとしている。もし、アスト君が協力してくれれば、アスト君の仲間達も、僕たちが作る新しい世界に迎え入れてあげるよ。もちろん、君もね」


 しばらくミラはマギナのことを見ていた。マギナは笑顔のままでミラと俺の事を見ている。


「……なるほどね」


 と、ミラは俺の方に顔を向けてくる。


「で……アスト君はそのお願いに、なんて答えたわけ?」


 ミラにそう聞かれ、俺は少し躊躇する。マギナの言う通り……俺は、アキヤの力を奪われたくないから協力を拒否したのかもしれない。


 確かにマギナの言う通り、俺は怖いのかもしれない。アキヤの力を失った俺のことを、パーティの皆が受け入れてくれるのかどうか、を……


「アスト君」


 と、ミラの言葉で俺は我に返る。


「ウチは……そのよくわからない新しい世界になんて迎え入れてほしくない。たぶん、リアもメルもきっとそう言うよ。アスト君は?」


「……俺は……皆と一緒にいたい……です」


 ミラは俺の答えを聞いて微笑んだ。


 ……そうだ。簡単なことなんだ。俺は皆と一緒にいたい……それだけなんだ。


「つまり……僕には協力してくれないってことかい?」


 マギナが悲しそうな顔でそう言う。俺は今一度ミラのことを見る。ミラは小さく俺に向かって頷いた。


「……えぇ。アナタがどう思うかは知りません。ですが、俺は……アナタに協力したくない」


「へぇ……そう。けど、わかっているのかな? ここには君たち二人しかいないんだよ? これでも僕は魔王を倒したパーティの魔法使い。おまけに僕はほぼすべての魔法を瞬時に発動することができる!」


 ……確かに先程の転移魔法も一瞬で発動していた。さすがのミラでも魔術勝負ではとても相手にならないだろう。


「つまり……君たち二人を……こ……ここで消し去るなんてこと……か……簡単に……でき……る……」


 と、なぜか喋っている最中にフラフラし始めたかと思うと、いきなりマギナはバタッと倒れてしまった。


「え……えぇ!?」


 俺は思わず倒れたマギナに駆け寄っていく。と……マギナは気持ちよさそうな顔で眠っていた。


「まったく。先代の魔王ってのは、こんな隙だらけの魔法使いにやられたわけ? ……あ。そういえば、勇者アキヤが一人で倒したんだっけ? じゃあ、この人、別に魔王倒してないじゃん」


 そう言ってミラが呆れ顔でそう云う。と、その手には小型の手投げナイフが握られていた。


「え……ミラ、まさか……」


「そう。喋っている最中に一本投げておいた。ほら、足の部分に刺さってる」


 ミラの言う通り、マギナの足の部分にはナイフが刺さっている。


「ナイフの先には一瞬で昏倒する毒を塗っておいたんだよね。さっき、一瞬で転移魔法を使うのを見て、どう考えても純粋な魔術勝負じゃ勝てないってわかってたから、久々に昔の職業道具を準備しておいたんだよね」


 ミラはそう言ってニヤリと笑って俺のことを見る。


「……こういうことしているから、パーティを追放されたってこと、アスト君には話したでしょ?」


「え、えぇ……でも、今は助かりました……ありがとうございます、ミラ」


 思わず俺はミラの手を掴んでお礼を言った。ミラは少し恥ずかしそうに顔をそむける。


「……とにかく、転移魔法で戻るよ。皆の所にね」


「えぇ……えっと、マギナはどうします?」


「気持ちよさそうに眠っているし……このままでいいんじゃない?」


 結局、俺とミラは眠ったままのマギナをそこに放置して、転移魔法で皆の待つルミス教団の街へと戻っていったのであった。

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