第192話 終末
そして、俺達は今度こそ、ルミス教団の本拠地に向かって進み始めた。随分と時間がかかってしまったが、一応準備を整えることができたわけでもある。
教団の本拠地まではやはり近距離であったようで、数日程度しかかからず、問題なくたどり着くことが出来た。ただ、俺達の目の前に現れた本拠地を見て……俺達は思わず唖然としてしまった。
「……随分と壮厳だな」
リアが心底驚いた声でそう言う。俺も……思わず驚いてしまった。
それこそ、街というよりも、城とその城下町と言わんばかりの広大な場所だった。中心部には白い塔のような建物が聳え立っている。
「……あれが教団本拠地かな?」
ミラが目を細めながらそう言う。街の中央に位置している以上、おそらくそうであろうと思われるが。
「で、街にやってきたのは良いが……あれらをどうするつもりだ?」
と、俺達が街の凄さに驚いていると、ラティアが街の入り口を指差す。確かに街の入り口には白い装束を着た、門番らしき人達が二人、立っていた。
「大丈夫ですよ! この証があればね!」
サキが元気よくそう言う。まぁ、自分のおかげで手に入ったと言いたい感じなのはわかる。しかし、そのために証を入手したのだから、使わないのは勿体ないだろう。
「……よし。じゃあ、皆で行きましょう」
俺達は首元に証を装着すると、そのまま入り口の方に向かっていく。
……よく考えればこの証だけで街に入ることができるのだろうか? 信者の中にもランクなんかがあった場合、さすがにこんなアクセサリーだけで入れるとは思えない。しかし、すでにもう衛兵の目の前までやってきてしまっていた。
「すいません、少し良いですか?」
と、俺達が目の前にやってくると、門番が話しかけてきた。
「え、えぇ……なんでしょうか?」
俺が返事をする。門番の人も……前の街と同じように満面の笑みで俺達を見ていた。
「すいませんね、この街はルミス教の信者さんしか入ることが出来ないんですよ。確認、よろしいですか?」
そう言って門番二人は俺達の首元の部分を見る。皆問題なく首元にはアクセサリーを装備しているわけだが……
「あ」
と、門番の一人がなぜか声をあげた。そして、いきなりサキの近くに歩いていく。
「ひっ……な、なんですか?」
目の前に門番がやってきたサキは小さな悲鳴をあげる。と、門番はジッとサキのアクセサリーを見つめている。
「アナタ……これ……」
門番はそう言ってサキの首元を指差す。やはり、アクセサリーにおかしな点があったのか? それとも、もしかして、信者にしかわからない印のようなものでもあったのか……
俺は覚悟を決めて腰元の剣を触れる。しばらくの間門番はサキの首元を見つめていたが、小さくため息をつく。
「ダメですよ、それ。少し傷ついているじゃないですか」
「え……あ、あぁ……す、すいません」
サキは苦笑いするが、門番は少し怒っているようだった。
「このアクセサリーは、女神ルミス様が我々とそうでない人を区別するための目印なのです。もし、目印に不備があったりすると『終末』の時に女神ルミス様のご加護を受けることができなくなってしまいますよ?」
「あ、あはは……わ、わかりました、気をつけます……」
サキはそう言って半笑いしながら、俺の方に近寄ってくる。
「では、結構です。皆様に女神ルミス様のご加護があらんことを」
門番達はそう言って俺達を見送った。俺達は笑顔を向けながら街へと進んでいく。
「ば、バレたかと思いました……」
門番達から十分離れたところで、サキはようやく開放されたといわんばかりにそう言った。
「えぇ……ですが、問題なく街に入ることが出来ましたね。とりあえず……拠点になりそうなところを探しましょうか」
そういう事になり、俺達は街を散策することにした。と、なぜかメルだけが難しい顔で考え込んでいた。
「どうしました? メル」
俺が話しかけると、メルは険しい顔で俺を見る。
「……ねぇ、アンタの記憶……というか、アキヤの記憶の中でそのルミスって人は、ヒーラーだったのよね?」
「え、えぇ……ルミスはアキヤに認められる程度に優秀なヒーラーだったようですが……」
「……さっき、門番の一人が『終末』って言ったわよね?」
「えぇ……このアクセサリーは『終末』の時に女神が信者を見分けるための目印だ、と……それが何か?」
「……私達ヒーラーは、一応はこの世界の神に仕えるものであるってことは言ったわよね?」
メルは深刻そうな表情でそう言う。俺は小さく頷いた。
「その神の教えの中で『終末』っていう言葉はかなり重い意味の言葉で、魔王が世界を滅ぼすとか、魔物が世界にはびこるとかじゃなくて……世界に不道徳な人間がはびこった時に、神が世界を滅ぼすことを表す言葉なのよね……つまり、女神ルミスは……」
メルが最後まで言わずとも俺も理解できた。
どうやら、俺の転生前の仲間は……とんでもないことをしようとしているかもしれないのであった。
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