第178話 それでも彼女達は
そして、次の日。
俺は朝早く目覚め、そのまま街を出ることにした。思えば、この街には長いこといてしまった。
リア、メル、ミラ……皆、とても良い仲間だった。俺にはもったいないくらいだ。
そんな仲間たちに何も言わずに街をでていくのはとても心苦しいが……これが最善なのである。
人のいない朝の街を歩きながら俺は考える。果たして……俺一人で止めることができるだろうか? ライカはああ言っていたが……おそらく、助けるつもりなどないだろう。
だとすると、俺一人でなんとかしなければならない。仮に「救世の勇者」の力があるとはいえ、魔王を倒したパーティの仲間達を相手にするのは……かなり大変だろう。
だとしても……俺一人でやらなければならないのだが。
そんなことを考えていると、いつのまにか街の外れにやってきていた。ここを出ればもう後戻りはできない。俺は今一度気を引き締めて街の外へと第一歩を踏み出す……はずだった。
「一人でどこへ行くわけ?」
背後から聞こえてきたのは、聞き覚えのある声だった。俺は思わず驚いて振り返る。
「……ミラ。なんで……」
そこにはミラの姿があった。一体どうやって俺が街を出ようとしていることを知ったというのだろうか?
「なんでもいいでしょ。それより、それが君の選択なわけ?」
ミラは明らかに不満そうだった。俺は思わず言葉に詰まる。
「……ええ。皆に迷惑は……かけられませんから」
「……誰が、いつ、君が昔の仲間を倒しに行くことが迷惑だって言ったの?」
ミラは俺に近づいてくると、いきなり首根っこを掴んできた。
「アスト君は、ウチらのこと、そんなふうに考えていたわけ?」
「み、ミラ……でも……」
「別に今更誰も迷惑だなんて思わないわよ」
と、今度は別の声が聞こえてきた。見ると、物陰からでてきたのは……メルとサキだった。
「メル……サキまで……」
「あのね、アスト。そもそも、そんなこと程度で迷惑だなんて思っていたら、こんな追放者だらけのパーティ、とっくに抜けてるわよ」
メルが自嘲気味に笑いながらそう言って、ミラの肩をポンと叩く。
「アンタが怒っているのはわかるけど、離して上げなさい」
メルに言われると、ミラはゆっくりと俺の首根っこから手を離す。
「ですが! 皆を危険に晒すわけには……!」
「アンタ、そもそも……パーティのリーダーに抜けるって断り、入れてないでしょ?」
「え? そ、それは――」
「私は認めないぞ!」
と、今度も聞き覚えのある凛とした声が聞こえてきた。俺はそちらの方に顔を向ける。
見ると、そこにはリアとラティアが並んで立っていた。
「リア……ラティアも」
と、リアはいきなり俺の方に走ってきたかともうと、思いっきり俺に抱きついてくる。
「なっ……! リ、リア! 何して……!」
「私が情けないから……私が情けないからこのパーティを抜けるのか!?」
と、リアは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら俺の顔を見る。その顔を見ては……もはや俺は自分が間違っていたのだということを認めずにはいられなかった。
「アスト、まさか、我の妹をそこまで泣かせて放置するとは言うまいな?」
ラティアが不敵な笑みを浮かべながら俺のことを見てくる。俺は苦笑いしながら皆の事を見る。
「……えぇ。俺が間違っていました」
「わかってくれればいいよ。さて……詳しい話は目的地に向かいながら聞こうか?」
ニンマリと貼り付けたような笑顔でそういうミラ。やはり未だに怒っているようだった。
「……だから言っただろう? お前は何もわかっていない愚か者だと」
ラティアにそう耳打ちされて、俺は本当にその通りだと実感した。
こうして……俺は追放パーティと共に、自分にまつわる罪と罰の精算に向かうことになったのであった。
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