第177話 罪と罰
俺は……一人になってしまった。
……いや、思えばむしろ元に戻ったとも言える。俺はアッシュのパーティを追放された時に確信した。きっと、俺はどう頑張っても一人になってしまうのだ、と。
だとすれば、これまでのリア、メル、ミラとの冒険は……奇跡のようなものであったとも思える。俺にとっては贅沢すぎたのだ。
だから、元に戻っただけ……俺はそう言い聞かせながら歩いていた。
「ようやく、決心がついたみてぇだな」
人気のない道を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。俺は声のした方に顔を向ける。
「……ライカ」
そこには長身の金髪という目立つ出で立ちの女性が立っていた。
「これからお前がやろうとしていることに、他の奴らは足手まとい……だから、別れたってところか?」
「……違います。俺は皆を巻き込みたくないだけです」
俺がそう言うとライカは目を丸くして驚く。
「へぇ。俺が知っているお前は、そんなことは言わないだろうけどな」
「……お前が知っている俺は……俺ではありません」
そう言うとライカはニヤニヤしながら俺を見る。
「あぁ、わかっているさ。お前は戦士アスト。大した力もない普通の冒険者だ。俺が言っているお前っていうのは、お前の転生前……つまり、『救世の勇者』のことだ」
救世の勇者……その言葉を聞きたくなかった。聞いてしまうと、嫌でも実感しなければいけないからである。
俺の転生前は……かつて先代の魔王を倒した「救世の勇者」と呼ばれる伝説の存在であったことを。
「……なぜ、お前はそれを知っているんです?」
「なぜ? 当たり前だろ。俺は……いや、正確には転生前の俺は、その勇者のパーティの一員だった。もっとも……その勇者様に殺されたんだがな」
その話を聞いて俺は理解する。そして、同時に信じられない思いでライカを見てしまう。
「……お前……ライアンだったのか」
俺がそう言うとライカは小さく頷いた。
ライアンは……腕輪に封じられている転生前の記憶に存在する人物の名前だ。そして、俺は転生前の俺が、その人物を……殺したことを理解している。
「俺は『救世の勇者』に殺されることを薄々感づいていたからな。予め死んでも問題ないように準備しておいた」
「つまり……転生できるようにしておいた、と?」
「あぁ、それがこれだ」
そう言って、ライナは眼帯をめくる。その眼帯の裏には……宝石のように輝く義眼が嵌められていた。
「ライアンは勇者に殺される前に、自ら義眼を嵌めた。そして、殺された瞬間にこの『転生の義眼』が発動し、転生した……もっとも、女に転生するとは思わなかったがな」
そう言うとライアンはずいと俺の方に近づいてくる。
「……正直、今すぐその腕輪の力をお前に解放させて、『救世の勇者』をぶっ殺してやりたいが『救世の勇者』にまだ死んで貰っちゃ困る」
「それは……かつての勇者の仲間がしていることを、止めるためですか?」
「そうだ。『救世の勇者』の力がなければ、かつて先代の魔王を倒したパーティーの奴らを倒すなんてこと、できないからな」
すると、ライカは今一度俺のことを見る。眼帯で隠れていない片方だけの目であっても十分に殺気を感じさせるものだった。
「お前は罪を背負って転生したんだ。お前自身に罪がなくても、お前はそれを精算する義務がある……お前にとっては罰みたいなもんだな」
「……えぇ、そんなこと、わかっています」
俺がそう言うとライカはニヤリと微笑む。
「見ていて傑作だぜ? あの傲慢で最低な性格の『救世の勇者』の転生先が、辛気臭い顔で悩んでいるなんてな」
そう言ってライカは俺に背を向ける。そして、俺にいきなり一枚の紙切れを押し付けてくる。
「それが、勇者のパーティの仲間……ヒーラーのルミナが好き勝手やっているっていう、ルミナ教の本拠地だ」
確かにライカが渡してきた地図には、印が着いていた。
「気が向いたら手助けしてやる。だが、基本的にはお前一人でどうにかしろ。『救世の勇者』はなんでも一人でやっちまう奴だったからな」
ライカはそう言い残してそのまま去っていってしまった。残された俺は無造作に右腕の腕輪を見る。
「……俺は……『救世の勇者』なんかじゃない」
自分に言い聞かせるように呟いたその言葉は、夜の闇に消えていった。
明日、早くにこの街を出よう……そして、俺が「罰」を精算しなければいけないのだ。
そう自分に言い聞かせても、どうしても俺の脳裏には、リアやメル、ミラの顔が思い浮かんできてしまうのであった。
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