第150話 心変わり
ホリアに……捨てられた? 俺の全く想定外のアッシュの話に、俺は唖然としてしまった。
「え……えっと……ホリアに、ですか?」
なんとか、アッシュに今一度訊ね返す。アッシュは小さく頷く。
……いや、確かにアッシュは粗暴で傲慢な勇者だった。仲間に見捨てられても仕方ない人物かもしれない。
ただ……ホリアに関しては別だ。ホリアとアッシュは、アッシュが冒険者になった始めの頃からの仲で、ずっとパーティを組んでやってきた……そういうふうに聞いている。
そのホリアに捨てられた……確かにそれはアッシュにとって受け入れがたい話だろう。
「……えっと……アッシュ。それで……ホリアは?」
「……新しい勇者に……ついて行っちまったよ」
「え? 新しい勇者に?」
俺が思わず驚いてしまうと、アッシュは顔をあげる。しばらく俺を睨んでいたが、不意に悲しそうな笑みを浮かべる。
「……あぁ、そうだ。ホリアは……まるで俺のことなんて眼中にないって態度で、ソイツについて行っちまったんだ……」
「その……ホリアと喧嘩とか……そういうことをしていたとか?」
アッシュは首を振る。実際、アッシュとホリアが喧嘩しているところなんて見たことないしなぁ……
そもそも、ホリアは、俺に対してはまるでゴミを扱うような態度であったが、アッシュに対してはそれこそ、主人に仕える使用人のごとく、崇拝しているレベルだった。
それなのに、そんなホリアがアッシュを捨てて新しい勇者に……確かに、にわかには信じがたい話だった。
「それで……アストさんには相談してみては、と……」
メディが申し訳無さそうにそう言った。
「え……メディさんは、アッシュのパーティに今もいるんですか?」
「……いえ。ですが、一度はアッシュさんにはお世話になりましたし……ギルドの集会所で意気消沈しているアッシュさんのことは放っておけなくて……」
そう言ってメディは優しげな視線をアッシュに向ける。
「……ホリアぁ……どうしてだよぉ……」
アッシュはそんな視線に気づかず、ホリア一筋のようである。
しかし、この状況どうしたら良いものか――
「なるほど! それならば、助けてやらねばな!」
と、背後から威勢の良い声が聞こえてくる。俺達三人はそちらに振り向く。
「……リア」
左右にメルとミラを引き連れたリアが、得意げな顔で俺達を見ている。
「話は途中から聞いていた。つまり……アッシュの仲間を引き戻してやれば良いのだろう?」
リアの言葉にアッシュは呆然としている。
「えっと……リア。いいんですか? そのアッシュは以前、アナタを……」
「……そうだな。ソイツは私や仲間に酷いことをした。しかし、困っているのを助けるのがアーカルド家の家訓だからな! 姉上もきっとそう言うだろう!」
リアがいつものように得意げにそう言う。これは……止められないなと思い、俺はミラとメルのことを見る。
「まぁ、そこの勇者さんには少しの間でもキリちゃんがお世話になったみたいだし。少しは手伝ってあげても良いよ~」
呑気にそう言うミラと対照的に、ミラは少し怪訝そうな顔でアッシュを見ている。
「……な、なんだよ」
メルの視線に気付いたアッシュがメルに訊ねる。と、メルがアッシュにぐいと近づいていく。
「アンタ……それ、どんなヤツだったの?」
「え? どんなヤツって……ホリアが付いていった男のことか?」
「そうよ。で、どんなヤツ?」
「どんなって……いけ好かないヤツだったよ。いきなり俺とホリアに話しかけてきたと思ったら、その後は、ホリアにばっかり話しかけていて……気付いたらいきなりホリアが……ぱ、パーティを抜けたいって……そ、それで……ホリアは俺のことなんてどうでもいいって言い出して……まるで、いきなり心変わりしたみたいに……う、うぅ……!」
そう言ってアッシュはまた泣き出してしまった。メルは俺の方に向き直る。
「……ねぇ、アスト。こんなこと、少し前にウチのパーティでもあったわよね?」
メルがニヤリと微笑みながら俺のことを見る。
どうやら……俺達はまたしても面倒なことに足を突っ込んでしまったようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます