第117話 選択の意味

「えっと……これで良かったんですよね?」


 俺がそう言うと、ヤトは小さく頷いた。すると、こっちへ駆け寄ってきたのは、ミラだった。


「え、ちょ……ミラ……」


 いきなりミラは駆け寄ってきたかと思うと、そのまま俺に抱きついてきた。


「み、ミラ……何を……」


「……ごめん」


 ミラは今まで聞いたことのないようなか細い声で、俺の耳元で囁いた。俺は驚いてしまって何も言えなかった。


 それから、しばらくしてミラは俺から身体を離す。それでも、申し訳無さそうに俺のことを見ていた。


「アスト様。お見事です。貴方様は惑わされない人のようですね」


「惑わされない人……ですか」


「えぇ。貴方様にとってミラは、あくまで、貴方様の仲間のようです。そして、何より貴方様はミラに……気に入られているようですね」


「気に入られている……ですか?」


 俺は思わずミラのことを見てしまう。ミラは恥ずかしそうになぜか俺から目を反らす。


「えぇ。ミラには……毒も持たせていましたから」


「え……ほ、本当ですか?」


「はい。私は、嘘は言わない女です」


 相変わらずの無表情のままでヤトはそう言う。


「さて、私は貴方様のことを、ミラの仲間として、そして、私がある程度まで認めることができる人間として観察することができました。ですから、貴方様はこれより、この屋敷の来賓となります」


「え……来賓って……いやいや! もう認めてもらったのなら、ミラとキリと一緒に帰りたいんですが……」


「駄目です。私が来賓と認めた以上、貴方様には今宵はここに宿泊していただきます」


 ヤトはそう言って今度はミラの方に視線を向ける。


「さぁ、ヤト。お前も私に協力して、この屋敷の来賓であるアスト様にご奉仕しましょう」


「え……ご奉仕って……ヤト姉様、本気で言っているわけ?」


「はい。本気です。私が冗談を言ったことがありますか?」


 その顔は……冗談を言っている顔ではなかった。すぐにミラにもそれはわかったようだった。


「……わかりましたよ」


 明らかに不満そうにミラは返事をした。


「それでは、ご夕食の準備を致しますので、少々ここでお待ち下さい」


 そう言ってヤトはそのまま食堂をでていってしまった。残されたミラは俺の方を見る。


「……その……ホントにごめん、アスト君……」


「そんな……いいですって。俺だって、覚悟をもってやってきたわけですから……」


「……アスト君には、ウチのことなんて、信用されていないって思ってたんだ」


 と、ミラは小さく、しかし、はっきりと、そう呟いた。俺は思わず言葉を失ってミラを見てしまう。


「え……ミラ……」


「……ごめん。気にしないで。また後で」


 そう言ってミラは慌てて食堂を出ていってしまった。俺は呆然とその後姿を見る。


 なんだろう……俺は正しい選択をした。それなのに……何か、こう……同時に、とんでもない選択をしてしまったかのよう思えてきてしまったのだった。

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