第112話 目覚めると、そこは

「……う……うぅっ……」


 ……一体どうなったんだ? 俺は確かミラとキリと一緒に屋敷の中に入ろうとして、その時何か光る物が飛んできて――


「ミラ!?」


 俺は開けると同時に叫んでしまった。と、視線の先には……高い天井が見える。


「……え? ここは……」


 周囲を見回してみると、そこは……ベッドの上のようであった。いつのまにか俺はベッドの上で眠っていたのである。


「お目覚めですか」


 と、いきなりどこからか声が聞こえてきた。俺は思わず周囲を見回す……と、部屋の片隅に人影があった。


「お屋敷の前で倒れておりましたので勝手に運ばさせていただきました。申し訳ございません」


「え……あ、アナタは……」


 その人影は……女性だった。ロングスカートのメイド服を着た長い黒髪の彼女は、眼鏡の奥の鋭い目つきで俺のことを見ている。


「ワタクシはこのお屋敷に使えるメイドです。ご主人さまがお出かけの際に留守を預かっていたのですが、丁度その時に貴方様がお屋敷の前で倒れていたのを発見したので、保護させていただきました」


「そ、そうですか……って、いやいや! 俺はこの屋敷に入ろうとして倒れたんです! というか……俺以外にも二人倒れていたでしょう!?」


 俺が矢継早に質問するが、メイドは首を傾げている。


「いえ、お屋敷の前で倒れていたのは、貴方様一人でした。お連れ様がいたのですか?」


「え……だ、だって……」


 俺は思わず彼女のことを見てしまう。


 彼女は……この屋敷に仕えるメイドだと言っていたが、そんな人物がいるとはミラは言っていなかった。無論、ミラが知らないうちに屋敷にメイドが雇われたのかもしれないが……明らかに不審である。


 というか、このメイドこそ、問題のヤト姉様なのではないか?


 ならば、こういうときも危機察知スキルを使えばいい。彼女が俺にとって危険な存在……ヤト姉様であるかはスキルを使えばわかることだ。


 俺はスキルを発動するために腕輪に祈りを込めようとした。しかし……


「……え?」


 腕輪の反応が……ない。俺は慌てて右腕を見る。


 右腕には……俺が装備しているはずの腕輪が存在していなかった。


「そういえば、貴方様は冒険者ですよね?」


「え……そ、そうですが……」


 なぜ……どうして腕輪がないんだ? 俺は思わず動揺してしまったが、メイドは構わずに先を続ける。


「貴方様の装備は全てこちらで厳重に保管させていただいております。このお屋敷では戦う必要もないでしょうから、必要ございませんよね?」


 そう言ってメイドは口の端を微かに吊り上げて微笑んだ。


 危機察知スキルが使えない状態でも確信できた。


 このメイドこそが、ミラとキリの姉であり、彼女たちが怖れている存在……ヤト姉様なのだ、と。

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