第95話 信じてほしい
「じゃあ……行きますよ」
俺は吸魂の剣を構えて、リアの方を向く。リアの方も鎧を脱いですでに自ら刺される覚悟はできているようである。
「あ、あぁ……大丈夫だ」
そうは言っているものの……リアは明らかに不安そうな表情だった。
いや、今から俺が剣で貫こうとしているのだから、それは不安な表情になるに決まっている……さすがに俺も構えた剣が揺らぐ。
「リア」
と、そんなリアに声をかけたのは……メルだった。メルはリアの肩をぽんと叩くと、安心させるようにニッコリと微笑む。
「メル……」
「アンタ、もしかして、不安なの?」
「そ、それは……まぁ……」
「あのねぇ……剣で貫かれてアンタ、死ぬと思っているわけ?」
「え……そ、それは……」
と、メルはいきなりリアのことを抱きしめた。
「メル……! なっ……何をするんだ……!」
「……大丈夫。事が終わったら、すぐに完全に回復させるから……だから、私を信じて」
メルはリアに抱きついたままそう言って、それから、ゆっくりと離れた。リアは呆然としながらメルのことを見ていたが……しばらくすると、安心したように微笑んだ。
「……あぁ、そうだな。わかった。お前を信じる」
それから、リアは俺の方に今一度向き直る。
「さぁ! アスト……来い!」
リアのその言葉に……俺は、答えなければならない。
「……わかりました」
俺は剣を今一度強く握り……そのまま思いっきりリアに向かって突き刺した。
「ぐふっ……」
リアは喀血し、苦しそうに顔を歪める。
「ラティア!」
俺はラティアの方に呼びかける。ラティアも辛そうに顔を歪めている。
「まだだ! 魂を吸収した瞬間は明確にわかる!」
苦しそうなリアを見ていると、今すぐにでも剣を引き抜いてやりたかったが……
しかし、その時はすぐにやって来た。リアの返り血を浴びた刀身が鈍く白く輝く。
「もういいぞ! アスト!」
ラティアの言葉を聞き、俺はリアから剣を引き抜く。と、同時に、リアはその場に倒れ込む。
「メル! お願いします!」
メルは急いでリアの胸元に向かって治癒魔術を発動する。先程まで血が吹き出ていて傷は、あっと言う間にそれこそ何もなかったかのように元通りになってしまった。
「……ふぅ。もう大丈夫よ。今は気絶しているだけだから」
「そうですか……良かった」
その言葉を聞いてから俺は今一度、吸魂の剣を見る。剣の刀身は白く怪しげに輝いている。
「この中にレイリアの魂が……」
「アスト」
と、そこへラティアが俺に声をかけてくる。
「ラティア……これで大丈夫でしょうか?」
「……あぁ。レイリアの魂は今は剣の中に封じ込められている。我としてはこのまま剣の中に閉じ込めておいてもいいとは思うのだが……それではレイリアを滅ぼしたことにならない」
それからラティアはレイリアの身体の方に顔を向ける。
「……今一度、この剣を奴の身体に刺し……レイリアの身体に魂を戻す必要がある」
そう言われて俺は、ここからが本番なのだと、改めて把握するのであった。
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