第96話 蘇りし邪悪

「……ミラ、何しているんですか?」


 俺とラティアがレイリアの身体に近付いていこうとすると……ミラがレイリアに何かをしているようだった。


「ん? あぁ、終わった?」


「ミラ……リアが大変だったんですよ? まったく……」


「わかっているって。でもヒーラーさんが問題なく治してくれたんでしょ? 見なくてもわかるって」


 ……ミラはミラで、メルに対して信頼していることはわかるのだが……まぁ、ミラがこんな感じなのは今に始まったことではないので、あまりツッコまないことにする。


「それで、ミラ……お前、何をしていたんだ?」


「言ったでしょ? 下準備だって。もちろん、これがまったく無意味な可能性もあるけど……それより、すごいね、この人の身体。意識ないのに勝手に傷も再生しているみたいだし」


 確かに、先程まで剣が刺さっていたはずの身体にはすでに傷はなかった。どうやら、再生能力もかなり高いものらしい。


「……ラティア。本当に……大丈夫なのですか?」


 俺が思わず訊ねると、ラティアは首を横に振る。


「大丈夫なんてことはない。レイリアを蘇らせることがどれだけ危険なことか……だが、やると決めた以上はやるしかない。アスト……やってくれるな?」


 ラティアにそう言われ、俺も納得する。俺達は今禁忌の箱をあけようとしているのかも知れないが、かといってリアの覚悟を無駄にすることはできない。


 俺は……剣を構え、ゆっくりと元と同じように、レイリアの身体に突き刺した。


 刀身が今一度鈍く輝き、まるで剣からエネルギーがレイリアの身体に流れていくように見えた。


「離れろ!」


 ラティアの声と共に俺達はレイリアの周辺から離れる。と、同時に今一度刀身が強く輝き、辺り一帯を包んだ。


「……っ……どうなった?」


 思わず目を瞑ってしまった。そして、ゆっくりと俺は目を開ける。


「ククク……やはりお主ら……阿呆だな」


 ……邪悪という言葉を想像させるような声が聞こえてくる。そして、俺は確認した。


 先程まで横たわっていた身体が立ち上がり……自身の腹に刺さっていた剣を手にして立ち上がって、不気味な笑みを浮かべている。


「とにかく感謝するぞ。妾を……このレイリアを蘇らせてくれてな!」


 そこには金色の髪に死人のような白い肌……そして、血のように真っ赤な瞳をした吸血姫レイリアが立っていたのだった。

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