第78話 これからのこと

「……で、これからどうするわけ?」


 リアの一件があってから数日後、俺達は酒場で向かい合っていた。


 メルの言う通り、これからどうするのかっていうのは……俺も考えていなかった。


 思い返してみれば、今の今までパーティをどうにか安定させるのに必死で長期的な目標なんて考えていなかったからなぁ……


「当然、魔王を倒す! 私は勇者だからな!」


 と、すっかり元の調子を取り戻したリアが高らかない宣言する。


「え~、倒せるの~?」


 ミラがあまり乗り子ではない調子でそう言う。


「倒せるに決まっているだろう! 今でも伝説とされる『救世の勇者』……先代の魔王を倒した勇者はたった一人で魔王を倒したんだぞ! それならば、パーティを率いている私は絶対に今の魔王を倒すことができるだろう?」


 リアは謎の自信でそう言う。先代の魔王をたった一人で倒した勇者……


「まぁ……その勇者は一人でしか、魔王を倒せなかったとも言えますね」


 俺が思わずそう言うとリア、ミラ、メルが一斉に俺のことを見る。


「え……な、なんですか?」


「あ、いや……なんだか、まるで経験者みたいに言うから……」


 リアの言葉に俺は思わず慌てて取り繕う。


「嫌だなぁ……想像して言っただけですよ。だって、そうでしょう? 普通は冒険者はパーティで行動するものなんですから。つまり……その勇者と他のメンバーの間に何かあったんじゃないかな、って……」


「……まぁ、言われてみればそうだな。」


 リアは納得してくれたようだが……ミラもメルも明らかに怪訝そうな表情で俺のことを見ている。


 ……まぁ、二人には転生の腕輪の話もしているし、なんとなく感づかれているんじゃないかって思う。


「よし! では、このパーティで魔王を倒すことができることを願って乾杯しようじゃないか!」


 そう言ってリアはいきなり乾杯の音頭を取る。俺、メル、ミラもそれに付き合うように乾杯をした。


「私も『救世の勇者』のような、立派な勇者になれるよう、頑張るからな!」


 リアのその言葉を聞いていると、喉元まで言葉が出てきそうになる。


 少なくとも転生前の俺救世の勇者は……そんな立派な人物ではなかったよ、と。

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