第72話 本気
「あ、あがぁぁぁ……」
俺の腕に噛み付いたレイリアがものすごい勢いで俺のエネルギーを吸い取っていくのがわかる。
そういえば、吸血鬼ってのは噛み付いた相手からエネルギーを吸い取るモンスターだったな……なんて、ことを呑気に考えながらも、自身が生命の危機にあることをなぜか俺は一歩引いて理解していた。
「馬鹿野郎!」
と、その折に、ライカがまた割って入ってくる。レイリアもさすがに俺から距離を置かなければならなかった。
「フフッ……中々良い味だ。多少は妾の糧になったぞ?」
邪悪に微笑むレイリアとは対照的に、俺の方はエネルギーを結構吸い取られてしまったのか、立っているのがやっというレベルだった。
「さて……そろそろ終わりにしようではないか。妾が本気を出せば今のお前達等一瞬だ」
そう言って先程よりも高い殺気を放つレイリア。ライカもさすがに不味いといった表情をしていた。
……俺が悪いということはわかっている。しかし……リアの身体を……仲間を傷つけることはできない……少なくとも今の俺はそう誓ってこれまで生きてきたのだから。
「おい……戦う気がないならさっさと逃げろ」
ライカが苛立たしげにそう言う。しかし、俺は逃げるつもりもなかった。
「……さぁ、行くぞ」
と、レイリアが構えた……その時だった。
「アスト! 目、瞑って!」
いきなりどこからかそんな声が聞こえてきた。瞬時に俺はそれが誰の声か理解し、目をつぶる。
それと同時に目を瞑っていてもわかる程の強烈な光が、俺達の目の前で炸裂した。
「ぐ、ぐがぁぁぁぁ!!!」
絶叫しているのは……レイリアだ。俺はゆっくりと目を開く。
「こっちに来なさい!」
と、いきなり俺は背中を引っ張られ、そのまま物陰に連れて行かれる。
そこで待っていたのは――
「……ミラ。それに、メルも……」
我がパーティの魔法使いとヒーラーが、不満そうな顔で俺のことを見ていた。
「……あのね、アンタ、私達のこと、忘れてない?」
メルが少し怒りながら俺にそう言う。
「え……いや、てっきりどこかに隠れているんだと思ったので」
「まぁ、隠れていたのは事実なんだけどねぇ~」
ミラは相変わらずの調子で、呑気にそう答える。
「それより……さっきの光は?」
「ウチの魔法『ブラインド』。強烈な光で相手の視界を一定時間奪う……おまけに吸血鬼には光は効果抜群だったみたいだねぇ」
と、俺達は思わず物陰からレイリアのいた方向を見る。
「雑魚共ぉ! 出てこい! こんな小細工をしおって!」
そう言ってレイリアは手当たり次第に辺りを破壊していた。どうやら本当に視界不良の状態らしい。
「……ありがとう、ミラ。助かりました」
「助けたつもりなんてないよ。アスト君に死なれると、アイツのターゲットがこっちに変更されそうで不味いと思ったからねぇ」
「そうですか……申し訳ない」
「謝るなら……さっさと、勇者サマを元に戻してあげるべきじゃない?」
ミラは急に真剣な顔でそう言う。その通りだとは思う。しかし、俺には――
「ちょっと、アンタ」
と、メルが俺のことを呼ぶ。
「はい? メル、なんで――」
俺が返答をし終わる前に、メルは思いっきり俺の頬を叩いた。何をされたのかわからず俺は呆然としてしまう。
「アンタ……あの化け物の身体が、仲間の身体だから傷つけられないって思ってんでしょ?」
「え……そ、それは……」
「……あのねぇ。アンタ、私が死者さえも完璧な形で蘇らせることができるって、忘れてんじゃないの?」
メルはそう言って憮然とした表情で俺を見る。俺は思わずメルのことを見てしまう。
「……つまり、俺にリアのことを……」
「それしかないねぇ。アイツも一度死ねば意識を失うだろう。そうなれば、勇者サマが意識を取り戻すことができるはず……確実ではないけれど、それしかない」
ミラが短く、しかし、はっきりとそう言った。そして、俺の方に鋭い視線を向けてくる。
「君が……勇者サマを助けたいっていうのなら、ね」
俺は今一度、ミラとメルのことを見る。ふたりとも……本気のようだった。
それならば……俺も本気を出さないといけない。
「……分かった。ミラ、メル……力を貸してくれ」
こうして……俺達は我らがパーティの勇者を取り戻すため、「本気」を出すことにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます