第71話 初心

 と、次の瞬間、瞬時にレイリアはまたしても姿を消した。


「おい! 準備しねぇと死ぬぞ!」


 ライカにそう言われ、俺は右腕の腕輪に祈る。しかし……どうやって祈る?


 俺がもし全身全霊を以て祈ってしまったら……レイリアは滅ぼせるかもしれない。


 しかし、リアはどうなる? リアの身体は、俺の全身全霊に耐えられるのか?


 そう考えてしまうと……腕輪は呼応してくれなかった。


「え……な、なんで……」


 と、俺が驚いていると、またしても、レイリアが直ぐ側に来ていて俺の腹部めがけて手刀を放ってきた。


「馬鹿野郎!」


 すんでのところで、ライカがまたしても横からレイリアを殴りつける。レイリアはまたしても吹っ飛んでいき、俺はなんとか生きながらえた。しかし――


「お前、死にたいのか!?」


 ライカに胸ぐらを掴まれる。


「だ、だけど……俺は……」


「アイツが仲間の身体だから傷つけられねぇっていうのか? それじゃあ、お前はこのままアイツになぶり殺しにされたいっていうのかよ!?」


 ……俺は何も答えられなかった。どうすればいい……俺はまた仲間を……傷つけるのか?


「う、うぅ……い、痛い……」


 と、弱々しい声が聞こえてきた。俺は声の方に顔を向ける。


「い、今の声……」


 俺はライカを突き飛ばして、弱々しい声が聞こえた方向に近付いていく。


「あ、アスト……どうなっているんだ……?」


 と、起き上がってこちらを見ているレイリアは……傷だらけだった。


「え……り……リアなのですか?」


「な、なんだ……? アスト、何を言っているんだ……? それより……なぜかかなりダメージを受けているんだ……助けてくれ……」


 もしかして、ライカの攻撃でレイリアの支配権が弱まり、リアの意識が戻ったのか? 俺は思わずリアの方に駆け寄っていってしまう。


「り、リア! もう大丈夫です! さぁ、早く手当を……」


 俺がふらついているリアの肩を支えようとすると、リアはいきなり俺のその腕を掴んだ。


「え……リア……?」


「馬鹿野郎! どう見ても演技だろうが!」


 背後からライカの怒声が聞こえる。俺は今一度リアの方に顔を向ける。


「……フフフ……お主、案外、初心だな?」


 そう言うとリアは……いや、レイリアはニヤリと微笑んで口元に鋭い牙を見せつける。


「なっ……レ、レイリア……!」


 俺はとんだ間抜けだった……そう思った時には遅かった。レイリアは掴んだままの俺の腕に思いっきり噛み付いてきたのだった。

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