第68話 もう一人の彼女
「り……リア……?」
アッシュをふっとばした後には、リア一人だけが立っていた。
リアは剣を持っておらず、素手のままで立っている。
「……フッ。ようやく出てくることができたか」
そう言ってリアは周囲を見回しているようだった。出てくる……? 一体何を言っているんだ?
なんというか……明らかに雰囲気が違う。リアではあるのだが、リアではない……俺にはそう思えてしまった。
「ちょ、ちょっと……あの子、どうしちゃったの?」
メルも不安そうにリアの事を見ている。俺も一体何が起こっているのか理解できていなかった。
「お、おい!」
と、しばらくしてから怒りの声が聞こえてきた。見ると……アッシュがいつのまにか剣を構えてリアに対峙している。
「て、テメェ……一体何しやがった……?」
アッシュがそう言ってもリアはまるで聞いていない様子である。その態度にふっとばされたことも相俟ってか、アッシュは完全に怒ってしまったようだった。
「て、てメェ! ふざけんじゃねぇぞ!」
そう言ってリアに斬りかかっていく。リアはようやくアッシュの方に顔を向けるが、アッシュの斬撃を躱すことはできない……
「リア!」
思わず俺は叫んでしまったが……その次の瞬間に俺が見たのは……信じられない光景だった。
「な……なんで……?」
アッシュは驚きの顔でリアを見ている。
「当たり前だ。お主のような雑魚の剣が、妾に届くわけがなかろう」
リアは……右手だけでアッシュの剣を受け止めていた。そして、そのまま刀身を強く握ると……アッシュの剣は一瞬で砕けてしまった。
「ひ、ひぃっ……!?」
剣を砕かれたアッシュはそのまま尻もちをついてその場に倒れ込んでしまう。
「お主のような雑魚を妾が食するのは不本意ではあるが……目覚めたばかりだ。腹の足しにはなろう」
そう言ってリアはニヤリと微笑む。その微笑んだ口元には……明確に鋭い牙を確認することができた。
「あ、あの子……まさか……」
メルもそれを確認することができたようだった。俺はそして、次の瞬間に理解する。
このままではアッシュが殺される、と。
リアが右手を振り上げる。その指先には鋭い爪が確認できる。
「妾の贄となるが良い、愚かな人間め」
右手が振り下ろされる……その前に、俺はなんとかアッシュとリアの間に入り、剣でリアの右腕の一撃を止めることができた。
しかし……とんでもない重い一撃だ。人間の腕の力から発せられる攻撃とは思えない……
「ひっ……あ、アスト……」
「アッシュ! 早く逃げて下さい!」
「だ、だけど……」
「早く!」
俺が叫ぶと、アッシュは慌てて立ち上がり、そのまま走っていった。
「ほぉ……妾の食事を邪魔するとは、その行為の意味、わかっているのだろうな? アストよ」
「……リア。どういうことですか? 一体どうして……」
「……どういうこと? 見ての通りだ、アスト。これが妾の真の力だ」
そう言ってリアは牙を見せながら微笑む。
「……違う……アナタは……リアではない」
「ククク……そうだよな? 何の力もない足手まといで弱くて仕方のない勇者……それがお主の仲間のリア・アーカルドだものな?」
すると、リアは……リアとは思えないくらいに妖艶に微笑む。
その表情は明らかに俺の知っている無邪気なリアとは全く別の人物の表情だった。
「では、アナタは……?」
「妾は……レイリア・アーカルド。アーカルドの始祖にして……『真なる吸血姫』だ」
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