第31話 慈悲無き一撃

「フッ……逃げずに来たようだな!」


 結局、次の日リアとメルはいつもの狩場にて対峙していた。


 リアはすでに剣を構えているし、メルは……装備が変わっている。


 昨日までのヒーラー専用の杖ではなく、鉄製のメイスだ。メイスはヒーラーも使える物理攻撃力のある武器だ。


 なるほど……確かに勇者ではあるリアと戦うには攻撃力のあるメイスに装備を変えたほうがいいだろう。


「そっちこそ、逃げるなら今のうちだと思うけど?」


 メルはあくまでリアを煽る気らしい。リアは今にもメルに襲いかかっていきそうだった。


「……アスト! お前が審判だ!」


「え……あ、はいはい……と、とりあえず、お互いあまり怪我をいないようにしてくれると嬉しいんですが――」


「開始の合図をしろ!」


 リアにそう言われて俺は渋々、手を上げた。それと同時に決闘が始まったようだった。


「やぁぁぁぁぁ!!!」


 リアが勢いよく剣を振りかぶり、メルに斬りかかる……って、おいおい、リアは今俺が行ったことを聞いていたのか?


 メルは微動だにしない……それどころか、不敵な笑みを浮かべている。


 危ない、と思った瞬間、メルはリアの剣を簡単に避けた。


「くそっ……!」


 リアは今度は剣をメルに向けて振り払う。しかし、メルはそれをわざとらしく……いや、明らかにわざとギリギリのところで躱している。


「どうしたの? まさか、手加減してくれてるわけ?」


 剣を振り回すのに疲れたリアに、メルは完全に馬鹿にしきった調子でそう言う。リアは完全に怒ってしまっているのかがむしゃらに剣を振ってメルに向かっていった。


 しかし、その剣筋を完全に見切っていたようでメルは……自身の持っていたメイスで、リアの剣戟を受け止めたのだ。


「なっ……なんで……!?」


「なんで? アンタが……弱いからよ」


 そう言ってそのままメルはリアの剣を弾くと、無防備担っている状態のリアの腹部にメイスの一撃を打ち込んだ。


「うぐっ……!」


 鎧の上からとは言え、メイスの一撃……リアはそのまま地面に座り込んでしまった。


「わかった? アンタは雑魚なの。それを自覚してよね」


 そう言ってメルはリアに背中を向けて俺の方を見る。


「終わりでしょ? さぁ、用事があるのはアンタのだけだから、さっさとここから――」


「ま、まだ終わってない!」


 と、メルが話している最中に、リアが叫ぶ。リアはなんとか剣を支えにして立ち上がった。


「リア……もうやめたほうが……」


「うるさい! 私は……誇り高きアーカルド家の勇者なのだ……こんなところで――」


 と、リアが再度戦おうとする意志を見せたその時だった。


 メルが思いっきりメイスを振り上げ、リアの頭部に振り下ろす。


「リア!」


 思わず俺も飛び出しそうになってしまったが……メルはリアの目と鼻の先の距離でメイスを止めていた。


「終わり、よね?」


 メルがそう言うと同時に、リアはそのままその場に座り込んでしまった。


「リア……大丈夫ですか?」


 思わず俺が駆け寄ると、リアは……無言のままで、目にうっすらと涙を浮かべていた。


「アイツ……今、私のこと、本気で……」


 恐怖しながらそう言うリア。俺も正直、今メルが本気でリアの頭をメイスで叩き潰そうとしていると思った……そうとしか見えなかったのだ。


「……間抜けな勇者を見ていると気分が悪くなってきたわ。用事、また明日でいいから」


 そう言って、メルはそのまま去っていってしまった。それから、リアが落ち着くまで俺はリアの近くに寄り添ったのだった。

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