第9話 頑丈な彼女

「リア! だ、大丈夫か!?」


 流石に俺も慌ててしまった。俺の最悪な予想が見事に的中してしまったのだから。


 リアはヨロヨロとふらつきながら俺の方に歩いてくる。


「な、何があった? なんで、こんな……!」


「フッ……何って……モンスターを倒しただけだ……特になにもない……それに私は頑丈だからな……うっ……!」


 リアは苦しそうに顔をしかめる。


「喋らなくていいから! とにかく! 町まで戻ろう!」


 俺はそのままリアを背負って、町への道を急いだ。途中までリアは意識があったようだったが、しばらくすると気を失ってしまったようだった。


 勘弁してくれ……パーティ結成初日から勇者役がいなくなってしまうなんて洒落にならない。


 俺は慌ててギルドに駆け込んだ。ギルドに待機している回復術士に事情を話すと、快く処置をしてくれた。


 そして、一時間程度、俺はギルドで待機していた。


「あれ? アストさんじゃないですか」


 と、受付嬢が不思議そうな顔で俺に声をかけてくる。


「あ、あぁ……どうも」


「どうしたんです? さっき、リアさんと狩場に行ったはずでは?」


「……そのリアがすごいダメージを負ってしまったんだ。あそこは雑魚モンスターしか出ないはずなのに……」


 俺がそう言うと受付嬢はしばらく黙っていたが、なぜか気まずそうに顔を反らした。


「あー……それはお気の毒でしたね……で、でも! リアさんなら大丈夫だと思いますよ?」


「……まぁ、そうだといいんだけど」


 と、俺と受付嬢が話している最中のことであった。


「おーい! アスト!」


 元気そうな声が聞こえてきた。見ると、元気そうにリアが俺に向かって手を振ってこちらへやってくる。


「リア! 良かった!」


 思わず俺もリアの方に駆け寄ってしまった。


「お、おいおい……なんだそんな……大体大げさだぞ? 大した怪我ではなかっただろう?」


「いやいや、結構ダメージが大きそうだったので……大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。言っただろう? 私は頑丈なんだ。怪我なんてすぐ治るさ」


「……ホントに驚きました」


 と、後からやってきたのは、先程回復を頼んだ術士だった。


「あ……どうも。ありがとうございました」


 俺は反射的にお辞儀をしてしまう。


「いえいえ。私はほとんど何もしていません。ほとんど……彼女の自然治癒力によるものです」


 そう言われて俺は今一度リアの方を見る。確かにリアは……既にほとんど傷が治っているようだった。


 というより、まるで最初から怪我なんてしていなかったように見える。


「……なんだ。あまりジロジロ見ないでくれ」


「あ、あぁ……ごめんなさい」


「……まぁ、私の方こそ、申し訳なかったな。初めてのアストにとっては驚きだったろうからな。でも、そのうち慣れるさ」


 そのうち慣れるって……いやいや、こんなことは毎回あってもらっては困る。


「リア……今度、もしヤバそうな敵にあったら、一度俺の方に戻ってきてくださいね」


「ヤバそうな敵? どういうことだ?」


「だって……今日だって、あの狩場に偶然強いモンスターが出てきたんでしょう? だから、あんなにダメージを――」


「いや、私が倒していたのはスライムとゴブリンだけだぞ」


 ……へ?


 俺は思わずそんな声を漏らしてしまった。しかし、リアは至極真面目な顔で俺のことを見ている。


「え……じゃ、じゃあ……あのダメージは……」


「もちろん、ゴブリンやスライムから受けたダメージだな。アイツら、やたら私の方にむかってくるから、私もヤケになってしまってな……気がつけば結構ダメージを受けていたわけだ!」


 自信満々にそう言うリア。ということは……リアは自分よりレベルの低い雑魚モンスターにボコボコにされてしまったということで……


 俺は思わず受付嬢の方を見てしまう。受付嬢は申し訳無さそうに苦笑いをしていた。


 俺はこの時リアが俺のパーティに参加した理由をようやく理解したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る