おぞましい部屋(4)
それにしても、この先の部屋にいるならば今のドタバタに気が付かないものでしょうか?
────コンコン
「セカイさん、いますか?」
部屋のドアをノックしてみましたが反応がありません。セカイさんはいないのでしょうか。無駄足は勘弁願いたいです。
────コンコン
「セカイさん。セカイさん、いませんか?」
「え? ト、トワ?」
あ、いるじゃないですか。少し戸惑っているような感じでしたが、作業に集中していて気が付かなかったのでしょうか?
「セカイさん、開けますよ」
「ち、ちょっと待ってトワ……」
何か慌てているようですが、とにかくこの不気味な空間に一人でいる事から逃れたかった私はそのままドアを開けてしまいました。
「あ…………」
目の前には、恐らくは転んだのでしょうか、白い大きな布の上に顔面から突っ伏しているセカイさんがいました。よく見るとその白い布は古びたベッドのシーツのようです。
「いったい何をやっているんですか……」
更にセカイさんを中心に多くの衣服が散乱しています。
よく見ると見覚えのある物ばかりです。
「これ、昔私が着ていた服ですよね?」
シーツもどうやら昔私が使っていた物みたいです。
「もしかして、不要になった物を一時的にしまっておいて今日ゴミとしてまとめていたんですか? それなら今からでも、私も手伝いますよ」
そう言って私は散乱している古着を拾い集めようとしましたが。
「ま、待って! 捨てちゃダメ!!」
勢いよく起き上がったセカイさんが慌てて制しました。
「どうしてですか? あ、もしかして古着屋に売るとかですか?」
「何を言ってるのトワ! この服をどうして他の人に譲らないといけないの!?」
何かセカイさんが興奮し始めました。
「え? 違うんですか?」
「違うわよ! この服達は、あなたの温もりや匂いを含んでいる物なのよ!」
「え?」
「そんな至福を他人に与えるなんてっ……」
セカイさんが何を言っているのか私には全く理解出来ませんでしたが、そんな事も忘れるような衝撃的な出来事が目の前に現れました。
「セカイさん……その手に握られている物はなんですか……」
必死になりすぎて気が付いていなかったのか、ギュッと握られたその両手には、
「え? こ、これは、トワの柔肌を優しく包み込んでいた白い布で……」
「それ、私が捨てたはずのパンツですよね!」
私が床に散乱した服を荒っぽくどかしていくと、下から過去に廃棄したはずの私の下着が大量に出てきました。
「………………」
更に周りを見渡すと棚などには、やはり汚れが酷くなったので捨てたはずの私のマグカップ、使い古しの歯ブラシや箸などが綺麗に整理されて置かれていました。
「………………」
空になったペットボトル、アイスキャンディーの棒などもあります。まさか、あれも私に関係のある物?
「セカイさん。何なんですか? これは……」
「こ、ここにある物は、大事な思い出の品物でね……」
目が泳いでます。何かやましい事がありそうです。
「こんなゴミを取って置いてどうするんですか」
腕を振り回し、部屋にある全ての廃棄物を指さします。
すると、挙動不審が一転、セカイさんは再びエキサイトし始めました。
「ゴミなんてとんでもない。この部屋にある物は全部私の宝物なんだから!」
「これの何が宝物なんですか? そもそも、その宝物を集めてどうするんですか?」
「それはもう、これでトワの全てを感じ取ってね……」
くねくねと悶えるように身体を動かしセカイさん陶酔しています。
正直ちょっと気味が悪いです。
「……で、どのようにですか?」
「スリスリ」
「他には?」
「クンクン」
「他にも?」
「ペロペロ」
「……………………」
「……ハッ!」
セカイさんの発言にドン引きしている私に気づいたのか、セカイさんは正気に戻り、今度は脂汗をダラダラと流し出しました。
「え……と、トワ?」
私は倉庫対策として、もしもの時のためにと用意をしていた小瓶を取り出し蓋を開けました。
「それって蚊取りオーブよね? でも少し大きいような……」
私の前には、瓶から出たと同時にバレーボールぐらいまで大きくなった光の球体が一つ浮かんでいます。
そして散乱している不要品を指さして言いました。
「処分しなさい!」
それを合図に光る球体はパッ○マンみたいに口を開け、その部屋にある元私の私物を食べ始めました。
「ああ~~っ! やめて~~。私の至福のコレクションが~~っ!」
「これは『蚊取りオーブ』を更に改良、強化して、あらゆる物を食べてしまう事が出来る『超蚊取りオーブ』というアイテムです!」
「もう、『蚊取り』が関係なくなってるわよ~」
半泣きになり、超蚊取りオーブを追いかけるセカイさん。
あんなに必死な姿を見ると少し可哀想な気もしますが……。
「トワのだし汁が染み込んだ大事なものなのにぃ~~」
「廃棄ですっ!!」
気の迷いでした。誰がだし汁ですかっ。
「蚊取りオーブに食べられるくらいなら、せめて私が食べ……」
「廃棄っ!」
セカイさんの悲痛な叫びと裏腹にどんどん食べられ無くなっていく私の元私物。全てが無くなるまでそれは続きました。やめませんでした。
確かに、ある意味この部屋は危険な部屋でした。
真におぞましい部屋は倉庫ではなく、こっちだったんですね。
トワのセカイ 小桜 天那 @y_amasaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。トワのセカイの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます