第6話 おぞましい部屋

おぞましい部屋(1)

「トワ。明日なんだけどお店留守にしてもいいかしら?」

 上空に薄い雲が僅かに見えるくらいの気持ちの良い晴天の昼下がり、今日も暇な店番をしている私にセカイさんが声をかけてきました。

「いいですけど、何か用でもあるんですか?」

 食材や私的な買い物も含め、一時的に留守にする事はよくあるのですが、一日中というのは珍しいです。

「う~んとね、実は倉庫の中を少し整理したくてね。時間もかかりそうだから……」

「ああ……はい……」

 あの混沌カオス空間スペースの中ですか。

「別に構いませんよ。出来れば危ない物は厳重に保管してもらえれば……」

 不思議な物からおぞましい物まで色々ありますからね。魔族が悲鳴をあげた場所ですからね。

「なるべく善処するわね」

 苦笑いをするセカイさん。なるべくというか、確実に怖い物は封印なりしてほしいのですが……。

 まさか、「なるべく」としか言わざるを得ないくらい多くのそんな物があるのですか?

 想像をして身震いする私にセカイさんは更に追い討ちをかけてきました。

「トワ、倉庫の一番奥にある部屋は開けた事ないわよね?」

「……ないですけど?」

「よかった~。あの中はね、特に危険な物を置いてあるのよ」

「………………」

 あれ以上危ない物が隠されているんですか。何を持ち込んでいるんですかセカイさん。

「……わかりました。くれぐれも厳重にお願いします」

「任せて、トワ!」

 親指を立て、清々しい笑顔で答えるセカイさん。そんな混沌カオスな場所の整理でなんでそんな嬉しそうなんですか。

 とにかくそんな恐ろしい場所には出来れば関わりたくないのでセカイさんに任せるしかないです。



 次の日。昨日に引き続き穏やかな昼前。平日の午前ともあって、わかりやすいほど店内には誰もいません。

 セカイさんは昨日言っていた通り今日は朝からお店にはいません。今頃あの不気味な倉庫の中で作業しているのでしょう。一人でよく平気だなと思います。

 暇すぎて欠伸が出そうになったその時、カラ~ンとドアのベルがなり一組の老夫婦が入ってきました。

「いらっしゃいませ」

「こんにちは。トワちゃん」

 穏やかな笑顔でお婆さんが挨拶をしてくれます。この二人は最近新たに常連さんになってくれた方で、お店にもよく顔を出してくれます。

「何回来ても、このふぁんし~な雰囲気はワシには場違いな気がするなあ」

 お爺さんがはにかんで私を見ます。この方もいつも柔らかな空気に包まれた優しそうな人です。

「この店はどんな方でもオッケーですので気になさる事はありませんよ。店を破壊する可能性のある人じゃなければ……」

「え? 破壊?」

「あ、いえ……気にしないで下さい」

 最近、そうなるかとヒヤヒヤしたばかりだったので……。

「それで今日は『蚊取りオーブ』が欲しいのだけど、あるかしら?」

「ハイ、ありますよ」

 私はレジの前から離れ商品が置いてある棚から『蚊取りオーブ』が入っている小瓶を一つ持ってきました。

 その小瓶を手に取ると、お婆さんが笑顔で言いました。

「このオーブ。虫を取ってくれて殺虫剤みたいに嫌な臭いも無いし人には無害な上、空中を漂ってる姿が和むのよね」

「ありがとうございます」

 自分が作ったものが役に立ってるのだと思うと素直に嬉しいです。

 この『蚊取りオーブ』も以前のものから改良を加え、瓶の中にいる時から既にオーブの形をしていて、数も一つに減らしました。その代わり、大きさはゴルフボールより一回り大きいぐらいのサイズに変更し、効果もだいたい一ヶ月ほどに延びました。

 虫を補食する姿は相変わらずパッ○マンですけどね……。

「それじゃ、またこれを頂こうかしら」

「七百円になります」

 更に百円安くなりました。お買い得です。

「ふむ? こっちに変わった物があるが」

 別の棚に陳列してあった仏像を、お爺さんはまじまじと見ていました。

「あ、それはアミダニョらいという新商品です」

 結局、商品として作ってしまいました。

 鎌倉の大仏のような座像で、高さが十五センチぐらいの仏像型マジックアイテムです。

「これは防犯アイテムでして、危険な人物を発見すると自動的に発動して退治してくれます」

 ────南無サンダーで。

「何だかよくわからんが面白そうな品物だな。一つ買っていこうか」

 お爺さんがアミダニョらいを持ってきて丁寧にカウンターに置きました。

「ありがとうございます。三千円になります。それから、これは防犯用なので門や玄関などに置く事をおすすめします。後、効果は一回きりで発動後は砕けてしまうのでご注意下さい」

「うむ、わかったよ」

 お爺さんが大事そうに品物を両手で抱えると、二人一緒にこちらを柔らかな笑顔で見て言いました。

「また、来ますね」

「ありがとうございました」

 そうして二人の老夫婦は暖かな空気を店内にもたらして帰って行きました。

 このような良心的なお客さんのためにも、もっと良い製品を作っていきたいものです。

 パッ○マン、アミダニョらい、頑張って下さい。

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